53.「もどかしい距離感」
「ごめん、外の空気吸ってくる」
「あっ、お嬢……!」
アルバートへの対応に疲れたので、後はゴードンに任せて廊下に出た。
息してないのに何言ってんだろうとはちょっと思ったけど、さすがに気分転換したくて……
「お、お嬢……! 待ってください!」
……と、さっきまではぎこちなく狼狽えるだけだったゴードンが、背後からわたしを追いかけてくる。振り返ると、真剣な表情が視界に入った。
え、な、なに……? どうしてそんなに顔がいいの……?
「アルバートは……?」
「エドマンドに任せたッス。悔しいけど、あいつのがよっぽど『怪異』として上なんで……」
まあ、それはそう。エドマンドに任せると解決策が暴力一択になりそうだけど、相手はアルバートだし……
「……俺がずっと半端に逃げてたせいで、ツラい思いばっかさせてきたって……俺だって、ちょっとは分かってるつもりッス」
ふっと目線を伏せ、拳を握り締めるゴードン。
こ、これは……!!!
付き合ってるか付き合ってないのかよくわからない絶妙に距離感が近い拗らせ主従から抜け出す時が、ついに……!?
えーー、えーーーーどうしよう。心の準備が全然できてない……!
「お嬢は信じてくれないかもだけど……俺だって、お嬢のこと……」
大丈夫! 知ってる!
チェルシーは疑り深くて信じきれなくて試し行動ばっかりだったけど、前世の時に山ほど聞いた!
もったいないなあ……なんで当時はゴーチェル地雷だったんだろ……地雷じゃなかったらもっともっと記憶に刻み付けてたのに……いや今でもわたし以外に惚れるゴードンは地雷だけどさ……
「す……、す…………」
ゴードンは耳まで真っ赤にしながら、肝心な一言が口に出せないでいる。動揺のせいか、首の方もぐらぐらと落ち着きがない。
ちょっとゴードン! そこは頑張ってよゴードン!!
し、仕方ない。ここは、わたしから……!
「あ、ちょっと良いかい? ヒヒッ」
「うおぁああっ!?」
ゴードンの背後からニコラスが現れ、不安定だった首をひょいっと持ち上げた。
胴体の方が首を取り返そうと、わたわたと手を伸ばす。
「ニコラス、空気読んで」
「読んだ上で現れたに決まってるだろう? ヒヒヒヒッ」
この邪神、後で絶対ぶっ飛ばす。
「ヒヒヒッ、キミにもわかってるんじゃないのかい? アルバートへの理解は深まったけど、彼の『怪異』としての核は強固なものだ。こんなところでイチャイチャしてる場合じゃないよねぇ?」
うっ。
そう言われると、ぐうの音も出ない。
「おい……さっさと俺の首返せよコラ」
「さてさてどうする? 『怪異喰』はもうすぐそこまで来ているかもしれないよ?」
「なぁ、話聞いてんのか??」
ニコラスは片手でゴードンの首を持ち上げ、首なし胴体から伸ばされた手をひょいひょいと避けながら、ご機嫌な様子でわたしのことまでおちょくってくる。
……悔しいけど、言っていることは事実だ。
アルバートに関しては考えるだけで頭が痛いけど、エドマンドやレイラは少しずつでも前向きになってくれている。……でも、このままじゃ足りない。
このままだと、アルバートが「怪異喰」に捕食され……んん? あれ、それって、何か困るのかな……?
「ヒヒッ、ちなみに言っておくと、レベルの高い『怪異』を喰らうと『怪異喰』ももちろんレベルアップするし、キミたちの手には負えなくなるよ」
「わ、わかってるし……!」
くっそー、思考を読まれた……。
うーん、参った! これからどうすればいいの!?




