表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再臨のラグナロク  作者: ちさん
一章 神の災涙
5/28

第5話 神を騙る者

この世界に天使がいる、魔物がいる。

そして人々が信仰する神もいる。

それならば、魔物が崇拝する神ーー()()がいても、決しておかしいことではない。


ある洞窟の中に、一人の男が、女型の魔神と対峙してる。銀色の肌に刻まれた魔法紋、宝石のような呪いを携わる赤い瞳。一般の魔物と明らかに違う肌色と目。その魔神特有の外見が、異様な魅力を放ってる。


「…何だ、貴様は?」

洞窟は大きくないが、内部はただの岩ではなく、岩壁は全部しっかり研磨され、柱とかも作られてる。

そう、まるで城そのものだ。

魔神は自分が作った高い玉座に座り、上から目線で男を見下ろした。


しかしその目は、軽視してるわけではない。むしろ警戒してる目だ。


何故なら、男は()()()に包まれて、全身の容貌をちゃんと確認できない謎の状態だ。


さらにその両手に黒い血に染まってる。彼の後ろには、死体が無数に倒れてるんだ。

洞窟の入り口から、魔神の300名ぐらいの部下を、一匹残らず、皆殺した後に、ここに辿り着いた。


()?そうだな…これからお前を喰らうものだな」

「…ふん、たわけか。そんな狂言を言うヤツ、久々に会ったな。よかろう」


女魔神(おんなまじん)が立ち上がり、ゆっくりと玉座の階段を下りて行った。

一歩、また一歩。近づくにつれて、彼女から放たれる威圧が、どんどん強くなっていく。


神を連想させるーーしかし魔神は、神ではない。ただある程度、神意(プロヴィデンス)より神に近い存在だけだ。


それ故、自分たちを()()()と名付けた。

それが、彼らは己の力に自信があるという示し。そしてその裏付けとして、部下を持った。

ほんのわずか三百程度だが、今の世界の状況と場所を考えると、割と集めた方だ。


男は考えた。


今の自分じゃ、勝ってないかもしれないと。

しかしこのまま無作為だと、いずれ死ぬ。

だから動く。始める。


彼と彼女のために。


女魔神は完全に階段を下りて、男と同等の目線で見つめ合った。

「逃げるなら、これが最後のチャンスだ、()()

「…ふん、俺を人間として見えるのか?その目が節穴だな」

「貴様から神意らしい気配まったく感じられん。我が配下を殺せた力あったとしても、その()()がない限り、我にとって貴様はただの人間だ。その程度の力で、神を騙るつもりか?」

「その言葉、後悔するぞ」


男は右手に、黒い(ほのお)を生み出した。


「ほお?炎か…聖力(せいりょく)を感じない、魔法だな。にしても魔力もあまり感じられないが…やはり弱いな、貴様」

「なら、試せばわかるだろう…!」


言葉と同時に、男は女魔神に炎を放した。

放たれた炎は、大きさを増し、魔神の5倍ぐらいの大きさになり、飛んで行った。

しかし、魔神は避けようともせず。ただ立ち尽くしていた。


ドンーーー!


直撃ーー爆音と粉塵が舞い、洞窟が軽く震動した。

ただ、直撃したことに、男は嬉しい表情にならなかった。

その原因はーー


「この程度か?」


魔神は、傷一つなく、元の場所に立っている。

それも、足を一歩も移動しなかった。


(動かせることすらできないのか…)


男は冷や汗をかいた。

やはり、このぐらいの力だと、相手にすらならない。

だとしたら、逃げるのか?


(いな)


背を向けた瞬間、殺されるだろう。

魔神という存在は、相手が弱いからで、見逃す慈悲がないから。


「ふん、逃げた瞬間、我に殺されると考えてるのか?」


まるで見透かされたように、魔神がそう話した。


「ーーそうだ。貴様のような自分の立場を理解してないヤツを嬲るのが、我が大好きだ、だから、」


魔神が力を集積していく。来る…!


「逃げるなよ…!ソロモン72魔神が一柱、カラス伯爵・ラウム、推参…!」


魔神・ラウムが背後にカラスの翼を展開し、攻撃を仕掛けた。翼から羽を放ち、銃のように乱射した。


「ソロモンの魔神か…!これは面白いな!」


男は笑いながら逃げ回して、ラウムの攻撃を避けつつ炎の弾を相手に打ち込んでいく。しかし先と同じまったく効果なかった。


まずい。いきなり大物当てた。

魔神の中でも、()()()()()()()が上位魔神だから、あまり出会える存在ではない。


…のはずなのに、出会った。運がない。


「逃げ足だけが能か!?かかってこい!」


羽弾(うだん)が床を破壊し、柱を貫き、男の逃げ場を少しつつ削っていく。

さすがにこれ以上無理だと知り、男は「ああ、やるとも」と軽口を返し、そして間合いを詰めた。


一瞬で。


さらに、そのまま黒い剣を斜め下から振り上げた!


「な…!?」


有り得ない。ずっと見てたのに、消えた。認識阻害、ではなく。


感じた。

この男のスピードは、自分の反応速度より早い、と。


「くっ…!」


ラウムは咄嗟に翼から銀と黒の色が混ざった()()()を形成し、男の攻撃を防いだ。しかし男は諦めず、追い打ちを重ねて、激しい剣戟の攻防が始まった。

斜め切り、正面突き…数多の軌道を描き、互いに相手の急所を狙ってる。しばらくして、男はラウムの隙を見つけ、両手で剣を持ち上げ、全力で刻み込んだ!


カンーーー!


