第1話 再会
「舞衣!そこに行ったわ!」
「了解!任せて!シア!」
広大の森の中、銀の弓を持つ碧髪の少女ーー舞衣が、森の樹木をものともせずに駆けながら、イノシシ、蛇、人…姿バラバラの黒い生き物の群れを、風のように舞う矢で精確に敵を射貫いていく。
それを支援するように、青空の下に、真っ白な翼を持つ白い服を着てる天聖族の少女、シアが、聖術による砲撃を放しながら、指示を出してる。
神々しいオーラを放てる彼女は、森全体を俯瞰する。
森の中に目が届く範囲内で、数え切れない黒い物が大量に蠢く。
魔星族の魔物だ。
十、二十匹だけではない。推測だが、百を余裕越えてるはず。
「クソ!数が多すぎる!炎!大丈夫か!?」
舞衣と数十メートル離れた場所に、金髪の少年がルーン文字が書かれてる槍を振るい、仲間の心配しながら文句を言う。
神の代行者ーー神意になった彼らにとって、一匹一匹の魔物の力こそ強くないが、数が圧倒的に多い。
戦いが初めてから十分ぐらい経った今、既に百体以上の敵を倒したにもかかわらず、
今なお百を越えてる敵が集まってきている。
魔物が集まる原因となったのは、金髪の少年と一緒に戦ってる黒髪の少年、星野竜炎の存在だ。
「ああ、ライ、こっちは大丈夫だ!しかし、キリがないな…!」
ライと一緒に魔物に囲まれてる炎は、両手に赤く燃えてる炎の剣を創り、迫り来る魔物を軽々しく斬り捨てる。体力的にまだ問題はない。しかし、
(終わりが見えない戦いは、精神的に持ったないな…!)
敵の数がまだどれぐらいいるのが分からない現状で、大技を無暗に使うと力尽きて、そのまま包囲され殺される可能性がある。
せめて、敵の総数か、敵の追撃を断ち切る方法があれば…!
シアが悩ましい顔でそう思った時に、首に掛けてる聖引石から、この緊迫した状況と真逆の、穏やかな女性の声が聞こえた。
『シア様~?聞こえますか?』
「…!はい!聞こえます!」
その声に、シアが懐かしい感じを覚えた。
『そちらの状況分かってるので、今から援護しますね。後の対応はシア様に任せますね~』
「え、援護…?」
『どういう援護なの?』とシアが聞こうとするが、すぐに理解した。
彼女の頭上を中心に、天聖族専用の居界が瞬時に展開され、金色に輝く壁が、聖なる力と共にあたり一帯を包み込む。
外から居界に侵入しようとする魔物は壁に触れた瞬間、跡形もなく消し炭になった。
その様子を見た他の魔物は、知能が低くても、本能で理解する。
『壊すところが、触れれば死ぬ』
死ななくても、大きなケガを負うことになるに間違いない。
絶対的な魔除けの居界ーー
そして、魔物は大人しく引き下がった。
外側の魔物の退去を確認したシアが、ほっと一息吸って、地上にいる三人に伝える。
「みんな!今から居界の中に残ってる魔物を一掃するから、そのまま動かないで!」
「「「分かった!」」」
三人の返事を確認した後、シアが天に向かって、自分の神具を翳し、
「力を貸して…!」
その声に反応し、神具から光が迸り、そして、天使の模様が映ってる神源陣を発動した。
「聖雨!」
神源陣から無数の光の柱が空から雨のように地上に降り、爆撃を始めた。
「ギガアアアアアアアァーーーーー!!!!!!」
魔物の断末魔が、一斉に鳴り響く。
が、それも束の間だけ。
光の爆撃の音が、それを埋めるように、さらに早く、大きく、居界の中を走っていく。
そしてーー
「終わった…のか?」
爆撃が終わると同時に、居界も解除された。
居界の中に漂う煙も、霧散していく。
俺は辺りを見回す。
元々倒した魔物の死体も、爆撃始まる前に生きてた無数の魔物も、
そして俺たちがいる森も、全部、
消えてなくなった。
「これは…」
ああ、言うまでもなく、シアの技によって消されただろう。
広範囲攻撃ーー魔物だけではなく、環境をも一緒に壊す、無差別の破壊。
