表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/83

13.「レディ・ナイトメア」

「まあ……そこまで言うなら、今日のところは引き下がっておこうか」


 アルバートは穏やかな笑みを浮かべ、あくまで紳士然とした態度で語る。

「今日のところは」……ってことは、また口説きに来るつもりなの、こいつ……


「でも……本当は、君だって理解しているはずだよ」


 (あお)い瞳がすっと細められる。

 底知れない渇望(かつぼう)を宿した、(くら)い瞳。

 ……ああ。その色合いには、嫌というほど見覚えがある。


「君と、僕は同類だ」


 彼は被害者を拉致(らち)して殺害した後、「食べ残し」をわざと目に付く場所に(さら)し、挑発的な文言を現場に残した。

 必ず特定の箇所が欠損した死体と、現場に残された奇妙な文章は、連日世間を騒がせることとなる。

 最期は警官に取り囲まれ、壮絶(そうぜつ)な焼身自殺を遂げた稀代(きだい)の殺人鬼、アルバート・ジャック。


 手口は違う。求めたものも違う。性別も、享年も、生きた時代も、何もかもが違う。


 ……けれど。


 たった一つだけ、彼とチェルシー(わたし)には共通項がある。

 アルバートは、娼婦であった生母および娼館の支配人から、苛烈(かれつ)な虐待を受けていた。




 ***




「レディ・ナイトメア」の私室の前に立つ。

 一歩足を踏み入れれば、壮観(そうかん)な「コレクション」がすぐに目に入るはずだ。

 ……ゴードンは、そろそろ手入れを終えた頃かな。


 中には入らず、(きびす)を返した。

 目を背けていた影が、わたしの頭の中で(わら)う。


 ──愚かなこと


 ……今はまだ、向き合う時じゃない。


 ──逃げられませんわよ


 頭の中で、嘲笑が響く。


 ──悪夢(ナイトメア)からは、逃げられませんわ

 わたくしも、貴女も──


「ヒヒッ。どうしたどうした? 入ればいいじゃないか」


 背後からの声に、ハッと振り返る。

 半透明の男が、ゆらゆらと(たたず)んでいた。


「怖い? それとも、()()()()()()?」

「……何の、ことですの」


「灰色の音楽家」は、グレーの目を細め、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。


「ヒヒヒッ……キミは、『レディ・ナイトメア』だ。それ以外の何者でもないのさ」


 彼が手を(かざ)すと、どこからともなく宙に浮いたバイオリンが現れる。

 そのまま()()使()()()()()()、「灰色の音楽家」は不気味な旋律を奏で始めた。


過去(むかし)も、未来(これから)も。……現在(いま)もねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