第23話 再臨のラグナロク~そのニ~
「ちっ…撃って撃って!アイツを殺せ!殲滅しろ!」
エディナンが、さらに死体を集め、神を降ろした。
今度は得物から見ると、遠距離攻撃が得意の神が大勢いる。
グングニル対策だ。
なら、
【ちょっと借りるぞ】
舞衣の隣、声が響いた。
「え?」
彼女はその声の発生地を見つめた。そこに、
影がアルテミスを取り込んでる最中だ。
「え!!!????ちょっと!!!!」
舞衣が慌ててアルテミスを掴もうとしたが、遅かった。
ドガンーーー!!!!
突然起こった爆発音。舞衣がすぐ振り向いた。
爆発を気にしただけではない。
その爆発が発生する前に聞こえた音、
矢の音ーーが気になるんだ。
【遠距離には遠距離を、だな】
案の定、炎が、アルテミスを手にして、黒い矢を乱射してる。
「あいつ…!あたしのアルテミスを……!」
声は不満なようだが、舞衣の顔は、嬉しそうに見えた。
無数の矢が弓から放たれ、空に浮かんでる敵を貫通していく。
敵ももちろん回避するが、正面からの矢を躱したところで、
後ろから別の矢が追撃する。
あるいは、一つの矢を撃ち落としたとしても、
その後ろに隠されて、同じ軌道をなぞったもう一本の矢が、そのまま顔面を破壊する。
「すごい…!」
「グングニルだけではなく、アルテミスも…!複数の神具を同時に扱えるなんて…」
シアは驚嘆の声を発しながら炎を見つめた。
神具は神の分身ともいえるものだ。自身の最大限の力を発揮するために、神具に独特性を練り込んでいる。その関係で、一柱の神が持つ神具は、基本一つだけと限定されたはず。
それはつまり、自分の専用神具以外は、他の神の神具の使い方を知らない、使えるはずがない。
なのに炎はそもそも神具持ってないのに、平気でグングニルとアルテミスを使いこなせてる。
例外ーーと言っても、憎恨の源のその特殊性がもたらした結果だと、シアが思った。
空を飛んでる神々に、標的を殺しきる前に止まらない矢が徘徊するーー
叩き落とすか躱すだけでは、不十分だ。
「ならば…!」
エディナンはすぐ次の手を打った。
聖術か魔法を使える神意を集合させ、源素をーー膨大な術を構築し始めた。
その周りは、さらに防御に長けた神意を配置させ、
術の完成を邪魔させないように、居界を展開してる。
「お前を倒す…!倒して、お前の力を手に入れ、ボクが本物の神…始まりの神を超える存在になる!そして、この世界の全部の神や人間を消し、本当の神々の黄昏を完遂するんだ!!!!!!!ボクが、新世界を創るんだ!」
エディナンの叫びと共に、術は一瞬で完成し、聖術と魔法、違う系統の術陣が、現れた。
【なるほど、それがお前の目的か】
炎は静かにアルテミスを構え、
【ラグナロクの再臨…させない】
彼の周りの霧が、弓に纏わりつき、矢を形成させた。
銀の輝きを放ってるアルテミスは、黒い霧の影響で、禍々しいオーラを放出してる。
「ボクは支配者だ!!星の代行者だ!お前みたいな捨てられた存在など!ボクに勝てるわけがない!」
エディナンは炎に向けて、
「消えろ!神技・壊星の咆哮」
自分の神技を解き放った。
神を、星を壊すための、エディナンが編み出した、自分専用の神技。
過去にこの技を受けた敵は全員、塵となって消えた。
今回もきっと、例外ではない。
構築された術陣から、黒と碧が混ざりあった巨大の光の波が現れ、炎に飛んで行く。
「「「炎……!!」」」」
その場面を見たシア、ライ、舞衣、三人は炎を助けたい気持ちはあるが、
力になれないことを自覚し、緊張の声で彼の名を呼ぶしかなかった。
【ふん】
炎は、またもや笑った。
【神技でその程度か】
アルテミスの矢は形を成し、その鏃の先端に、黒い霧がさらに丸い玉の形に変形した。
【怒りを放て、アルテミス】
冷酷の声で炎はアルテミスに命令を下し、矢を射ったーー
しかし、矢が飛んだ、ではなく。
鏃に集まった黒い霧の弾が、放出された。
小さい玉から、黒く太い光の束に変わり、エディナンの神技を目掛けて飛翔する。
「打ち合うつもりか!?バカめ!神技でもない攻撃でボクに勝てる訳が……」
エディナンの神技と炎の黒い光束がぶつかった瞬間ーー
拮抗することはなく、エディナンの神技が一方的に飲まれ、そのまま黒い光束は、
神技を放った神意の集団に向かい、彼らを消した。
そして光のその勢いは止まらず、外に向かって飛んで行く。
「……そんな…ありえない」
黒い光が、エディナンの神居に、穴を開けた。
それも小さい穴ではなく、短時間で修復不可能の大きい穴だ。
それを経験したことのないエディナンは、肝を冷やした。
(ボクの神居は空間だけではなく、時間も支配してるぞ!?)
