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再臨のラグナロク  作者: ちさん
一章 神の災涙
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第8話 炎と影

「もう一人の俺、だと?」

【そうだ】

霧に包まれてる男は、俺と同じ声で答えた。

しかしその正体不明の姿の関係で、俺はもちろん、

シア、ライ、舞衣、三人も警戒せざるを得ない。


「嘘吐くんなよ。オマエみたいな訳も分からないものが、コイツの分身のはずがない」

「そうだそうだ!正体を言いなさい!」


二人とも珍しく気性が荒れてる。俺のためか?


【正体?それは、(えん)そのものだーーとは言わないが、似てる、というのが一番近い、何より】


男は人の形を解け、黒いものの姿に戻り、床に潜って、そのまま俺の影に入り込んだ。


「は…!?」


融合した。俺の影と。形変わることなく、俺も変化を感じない。

そう、()()だった。まるで最初から一つだったのように。


「炎!」

シアが小走りで俺に近寄り、

「大丈夫!?ケガはない?」

とっても緊迫した声で俺の状態を確認してきた。


「ああ…何も」

【ほら、言ったろう?】


俺の影から、声が鳴り響いた。


「…ふん!」

シアが声を聞いた瞬間、自分の剣を影に刺した。影がそのまま貫かれーーなかった。


【物騒だな。ちょっと落ち着いてくれないか?】

剣が、影に刺し込む前に、紙一重の距離で、何かに阻まれた。


「黙りなさい!あなたに貸す耳がありません!」

シアが激情を現わした。しかし、影がふざけているが、俺に危害を加える様子がない。


「…な、一旦やめないか?」

「ダメです!こういう得体の知れないものを、早く消さないと…!」

【お前の今の力じゃ、俺を消せないよ。そのことはお前も分かるだろう?】

「…!」


シアが悔しそうに唇を噛んだ。どうやら図星のようだ。


「一人がダメだったら、三人はどうよ?」

「え?」


俺の正面に、舞衣とライが、それぞれの得物を手にし、影に攻撃をしようと構えてる。


【…俺を消したら、コイツもやばいぞ?それでいいのか?】

「「…」」


ライと舞衣は、しばらく口を噤んだが、そのまま神具を下ろした。


「ライさん!?舞衣さん!?」

「…ごめん、確かになんか気持ち悪いけど、」

「炎に、それとオレたちに敵意を向いてない。なら話だけ聞いてもいいだろう」

「う…」


三対一。さすがにシアはそこまでワガママな人じゃない。

彼女が顔を膨らせながら、俺から離れて、円卓を直しに行った。


「ふ…」

【賢明な判断どうも】

「さっさとオマエの正体を話せ」

「怪し動きあったら、蜂の巣にするよ」

【おお、怖い怖い】


この日、自分の影が、俺の声で、他人に返事するという異様な光景を、人生の初体験をした。



    ●



「「神意(プロヴィデンス)?」」

【ああ】


影は先ほどの小さくて不定形のゼリーの形に戻った。よく見れば、どっかの漫画に出てくる、寄生型モンスターに似てなくもない。

そして彼は遠回しせず、簡単に自分はどういう存在なのを教えてくれた。


【君たちも分かるだろう?神の災涙の出現と共に、神意として目覚めた君たちならば】


かつての神々ーー神意は、消滅を免れるために色んな方法を試した。その中に、『生物と同化する』という手段があって、あらゆる生物に自らの力を宿して延命する方法。


つまり、複数の人に、それぞれ自分の力の一部を託し、神意としての自分の存在を、僅かでも世界に残す、ということもある。

そしてその少量の力が、生まれた時から発覚されたのが、世の中の『天才』と呼ばれた存在だ。


さらに、その力が何らかの原因で、強くなった場合は、その人たちは、『神意』として目覚める可能性もあると、シアから聞いた。


そういった存在が、目の前の、ライと舞衣だ。

神の災涙がきっかけで、二人は神意になった。

神の象徴とも言える神具を持ってる、それが証拠だ。


「それは炎も神意になったてこと?…でもあなた、影なのに、自分の意思を持ってるよね?おかしくない?」

「そうだな。それに神具も持ってない…オレたちは覚醒したタイミングで、神具も現れたぞ?」

【それは、俺がそういう神意ということで、勘弁してくれないか?】

「「よし、殺そう」」


二人はまた神具を手にして、仕掛けようとした。


「待って待って!」


さすがに影は俺の隣にいるから、巻き込まれのが死んでもごめんだ!


