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再臨のラグナロク  作者: ちさん
一章 神の災涙
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第9話 源素と神技

(ほのお)を使えるようになった後、その力を掌握するための練習の日々を過ごすようになった。

もちろん、毎日シアの授業も欠かさずに受けている。


そして今日はーー


神技(しんぎ)?」

「そうじゃ」


朝、いつも通りに森の訓練場で、福徳の指導を受けている。先日俺の(ほのお)で燃やされた森は、もう戻通りになった。今の世界は、生物の成長が早いと授業にあったな。


今日は舞衣だけが俺と一緒に来てるが、昨日まではライもいた。


(えん)は村の生活に、大分慣れた様子じゃのう、もうお前さん二人で見守る必要はないと思うじゃが?』


と、福徳がシアに提案したそうだ。


元々、村を主に管理してるのは、シア、福徳、ライ、舞衣の四人で、シアは村全体の事、福徳は農作業、ライと舞衣は魔物の狩猟。

そして、シア以外の三人の共通の仕事は、遠征ーー村の周りを探索して、生存者の確認と、村人が自由に移動できる場所を作る、という内容だ。

さすがにずっと村の中に籠ってると、メンタルがもったいないという心配があると、シアの配慮だ。


彼らがいない時だけ、代理の人が代わりにそれらの事務をこなす、という流れ。


しかし俺が目覚めた時から、親友の面倒を見るばかりに、ライと舞衣はすっかり事務を投げだすことになった。本人たちは寧ろ喜んでいることはシアには内緒。


神意じゃない人に、魔物の狩猟はリスクが高い。天聖族の聖術による武器の強化があるとはいえ、それで人間と戦闘専門じゃない天聖族だと、万が一強い魔物と出くわした時、対処できない。


だから基本、ライと舞衣が事前に確認した安全な場所だけ狩りをする、という決まりだが、魔物も無限にいる訳じゃない。

ずっと同じ所で狩り続けると、魔物もいなくなり、その狩場はしばらく使えないことになる。そうなると、新しい場所を探す必要が出る。そういう時こそ、神意である福徳、そしてライと舞衣たちの活躍の場面だ。


…そういう事情があって、長い時間仕事を放置したライと舞衣は、福徳に暗に『仕事しろ!』と言われた訳だ。二人は面倒くさがってだ。


でも、シアはやはり俺のことを気にしてるらしく、結局ライと舞衣のどちら一人だけ、俺について行動するようにと、折衷した。


源素(げんそ)については、もう勉強したじゃろ?」

「ああ、自然に存在する、あらゆる力の源だろう?」


学んだことを思い出す。

源素は、世界創生の時から、世界中に存在するもの。それは空気や水、大地などと同じ、自然…延いては()の一部。

その源素を、生物が生まれた時から体の中に蓄えてる状態だと、それを宿ってる生物によって、呼び方が『聖力』か『魔力』に変わる。


「そうじゃ。基本の源素は、自然のサイクルを現わす四大源素ーー『地』『水』『火』『風』。その上に、命の誕生を示す『光』と『闇』、最後は均衡を保つ『()』という、特殊の源素じゃ。

天聖族は光の源素を取り込み、体内にある聖力と融合させ、そして聖術として発動する。それで人を癒したり、建物をより強固したりなど、色々できるじゃのう。それと引き換えに、魔星族は…どうじゃ?」


福徳はいきなり質問を投げてきた。小テストだな。俺は慌てずに、シアが教えてくれたことをそのまま伝えた。


「魔星族は、闇の源素を魔力と合わせ、魔法として使う。ただ魔星族は本質上、破壊と略奪を好む種族だから、魔法は、攻撃用のものが多い。そしてそのどちらでもない、人間界で生まれた神意は、『神能』という特殊能力を使う形だ。福徳さんみたいに」


シアが天聖族の神意だから、基本は神能ではなく、聖術がメインになるということも聞いた。


「そう、ワシがそうじゃ。よく答えたじゃの。授業を聞き流してなかったじゃな」

「まあ、いい先生がいるからだ」


シアがこの世界について何も知らない、白紙同然の俺でも分かり易く解説してくれた。感謝せねば。


「話続くのじゃが…例えば、火の聖術は、火の源素と光の源素のコンビネーションじゃ。火の魔法はその逆じゃ」

「ああ、それもシアから聞いた」

「では、神技の話に戻るじゃのう。神技は簡単に説明すると、そのコンビネーションのさらに上の(わざ)じゃ。二つ以上の源素をバランスよく調整し、最後に自らの魂の力ーー『思い』を乗せて、爆発の威力を放つ、必殺の技じゃ」

