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再臨のラグナロク  作者: ちさん
一章 神の災涙
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第4話 神意(プロヴィデンス)

「最近、殺人事件多いよね?」

「ああ、ニュースも放送したな」

学校の帰り道、俺は■■と最近の出来事について話し合った。他愛のない話。毎日こういう感じ。

そう、これからも変わらない、と思ってた。

「炎が何かあった時、私が守るから」

「いや、それは俺のセリフだろう?」

「ふふふ」


彼女はイタズラっぽく笑った。太陽のような明るい笑顔。それがずっと続いて欲しいーー

と思った時、気づいた。


俺の隣にいるのは、()()()だ。顔も見えない存在に、何であれが笑ったと思った?


まるで見てきたようにーー



    ●



「…う…」

目が、覚めた。

何か同じこと、つい先まで経験した気がする。

ループしたーーということはない。何故なら、


天使様が隣に寝ているから。それも会った時と同じの、露出ちょっと多い白い衣装で。

袖なしに胸元をあまり隠していない…目にはいい恰好だ。通常ならば。


「うおおおおお!!!!!?????」

ビックリ過ぎて、ベッドから部屋のドアまで逃げた。


「…ん…?」

その大きい動きで、アイニレシアが起きた。ゆっくりと体を起こし、目を擦りながら、俺の方を見た。


彼女は何回も目をパチパチして、しっかりと俺が起きてるということを確認した後、


ブワッ…


泣き始めた。


「炎…!」

アイニレシアは素早くベッドから降り、俺の方へと走って、そのまま懐に入り込んだ。


「起きて…起きたのね!よかった…!また長い時間眠りにつくと思った…!」

「あ、ああ…ごめん、心配掛けたな。ところで、今の時間は?」


彼女を宥めつつ、時間を確認した。1年も寝た経験あるから、アイニレシアだけではなく、俺自身も、また同じぐらい寝た心配はある。


「今は朝だよ。昨日、炎が想体に襲われて、崖から落ちたこと覚えてる?」

「ああ、覚えてる…でも俺、生きてるな?あの高さの上に、襲われたから、絶対死ぬと思った」

「はい…運よく下が雑草の群れがあって、私が助けに行った時、想体も何故かもう消えた。運がよかったかもしれません」


なるほど、それでキズもなかったか。しかし、昨日の筋肉痛もなくなった。一晩寝たお陰か?


「そうか…まあ、それしか言いようがないか。てか、丸一日寝たのか?俺」

「そうです…でも生きてた上に、ちゃんと起きたから、もう言うことはありません」


アイニレシアはちょっと落ち着いたらしく、口調が丁寧な感じに戻った。しかし俺を放そうとはしてない。


「シア~?入るよー」

ドアの向こうから女の子の声が聞こえた。舞衣だ。


ガチャ。


彼女はアイニレシアの返事を待たずに、ドアを開けた。舞衣だけではなく、ライも彼女の後ろに立ってた。

そしてくっついてる俺とアイニレシアを見て、二人は意味深な笑顔を出した。


「おおぉ、生きてる!それも朝からイチャイチャして、性欲モンスターだね、このこの」舞衣は肘で軽く突いてきた。

「いや、誤解だ」

「まあ、ずっと看病してたし、これぐらいは普通だな、うん」ライは一人で納得した。

その言葉に対し、アイニレシアは耳を赤くさせ、無言で俺の胸にさらに顔を埋めた。


「看病?まさか…」

「ああ、オマエが寝てた1年間、シアが毎日オマエの世話してだぜ」

「健気だよねー、あたしだったら、1週間もう諦めたと思うよねー」

「ーー」


俺のために?