武器がぶつかった大きい音が洞窟内に反響をした。

ラウムは男の攻撃を剣で難なく受け止めたが、その反動で数メートルに飛ばされた。


「ちっ、仕留め損ねたか」


男が明らかに不機嫌になった。しかし追撃をしようとしなかった。

これ以上攻撃を重ねても、ラウムに一撃を入れることはできないと知ったからだ。


その隙に、ラウムが彼の武器を注視した。


「貴様、あの剣…()から取り出したな」

「お、先の間合いを詰めた数秒だけで気づいたのか?さすが魔神だな。怖い怖い」

「影使い…道理で、我が配下を殺した上に、素手で来られたわけだ。そもそも最初から武器を影の中に隠した。そして先のように、敵の隙を突き、必殺の一撃を狙った。そうだろ?」

「これはこれは、完全にバレたな。腐ってもソロモンの魔神、という訳か」


男は両手を上げて、「やれやれ」という風にため息をついた。


「ふん、貴様、やり方や言い方といい、正義の味方とは言えないな」

()()()()()という単語を聞き、霧に隠されてるが、男が陰険な笑顔を出したように見えた。


「正義の味方?俺が、何時、正義のためにお前を滅ぼすと言った?」

「何?貴様、人間だろう…ぐは!?」


ラウムが話の途中に、血を吐いた。大量の血だ。

それは、致命傷を受けたからだ。

背後からの槍による一撃。


「ハート、ゲットだぜ!」


正確に、魔神の心臓を貫いた。


ラウムは信じられない顔で男を見た。

男は間違いなく先の場所にずっと立っている。今度は高速移動ではない。

じゃあ自分を刺したのは、誰だ?


彼女は辛うじて刺された状態で、顔を後ろに回したが、そこには誰もいなかった。

あるのは、自分の()()()()()()()()だけだ。


「バカな…!(われ)の影から…!?」

「『影から取り出した』というのはお前の勝手の勘違いだ。俺はそんなこと一言も言ってないぜ?俺は、()()()()()()()()()()んだよ。」


男のその話と共に、今度は彼の影から無数の武器が浮かび上がった。


「そして、取る必要もないから、こういう風に、」


男は、指をラウムに差し、その直後に、一丁の斧が彼女に飛んで行き、そのまま右手を切り落とした。


「手で扱わなくても、敵を切り刻むこともできる」

「あああああ!!!!!!!!」

ラウムはあまりの痛みで叫んだ。男はそれを楽しんでるように、笑いながら彼女に近寄っていった。


「魔神でも痛みを感じるだな」

「き、貴様…!殺してやる!!!」

至近距離に来た男へ、ラウムが(くち)の方に残った魔力を集中し、彼を吹っ飛ばす決死の思いで攻撃を繰り出した。


黒い閃光(せんこう)ーー


「お」


男は、避けられなかった。そのまま閃光に飲まれ、消滅した。

と、ラウムが考えたが。


放たれた光は、城の天井に穴を開け、空へと消えたが、男は、さも当然のように、ラウムの前に立っていた。


傷一つなく。


それを見て、ラウムは鳥肌が立った。


「あぶねぇー、心臓を破壊してもこの威力!俺じゃなければもう死んでいたな!ははは」


そう、心臓が破壊されても、先の一撃は、山に巨大の穴を開けられる程の力がある。

なのに、なぜ、この力を何も感じられない人間が、無傷で立っていられるんだ?


「その顔、まだ分からないみたいだな。特別だ、見せてやろう」


男は両手でラウムの頬を掴み、自分の顔を近づけた。

その瞬間、彼女は理解した。正確に言うと、感じた。


男が纏いし霧の正体をーー


「そんな、貴様は…!?だから聖力も魔力も感じられなかった…!何故、貴様のような存在がこんな場所に…!?」

「何故と聞かれても、俺も困るんだよ。まあ、これで分るだろう。()()()()()()()()()()。でも俺もお陰で、いい餌を見つけた訳だ」


ラウムがゾッとした。


「餌…だと?」

「ああ、力で物を言わせるこの時代は、弱肉強食だ。人間のためじゃなくても、生きるために、もしくは自分を強くするために、他のものを平気で殺す。お前は魔神だから、それぐらい分るだろう。だから、」


男の足元の影は、自分の意思を持ってるように、波打つように蠢いた。


「俺の糧となれ」

「…!やめろ!やめてくれ!我は…私は!また生きたい!」

ラウムは涙を流し、男に懇願したが、


「お前に嬲られて死んだ人の言葉、お前が聞き入れたか?」

男は無情に拒絶した。そして右手をラウムの頭に置き、


「まあ、安心しろ、俺が他人を嬲る趣味がない。それに、お前は生きる、俺と共に、な」

「…いやだ!やめて!やーーー」


最後の一言と一緒に、ラウムを自分の影に沈めた。



    ●



「惨めだな…」

ラウムが消えた洞窟の中に、男は一人で大の字で倒れてた。

視線の先は、ラウムが開けた大穴。その穴の向こうに、月が、空で綺麗に懸かってる。


(ほのお)の力だけじゃ足りなかったから、あの力を少し使ったけど、

それでも不意打ちでやっと勝った。


いや、そもそもアイツも目覚めたばかりで、ソロモンの魔神としての力も完全に戻ってなかった。

だから、人が弱ってるところを狙った、とも言える。


正義の味方じゃないけど、こんな戦い方、誰も認めないだろう。

例え自分は気にしなくても、な。


「とりあえず魔神を喰ったおかげで、力が少し戻った。しばらくは生きていけるだろう…ふああああ」


男が大きく欠伸をした。

「やべぇ、やはり長持ちできないな。力を使う具合にもよるけど、今の感じは10分ぐらいか」


彼が独り言してると同時に、体が少しずつ霧散し始めた。

「まあ、あまり外を出たら、あいつらも困るだろうな、はは」


男は目を閉じて、ある人たちの事を思いながら、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