「思い…?」


初めて聞いた話に、俺はきょとんとした。


「前、神話時代は、思いと信仰が強いという話があったじゃろう?」

「ああ、そのために想体も出やすいと」


数日前に出会った、女性の形をした、謎の霧を思い出して、背筋が寒さを感じた。


「それはすべて、源素の量が多いからじゃ。源素、すなわち神の因子が、星の全体に満ちてる今、自然の力だけではなく、あらゆる物の魂にも作用するのじゃ。具体的にどういうものなのを、今から見せるのじゃ」


福徳は、俺の前に少し歩き、杖を地に軽く突いた。瞬きもしない内に、彼の前に、地面が小さく裂かれた後に爆発した。


「ワシの神能は、土を操る能力じゃ。枯れた植物の活気を取り戻せたのも、こうやって簡単に大地を割れたのも、そのお陰じゃ」

「おおー」

「感心するでない。お前さんも火を使えるじゃろう」

「それはそうだ」

「で、神技はどういうものていうじゃっと」


福徳は再び杖を握った。しかし今度は地面をそのまま叩くではなく、彼は杖を腰ぐらいの高さに上げ、そして力強く地面に突くと同時に、


地神爆(ガイア・ブレイク)!」


と、大きい声を叫んだ。

その後、大地が轟き、先ほど破壊された地面の後ろの方に、炸裂と共に、地から土色(つちいろ)の光の柱が出現し、空に向かって勢いよく(のぼ)った。


「うわ!?なんだそれは!?」


突然の出来事に、俺はさすがに驚いた。


「これが神技じゃ。神能に、魂の力を込めば、同じ技でも、出力が違うのじゃ」

「全然違うけど!?」


光の柱が消えた後に、地面にあったのは、半径20メートルぐらい、綺麗に開けられた大穴だけだった。


「思いが強ければ強いほど、魂の力も強くなるのじゃ。そうすれば、こんな威力、普通に出せるのじゃ」

「まあ、福徳さんは信仰で生まれた神意だから、人の思いの結晶みたいなものよねー、それは簡単に大地を破壊できるわー」


舞衣が楽しそうに笑いながら、平気な顔で評価を(くだ)した。


「…もしかして、舞衣もできるのか?」

「あたし?福徳さん程じゃないけど、できるよ?見たい?見せちゃおうー」


俺の返事を聞かずに、舞衣が弓の神具を顕現させた。そして素早く射撃の姿勢に入り、空へ(まと)を照準し、


「アルテミス・フォォォォーーース!」


舞衣の声に呼応するように、弓の先端に銀色の光が集中した後、巨大の銀の砲弾が放たれた。その弾は、数秒で天まで辿り、雲を貫通し、空の上で爆発した。


「どうよー」

「…すごいな…」

「ちなみに技の名前は、まだ仮の名前だよ!」

「仮なのか!?」


えっへん。舞衣は得意げに胸を張った。


「まあ、ワシと違い、舞衣さんやライさんも基本、人の体じゃからの。それは限界あるのじゃ」

「人?神の体じゃ…」

「あ、その辺の説明はまだか」


舞衣は俺の疑問を理解したらしく、説明を始めた。


「あたしたち、人から神意になった存在は、基本はまだ人間なの。ただ普通の人より体が強い、特殊の力を使えるようになるだけ。あとはそうね、あまり食べなくても済ませるところかな?」

「あまり食べなくても済ませる…」

「うん!なんかね、自動的に源素を吸収してるから、長い時間食事しなくても平気だって。ただ、あたしたちは今までずっとご飯を食べる習慣あったから、いきなりそれをやめることは無理だよねー」


舞衣の口から聞いた事実に、俺は初めて気づいた。


ああ、目覚めてた最初の日から、俺も含めて、シア、舞衣、ライ、みんなずっとお菓子か軽食ばかり食べても、『お腹が減った』と誰も言ってなかった。

村の食糧はそんなに余裕がある訳じゃないか、それでも三食軽食で過ごす必要がない。


てっきり三人は村の他の人のために頑張ってると思ったが、それが理由か。

でもそれが果たして、まだ人間と呼べるのか?