俺は顔を下げて、アイニレシアを見たが、彼女は恥ずかしがる様子で、目を合わせようとしない。

ただ、力強く俺の服を掴んだ。


「…ありがとう。それとごめん」

「…!謝らないでください!私がそうしたかっただけ…それに、」

アイニレシアは一度合った目をまた逸らして、

「謝るべき方は、私だから…」


小声で何かを言ったけど、よく聞こえなかった。



    ●



俺たち四人は、アイニレシアの2階の部屋から降りて、昨日と同じく1階の円卓に集まった。

アイニレシアはキッチンに入り、簡単の軽食とジュースを準備し、円卓に持ってきた後、今後の方針討論を始めた。


(えん)も起きたし、これからどうするの?」

「そうですね…魔物が減ってるから、炎をそのまま村の外へ連れて行きましたけど、迂闊でした。想体が出現するなんて…」

「あれは、オレたちも初めて見たな。何だ、あれは?」

ライが眉間に皺を寄せ、アイニレシアに尋ねた。

どうやら訳わからない力を持ってる彼らにとっても、普通じゃない敵らしい。


「あれは…この世界は神々が生きる世界っと、ライさんと舞衣さんに説明しましたね」

「ああ」

「でも炎は知らないよね?ついでに説明してあげた方がいいかも」

「そうだな…そうして貰えると、助かるな…」

「分かりました!頑張ります!」

アイニレシアは何故か力を入れて、目をキラキラしながら説明を始めた。

彼女は手を軽く振り、俺たちの前に光のボードを創った。黒板?


というより、それはまさか伝説によくある、()()というもの?


「ではまず、基本のことから…炎たちの()()()()()では、神々は肉体を維持できる力を持ったないため、自然や生物に同化して生きるか、諦めて消滅を待つか、どちらだけの選択を強いられてました。それで人類が神々の姿を見ることがなくなりましたが、神の災涙によって、世界が作り変えられて、神々がまた実体化できる世界に戻りました」


説明と共に、ボードに神の災涙の影像や、俺が覚えてる現代の風景が次々と現れた。


「今の世界は、はるか昔の神話時代と同じか、それ以上の力が存在してるため、神々は簡単に()()()()()()()()ができる他に、人々の思いの力も強く影響します。想体は、その思いの力で()()()()したものです。だから気配を感じられない上に、何時、どの形で出現するのも分かりません」

「それ、やばくない?」

「同感だ。対応のしようがないじゃないか」

アイニレシアの説明を聞き、ライと舞衣はすぐにダメ出しした。


「そうですね…そこは神具の出番ですが…」


コンコン。


アイニレシアは神具の説明をしようとするタイミングで、誰かがドアをノックした。


「シア様~入ってもよかろうか?」


中年の男の声だが、言葉使いは年寄りそのものだ。


「あ、いいですよ、入ってください」


ドアが開かれ、入ってきたのは、土に似た髪色を持ち、満面笑顔で筋肉マシマシの中年男性だ。しかも、身長ちょっと高い。2メートルぐらい?

「遠征から戻ってきたじゃよ」

「はい、お疲れ様です。何か収穫ありましたか?」

アイニレシアは歩いて、彼の前に立ち止まり、頭を上げた姿勢で、遠征の結果を聞き始めた。


「まず魔物じゃな。今まで姿を隠れておったが、昨日ここに帰る途中、急に群れで襲てきたじゃ。それも一度だけではなくてな~おかげて帰る時間遅れたじゃの」

「そうですか…大変でしたね」

アイニレシアは報告を受けて、顔に難色を現わした。


「どうしたのじゃ?顔色悪いのう」

「あ、いえ、大丈夫です。他に気になることは?」

「ふむ。他は…そうじゃ!北の廃都の近隣の山に、いつの間にか、大きい洞窟できたのじゃ。前回の遠征で見かけなかったじゃから、誰かがその空白期間でそれを作ったじゃの」

「洞窟…」

「ワシも試しに()()を使って、内部地形を探索したじゃが、洞窟は広くなかったじゃ。しかし、中に入って確認しようとして、入り口に立った瞬間、どうも嫌な気配を感じたじゃ。たぶんあれを作ったものは、そこに居座ってるじゃろう」