それを破るために、空間と時間を同時に壊さないといけない。
なのに、簡単に突破された。
そんな、蛮力で…!
エディナンは改めて目の前の存在を見つめた。
憎恨の源ーーかつて、誰かから聞いたことある。
『あれは強いだけじゃない。あれは、世の中のすべてを壊すものだ。天聖族も、魔星族も、人間も、神意も、そして神も、理も。あれの存在は、常識や知識で考えちゃいけない』
あの言葉を言った神意は、もう死んだ。
だから、力弱い神意が話した気弱な内容だけだと思った。
信ずるに足りん。
しかし、目の前のこれは、もしかしたら、本当に、
あの人の言うように、自分の神としての知識と経験が通じない可能性は?
それを連想した時、エディナンは唸り声を上げた。
「いやいやいやいやいやいやいやいやありえないありえないありえないありえないありえない」
エディナンは頭を抱えて、苦しそうに藻搔き出した。
【どうした?】
そして、三度目の問いかけ。
【もう終わったのか?】
「ーーー」
エディナンは、口を噤んだ。
寒気がした。
自分の神技さえも一撃で打ち破った相手に、これ以上何ができる?
考えろ。
そうしないと、死ぬ。
(…死?)
ああ、そうか。
あの違和感の正体は、これなのか。
ラグナロクを前に、神々が感じたのは、これなのか。
終わりーー
「終わって……!たまるかーーーーー!!!!!!!!」
エディナンは怒りに満ちた声で叫び、再び配下の神意を操り、炎に攻撃を始めた。
炎は、極めて冷静で、表情一つ変えることなく、自分に接近する数え切れない種類の攻撃を見てる。
【ふむ、どうやらもう手段がないようだな、なら】
その言葉を発したと同時に、炎は姿を消し、
【もう終わりにしよう】
「……な!?」
次の瞬間は、エディナンの隣に出現した。
エディナンは反撃をしようと体を動かしたが、彼が次に見えたものは、
地面だった。
炎は、エディナンの頭を掴み、彼が知覚できない程の速度で、地面にぶつけようとした。
【地神爆】
エディナンが地面にぶつかる前の刹那、炎の声が響いた。その声と共に、
黒を内包した巨大の光の柱が、地面から空に向けてーー空を貫く勢いで、登った。
それは、見たことある技。
シア、ライ、舞衣、三人がよく知ってるあの神意の得意技だ。
「え!?炎は使えるの!?いつの間に?」
「たぶん、福徳さんが自ら力を炎に渡したから、使えるようになったじゃないか?」
「はい。炎は、しっかり受け継いだね…」
シアが涙を流した。感動、悲しみ、言いようがない感情。
姿がなくても、彼は生きてる、炎の心の中。
それが今、力となり、炎の戦いを支援した。
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