36.「ニコラス先生のBGM実演講座」
「まあまあ、ひとまずこっちを見てごらん? ヒヒヒッ」
ニコラスの声に、ゴードンと二人揃ってそちらへと振り返る。
相変わらずバイオリンを構えたまま、ニコラスはニヤニヤと企むような笑みを浮かべていた。
「……さっきから何してるの?」
私の問いに、ニコラスは不敵に笑ったまま答える。
「ヒヒッ、『実演』した方が早いからねぇ」
……実演?
わたしとゴードンが首を捻っていると、ニコラスはおもむろに腕を動かし、重厚な音楽を奏で始めた。そこまでテンポは激しくないけれど不安定で、どこか緊張感のある旋律……。
「『これ』を聴いて、どう感じる?」
演奏しながら、ニコラスはわたし達に問うてくる。
「……? ちょっと不穏な感じ……? ヒリヒリしてくる感じもあるね」
「……俺も、お嬢とだいたい同じ感想ッス」
「ヒヒッ、じゃあ、『これ』は?」
途端に曲調がガラリと変わり、間の抜けたポップな音楽が流れ始める。
なんかパフッとかピヨッみたいな効果音も聞こえてくるけど、絶対バイオリンから出る音じゃないよねそれ。
「気が抜けるなあ……。でも、なんか楽しくなってくるかも」
「なんかアホっぽい曲ッスね」
「ヒヒヒッ、じゃあ……今の二つの曲が、さっきの会議中に流れてたらどう感じる?」
灰色の目が、わたしとゴードンを交互に見つめる。
「想像してごらん? 一つ目の曲と二つ目の曲で、同じ感想になるかい?」
……なるほどね。
「音楽」は場の雰囲気を左右する。状況がまったく同じでも、BGMによって「暗い状況か」「楽しい状況か」はまるっきり変わってしまう。
そうそう。「事実が同じでも解釈が変わる」……そういうことを伝えたかったんだよ。これでゴードンもわかってくれる……かな……?
「……なんか、なんとなく分かったッス」
よっしゃあ! 伝わったー!
「つまり……ええと……あれ、言葉まとまんねぇな。……と、とにかく、理屈は頭に入ったと思うッス!!!」
「待って、本当に大丈夫???」
わたしの指摘に、ゴードンはわずかに目を泳がせて「……たぶん……」と答える。
うう……同志が増えたはずなのに、先行きが不安すぎるんですけど……!?