「いやな気配…あなたにそう言われる程のもの…普通の魔物が住んでいる、訳ではなさそうですね」

「そうじゃな、ところで、そちらの御仁は?新顔じゃな」


男性は体を少しずらして、アイニレシア越しに俺を見つめた。


「あ、()()さんは初対面でしたね。彼は炎です」

「おお!おぬしがシア様が夢中になってる若もんかの!」

「夢中…!?」

アイニレシアはその一言でまた照れ始めた。男性はそれを意に介さず、ゆっくりと俺に近寄り、右手を差し出し、握手を求めてきた。

俺は戸惑いながらも、握り返した。


「ワシは、福徳正神(ふくとくせいしん)じゃ!長いじゃから福徳でいい、よろしくのじゃ!」

「あ、どうも…星野(ほしの) 竜炎(りゅうえん)だ」

「ふむ!おぬしの話はシア様から聞いておる!しかし、今ここにいるということじゃから…目が覚めたじゃな?何時じゃ?」

「えっと…一応、昨日だけど…」

「昨日じゃと?」


福徳は俺の答えを聞き、突然握ってる手を放した。

「ふむ、偶然にしては、タイミング良すぎるじゃな…」

彼は独り言を始めた。理解が追いつかない俺に、アイニレシアは慌てて話しかけてきた。

「あ、もうちょっと詳しく紹介しますね。この方は、この村を守る、神の一人です」

「神?」

その単語に、俺は驚きを隠せなかった。


「ええ、土地公(とちこう)福徳正神(ふくとくせいしん)、彼は、台湾の神ですよ」


いきなり異国の神と出会ったことに、俺は言葉を失くした。



    ●



「神と言っても、本物の神ではないじゃよ」

アイニレシアと昨日の事を情報交換した福徳は、椅子に座って、『食事後のお茶はリラックスできるのう』と言い、お茶を淹れながら、自分の存在について話し始めた。


「本物じゃない?でも神だよな?」

「そうじゃ。人の目から見たらのう。人知を超える存在は大体、神と呼ばれるじゃ。津波とかの自然災害も、昔は神の怒りとよく言われたのう」

確かに、科学が発達してない昔の時代は、当時の知識を超える現象が起こった場合、神に結び付ける傾向はあった。


「…じゃあ、神じゃないなら、君はどういう存在なんだ?」

「そうじゃな、この点については、シア様の口から聞いた方がよかろう。先もそういう話をしたじゃよな?」


福徳はしれっとアイニレシアにバトンパスした。

彼女は頷いて、続きを始めた。


「えっと、私たちは、正確でいうと、神意(プロヴィデンス)と呼ばれる存在です。神の意志を体現するものーーそれが天聖族や、福徳さんみたいに、人の思いと信仰で実体化した存在。そしてライさんと舞衣さんのように、()()を持つ人間も、神意という存在です」

「神の意志を体現するもの…待ってよ、じゃあ、君たちが言う神とは何だ?」


福徳はまるで気持ちを落ち着かせるために、お茶を啜り、ゆっくり俺に伝えた。


「世界を支配するものーーそれがワシらにとっての、そして世界にとっての本当の神じゃ。しかしあれら、滅多のことない限り、人の前に姿を現さん。だから知らなくていいのじゃ。おとぎ話と思った方が早いじゃろう」

「世界を支配するもの…」


何かスケール大きすぎて、理解が追いつかなかった。

それを察したのが、アイニレシアは急いで話を切り替えた。


「そ、それより!村を案内しましょう!神意とか神具とか、炎にはあまり関係ないから、覚えなくていいと思います!」

「あ、そう、だな」


言われてみればその通りだ。

俺は力を持ったない、ただの人間だ。

そんな人間にできることは、精々他人の迷惑にならないように生活することだろう。


ああ、俺は、人間だ。



    ●



「シア様!ああ、今日もお麗しくございます…!」

「ありがとうございます。お体は大丈夫でしょうか?」

年取った老人の挨拶に、アイニレシアは丁寧に返事した。


「舞衣ねえちゃん!今度の射的授業、何時やるの?」

「そうね、今日はまた用事あるから、明日でいいかな?」

「わかった!」

木で作られた小さい弓を持った、肌黒い男の子が、舞衣に弓の事を熱心に尋ねて、彼女も楽しく説明してあげた。


「ライよ!また手合わせお願いしたいのだが!」

「おう!いいぜ!いつでも大歓迎ダ!」

ライと同じく白人の血気盛(けっきさか)んな、巨躯を持つ壮年が、前回の手合わせで負けたらしく、彼に再戦を申し込んだ。ライも愉快そうに承諾した。


「福徳様~農作物また枯れました。何とかならないでしょうか?」

「どれどれ…ああ、土の源素が乱れてるじゃのう。たぶん昨日の騒動の影響じゃ。こうすればいいのじゃ」


福徳立ったまま手の平を地に向け、地面から杖を創り出した。そしてその杖で地を軽く叩き、まるで人を起こすような仕草で、枯れた農作物は、みるみるうちに活気を取り戻した。