「お前もふざけるなよ!ちゃんと話せ!」

【話すも何も、本体のお前が記憶を失ってるから、

影である俺も、記憶が欠けるのが普通だと思うか?】

「なるほど」

「「そこ、納得しないで!」」


二人は当然のように怒った。まあ、それはそうだろう。

訳わからん存在に、いきなり信じろと言われても、聞くはずがない。


「…彼が言ってたのは事実です」

「「「え?」」」

ずっと黙ってたシアが、やっと会話に参加した。

しかしその口調が、氷点下の冷たさ。


「神具を持ったない神意は、います。それに、炎と同じように、記憶を失ってるかどうか、私たちに確認する(すべ)がありません」

「それはそれだけど…このまま放っておくつもり?」

「いえ、私が監視します」

「シアが?でも村長の仕事もあるのに…」

「オレたちも手伝えばいい、という話だ」

「それもそっか!どうせ炎はまだ一人で生活できないし、しばらく一緒にいないとだめだよね!」


舞衣が嬉しそうに俺の肩を叩いた。しかし


【それはどうだろう】


ゼリー影が、笑った。その笑顔と同時に、俺の右手に(ほのお)が燃え上がった。


赤く、大地を燃やす、(ほのお)が。


「うわ!何だこれは!?」

「「「(えん)!」」」


俺は右手を全力で振り回した。しかし炎は、一向に消える気配がない。このまま焼き尽されるかと思っ時、


【落ち着け。熱くないだろう?】


影の一言で、我に返った。


「確かに…」

熱度がない。手品?