「すごい…!シア、凄いじゃん!」
舞衣は敵が綺麗さっぱりに消えたことに、テンション上がったらしい。
「ああ、これは中々だゼ…」
ライは感心して、疲れから解放したように息を吐いた。
「…」
俺は、何も言えず、ただシアが飛んでいる空を見上げる。
彼女は、俺の視線に気づいたらしく、俺を見た。その顔は、どこか困ったように、そして、悲しそうな表情。それでも彼女は最後に、まるで俺を安心させるために、
微笑んだ。
●
始まりの村ーーリ・ストリから出発してから一ヶ月。
俺は、親友のライと舞衣、そして天聖族の天使ーーアイニレシア、通称シアの少女、四人で順調に北西方向に進んでる。
目的地は、リ・ストリから400キロメートル離れてる村ーーセクトリーバ。
あの日ーー俺は【憎恨の源】の力を使い、リ・ストリの近辺を山を含め全部吹っ飛ばした。その関係でリ・ストリから出発した後しばらくの間、魔物の襲撃は無かったが、
比較的に影響が少ないセクトリーバの所在に近づけば付く程、魔物の量が増えていき、避けることを出来ずに戦うことも日々増えた。
そして今日は、今まで一番大きい戦いだった。
「今日は一段と激しいねー」
戦い終了した後、俺たちは再び動き出した。
「そうだナ。でもまあ、予想通りだろう?」
舞衣とライを先頭に、俺とシアがしんがりを勤める形で周りを警戒しながら森だった場所を進んでいく。
「それはそうだけど、本当に起こると嫌だよね」
「まあ、同感ダ」
「でも、後少しだけだから、ファイトだよ」
シアが元気を付けようと声かけたが、
「それにしても、シアってさ、あんな凄い技出せるのに、今まで隠したの?」
「え、そ、それは」
舞衣からの質問が予想外らしく、シアが明らかに戸惑った。
…いや、聞くだろう。普通。
「ああ、すごいナ、あの技。出力も範囲も、舞衣の神具より強かった。あれがシアの本当の力なのか?」
「えっと、その…」
シアは何故かチラチラと俺の方を見てる。
助けを求めてる?いや、俺に聞かれてまずい?
どちらにしろ、ここは助け舟を出した方が良さそうだ。
「二人共、その辺で…」
「シア様~~」
「あ…!」
ライと舞衣を止めようとした時に、遠い場所から穏やかで、のんびりした大人の女性の声が響いた。
赤の中に紫の色が隠れるロープを着てる女性は、胸のたわわを揺らしながら近づいてくる。
俺、ライ、舞衣が疑問と思ったところが、シアだけがパッと顔が明るくなり、声の主へと走り出した。
「ハルミテイ!」
シアは、女性の名前を呼びながら走り、彼女に触れる距離まで近づくと、そのままの勢いで抱き付いた。
「久しぶり!」
「久しぶりです~シア様~」
シアが穏やかな女性の豊かな谷間に埋め込んで、そのまま女性に頭を撫でられて、ずっとこわばった表情も柔らかくなった。
長年会っていない友達…というより姉と妹?の再会みたいな感じに、俺達はしばらく隣で無言で見守った。
「あ…!ごめんなさい…!ちょっと懐かしいすぎて、つい…!」
俺達が待ってるということに気付いたのか、シアが恥ずかしそうに慌てて女性から離れた。
「いいよいいよ、なんか見ててほっとするから、もっと抱いても全然いいよー」
「オレはノーコメントだぜ」
「もう…!からかわないで!」
シアがむっと拗ねた顔になったが、わざとらしく咳払いして、まじめな口調で話題を切り替えた。
「紹介するわ。彼女はハルミテイ・エンターテイナ。私と長年付き合ってる友達なの。ほらハルミテイ、あなたも自己紹介して」
「はい~」
ハルミテイは片足を一歩下げて、俺達に向けて一礼をした。
「私はハルミテイ・エンターテイナ。天聖族の聖術研究室『エンターテイナ』の所長ですわ。そして向こうにある村ーー「セクトリーバ」の村長でもあります。さっそくですが、村までこのまま説明しながら案内しますね~」