「凄いー!さすが神様!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。また何かあったら任せるのじゃ!」



    ●



「ここが村の掲示板です。悩みがある時、もしくは欲しいものある時、紙に書いてここに貼れば、能力ある人がそれを自分から受けて、解決しに行く仕組みです」

「要はゲームによくある冒険者ギルドだね!」

「なるほど」


アイニレシアの紹介を聞きつつ、俺たちは村を一周して、

最後は村の真ん中の掲示板にたどり着いた。


弓道場、槍術訓練所、生活技術交流所、学校、品物交換センター…

貨幣がないから、古代のように、物々交換で助け合ってる。


福徳とアイニレシアの協力で村の外に、「居界(いかい)」という謎のバリアを張ったおかげで、魔物の攻撃を退けたということも説明を聞いた。


規模が小さいものの、各国の人がいて、みんな協力し合ってる。一つの()()として、自立自足できる環境はできている。


その生活の様は、ある意味、理想郷かもしれない。


「みんな、人気者だな」


ただそれより驚いたのは、みんなの人望だ。

アイニレシアの家ーー村長の家出た瞬間、住人だちに挨拶され、そしてみんなもそれぞれ挨拶を返し、そのまま近況確認するという往復が、何十回もあった。


おかげで広くない村なのに、回し終わったのに1時間かかった。


「人気者だねーー微妙な気分だけど」

舞衣は苦笑いした。それを聞いたライと福徳も同じ反応だった。アイニレシアはもっと酷い顔で、申し訳なさそうな面になった

「?何故だ?」

俺は率直に疑問を投げた。人気者になりたいーー人であれば、誰でもそういう願望がある。

「ここじゃちょっと話しづらいかなー?一回シアの家に戻ろ?」



    ●



「ズバリ、荷が重いんだよーーーー!!!!!」

アイニレシアの家に入った途端、舞衣が叫び出した。

「よしよし、大丈夫だから」

アイニレシアは慣れた手付きで、舞衣の頭を撫でながら宥めた。ライと福徳もあまり気にせず、円卓の側にある椅子に座った。


アイニレシアは舞衣を座らせた後に、俺に理由を説明した。

「簡単に言うと、力がないものは、力あるものに縋るーーそれが生物の本能であり、自分が生きるための手段でもあります」


「今の場合で解釈すると、神具を持ったない、そしてワシやシア様のように、()()か魔法を使えない普通の人間は、それらの力を持ってるワシらは、かっこうの縋る対象じゃよ」


「人々に希望をもたらせるーーそれがこの村で生活してる、オレたちの仕事の一つだ」


「力ある存在に、導かれて欲しいーー何もかも失った村人全員は、自分のメンタルを維持するために、そういった存在に自分を委ね、考えることを諦めることで、生きる気力を繋いでるんだよ」


「だから、私達神意(プロヴィデンス)は、本当の神のように、振舞わなければなりません。彼らを助けるために。その関係で、便宜上、私達も自分を神と呼んでいます」


「…責任重大だな…」


確かに、家族、友人、知り合い、生活環境など…全部失った()()は、精神も崩壊しかねない。

しかし、だとすると、


俺はある思いに辿り着き、ライと舞衣を見つめた。


「あ、あたしたちのこと心配してる~」

「ふん、そこは変わらないな」

舞衣とライははすぐに俺の考えを理解したようだ。さすが親友と自称しただけはある。


「その心配はいらん。一年前はまだしも、今はもう慣れたからな」

「あたしも~だから炎も、起きたばかりで色々戸惑うと思うけど、早く慣れるように、サポートするから!」

「わ、私も全力でフォローします!」

アイニレシアは負けん気で自分の意気込みを伝えた。


「…頼もしいな」


俺は、笑った。

大切な友人がいて、何故か俺に懐いてる天使様がいて、村を守る神様もいる。


例え記憶無くても、彼らがいれば、何とか生きていける気がする。


『腹が減った…』


「ん?何か言った?」

俺は四人に聞いたが、みんな不思議そうな顔で、頭を横に振って否定した。


幻聴?


違和感を感じながらも、目の前の生活の方が大事だと思い、俺はさっそく四人に、この村のルールなどを教わり始めた。

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