「で、話逸れたけど、どう?神技のイメージ湧いた?」

「…なんとなく?」

「ぶっちゃけ、気持ちを込めて、技に名前を付けて、大声叫びながらぶっ放せばいいのよ!」

「本当にぶっちゃけだな!」


その後、神技を考えるために、訓練の内容は技を編み出すこととその応用にステップアップした。



    ●



深夜、村の全員が寝てる時に、俺は一人で村を出た。

夜の森を楽しむために。


源素が溢れる今の世界、夜の森は、朝より多くの魔物が活動してる。

魔星族だけではなく、魔力を持ってる物は、そういった傾向がある。

人間も同じだ。


天聖族は聖力を持ち、魔星族は魔力。そして人間はーー両方だ。


光と闇が同時に存在する特殊の個体、それが人間。

ただ、それを一緒に使えるのが、極一部だけだ。


大方、魔法が使える人間が多い。神の存在を強く信仰する人だけは、聖術に()ける、そっちの方が数少ないんだ。

何故そうなったのが、一説によると、人間は、生物を殺すことで自分たちを生かすーー

そういう生き方してるからこそ、魔力も成長しやすいーー魔星族のように。

そのままずっと同じ生活していれば結果、魔力が強い人間になる。


理論上は。


素質がないと、そもそも成長の幅も極めて低いから、魔力はさほど強くならない。


結局、魂の強さが大事。


聖術を使う人間は、素質なくても、神を心から、魂から強く信じてるから、強い。


だから()の時代は、『誰でも魔法を使えるけど、強いのは一部だけ』と『誰でも聖術を使える訳じゃないけど、使える人は大体強い』という感じだったと、うろ覚えが。


そんな昔のことを考えながら、俺は歩みを止めた。そのまま頭を上げ、月を観賞し始めた。


世界が変わってから、月がずっと満月の状態だ。それも源素が満ちてる影響。

月の女神、アルテミス。ルナ。ヘカテ…彼女たちも蘇ったかもしれない今、月が欠けることはない。


だから、余計に綺麗と思う。女神を見てるのと同じ意味だ。


「あなた、ここで何をしてるの?」


不意に、背後から声が響いた。それより前に、首に冷たいものが触れてる感じがあった。剣だ。


しかし俺は振り返った。そこにいるのは、シアだ。ただ、顔がこわばってる。


「さっさと答えて」


彼女は珍しく命令な口調で話した。怖いな。


「言わないつもり?なら、殺すしかない」

【…おいおい、落ち着け。会う度に殺すとか、疲れないのか?】


俺はふざけた感じで返事した。リラックスさせるつもりだがーー


「いえ、全然。寧ろ嬉しいです」


逆効果のようだ。


【天使様がそんなこと言っていいのか?】

「あなたのような存在には、これぐらいはちょうどいいわ、シャファ」

【俺のような存在か…前も言ったが、俺がいないと、アイツ死ぬかもしれんぞ?】

「私と舞衣さん、ライさん、福徳さんもいるので、心配及びません」


呆れた。天使様はどうやら能天気のようだ。いや、この場合は能天使か?


【それ、ずっと守るつもりなのか?お前も知ってるだろう、望まぬとも、敵は自ずとやって来る。神話時代は、そういう時代だから。


ーー自分を守るために、他者を殺して成長するもの。

ーー殺戮を楽しむもの。

ーー強さを求めるもの。


どの目的にせよ、彼らは力を持ってるものを狙う。万が一、お前らが守り切れなかった場合、アイツ自身に何の自衛手段がないと、終わりだぞ?】


シアがあまりにも真剣な顔だっだから、つい正論で返した。あまりにも正論過ぎたのか、シアは何も言わなくなった。

しばらくして、

「…あなた、一体何を企んでるの?」


あくまでも俺を疑うか。


【別に何も?炎は本体だから、アイツに死なれたら、俺も困る。至極単純な話だろう?】

「…後、北の洞窟、あれはあなたがやったの?」

【何のことだ?】

「とぼけないで。先日の夜、そこから強い力を感知した後、すぐに福徳さんに偵察させて貰ったの。それで、元々そこにいた邪悪の気配が消えた、という報告を受けた。その後あなたが現れた…偶然だと思えない。あそこにいた誰かを、喰ったのね?今、この場でやったのと同じように」


彼女は周りを見てそれを伝えた。


周りは、黒い血に染まった森と、()()()に噛まれてる魔物の死体の()()が転がってた。俺がここまで散歩のついでに、食べてきた残骸だ。

俺の力を強くするために、これが一番の方法だからだ。


【そうだとしても、『邪悪の存在』を喰ったから、お前にとって害はあるまい?】

「…あくまでも善人面のつもりなのね。分かった」


シアが剣を解現(かいげん)して源素の状態に戻した。


「でも、炎に害をなす場合、容赦なくあなたを断罪するから、そのつもりで」


月光の下に、シアの殺意が込めた金色の瞳が、神の威圧を感じさせた。

彼女はそのまま身を回し、村の方へと戻った。


【分かった分かった】


俺は適当に相槌して、彼女を見送って、ため息をした。


【いや本当…出る度にこういう目に合うと考えると、めんどくさいなー】


人の心も知らずに。


【ああ、人じゃないか】


笑った。そうだ。俺は人じゃない。影だ。

影は影らしく、闇で踊ってみせようーー

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