「え?熱くないの?」

舞衣が近づいて、(ほのお)を触ろうとしたが、


「熱っ!!??」

「えっ?」


舞衣の手が、(ほのお)に20センチ離れた場所から、もう高い温度を感じ、すぐに手を引いた。


「シア~!炎も嘘吐いた~!めちゃ熱いじゃん!うわー」

「やはり殺します」

舞衣が泣き顔でシアに抱きついた。シアが優しく彼女を受け止め、そしてガチ目で影を睨んだ。


「おい待ってよ!俺は何も感じてないぞ?」

【それはそうだ。この(ほのお)は、俺経由で、お前の体の中から作ったものだ。

例えるなら、自分の血が、自分を傷つける訳がないだろう?】

「そうか…いや、先に言えよ!」

【むやみに触ろうとした彼女が悪い】

「炎、ちょっと離れてくれますか?あの影を駆逐します」


シアが笑顔のまま、片手で剣をしっかり握り、俺にゆっくりと寄ってきた。強い殺気と共に。

俺は苦笑いしながら、シアを全力で宥めた。


結局、今日の授業は、このアクシデントの関係で、中途半端なところに終わった。



    ●



翌日。


俺は福徳、舞衣やライと一緒に、村からちょっと離れた森の中に出掛けた。


(ほのお)を使えるようになったじゃと?』

『ええ、それで練習も兼ねて、確認お願いしたいと思いますが…』


シアの提案で、俺は福徳に教わることになった。


「ここでいいじゃろう」


案内されたのは、森の中にある、数少ない見晴らしがいい広場だ。

大樹もなく、大型の岩もない。整理された綺麗な場所だ。


「ここは?」

「村人たちの実戦練習として使う場所だよ。他にもあるけど、ここが一番村に近い上に、()()だから」

「簡単?」

「場所によって、罠を設置してたり、敢えて障害物を多く残した場所もあるのじゃ。魔物相手に、どんな状況でも生き残れるための作りじゃ」

「なるほど」


福徳は簡潔に説明した後に、俺から距離を取った。


「さて、さっそくお前さんの力をワシに見せるのじゃ」

「力を?(ほのお)のことか?」

「そうじゃ」

「そう言われても、昨日は(かげ)が勝手にやってくれただけで、俺は使い方何も知らないか?」

「ふむ。そうだとしてもやり方はしんぷるのじゃ」


福徳は俺の前にある森を太い指で指した。


「まず、お前さんの右手を前方に伸ばすのじゃ」

「…こう?」


言われた通りに伸ばした。


「そして思うのじゃ、力を手に集中するイメージをのう」

「は…」


目を閉じた。そして思う。自身の体に力があって、その流れを右手に集める幻想を…


(えん)!」


舞衣の驚いた声で集中が切れた。それと同時に、彼女がそう反応した理由も分かった。


俺の右手に、(ほのお)が、燃えてる。


「おお…」

本当にできた。何という不思議な気持ち。


「一発で成功か…オマエ、やはり普通じゃないな」

「あ?何で?」

「だって、あたしたちは、一週間練習して、やっと発動できるようになったよ?」

「え?そうなんだ?」

「まあ、一週間でも早い方じゃが。元々存在しないものをイメージするというのは、なかなか難しいことじゃのう」


褒められたけど、でもこうも簡単にできたのは、自分に才能がある訳じゃない。


(アイツ)の関係だ。


脳で福徳が言った力というものを想像すると、自分の影から勝手に、体の内側から血流みたいな筋が複数で現れ、全身に蔓延していく。最後は右手に到着し、手の外に発散した。


昨日、影が言ったことを思い出した。


【俺経由で、お前の体の中から作ったものだ】


というのは、このことだろう。完全にサポートされた。

そういえば今日は妙に静かだな。消えた?


「ではのう、今度はその炎を放つのじゃ。目標は、あっちの木でいいのじゃ」

「え、放つ?」

「そうじゃ。攻撃するのじゃ。そうじゃな…銃を撃つような感じで考えれば、できるじゃろ」

「銃か…」


拳銃?ライフル?どうせならーー


イメージが湧いた時、右手の炎が勢いを増し、そして放たれた。


コンーーー!!!!


爆音と共に、火の()()()が、俺の前を飛んで行き、福徳が指定した木おろか、

その奥と周りにある樹木ーー森を、削っていった。


「「「「…」」」」


無言。四人とも、話す言葉を見つけられなかった。

俺の真っ正面だけではあるが、2キロに渡る森と大地が、炎のビームに貫通されて、焼き痕がついてる空き地になった。


「何をイメージしたのじゃ!?そんな威力、易々と出せるものではないのじゃ!」

「いや、まあ…どうせなら、ちょっと強い方が面白いかなって、ビーム銃を…」

「ゲーム好きかーー」

「いや、男のロマンだ。分からなくもない」

「これは、しっかり教育する必要があるようじゃ」


福徳が杖を顕現させ、俺の前に立った。マッチョに高身長、さすがに威圧感が半端ではない。


「まず、手の全体ではなく、指に力を集めるようにイメージするのじゃな…」


その後、俺は福徳の見た目と真っ逆の、丁寧な指導を受けることになった。



    ●



余談。


影の騒動が落ち着いた頃、俺たちはその影の名称について話し合った。


「それはそうと、仮にもう一人の炎だとしても、名前がないと不便だな」

「まあ、そうだねー」

(かげ)だから、エイだな」と、ライがきっぱりと。

「さかなかよ」

「シャドウはどうでしょう?」シアが嫌な顔しながら、提案してくれた。

「うん~なんかありふれた感じもあるよね。ちなみにあたしはカゲロウがいいと思う!」

【ふむ、俺自身はそうだな、ファイアが使えるシャドウだから、シャアでーー】


「「「「却下」」」」


【…いい名前だと思ったけどな…】

「でも確かにいい発想だな。逆にシャファ、というのはどうだ?」

「あ、悪くないかも」

「そうだな、覚えやすいしな」

「炎がよろしければ、いいと思います」

「よし、じゃあ、お前は今日からーー」


俺は隣にいるゼリー状の影に向けて、名前を伝えた。


「シャファだ」

【…分かった、よろしくな、相棒】


こうして、俺は俺の影と一緒に生活する、という奇妙な日々が始まった。

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