第22話 再臨のラグナロク~その一~
「あははは!どうだ!」
エディナンは炎に不意打ちの源素弾を一発撃った後、隙を与えず、さらに数発を打ち込み、本気で殺す気で追撃を掛けた。
そしてある程度攻撃を入れた後、炎はもう死んだと考え、手を止めた。
が、
【どうした?もう終わったのか?】
「…!?」
煙の中から、炎の声が伝わってきた。
それから煙が薄くなり、エディナンは彼の姿を見ることができた。
「バ…カな」
彼が見た炎は、傷だらけーーではなく、寧ろ傷一つもない、服に掠り傷も入ってない、何事もなく立っている炎が、そこにいる。
【これがお前の全力か?】
「くっ…調子に乗るな!」
エディナンは余裕を失くし、遊びの口調も言わなくなった。彼は再び源素を集めた。しかし今度は両手にではなく、上空に、自分より数倍大きい源素の塊を、形成させた。
「ははは!これの直撃受けたら、いくらあなたでも平気で済まないよ!」
【なら、ささっと撃て】
「……!」
その挑発が、効いた。
「死ね!」
エディナンは迷いなく、超巨大源素の塊を、炎に向けて投げた。
自分だけではなく、周りの環境も簡単に飲み込めるほどの大きさ、
言うなれば、小型の隕石ーー
しかしその威力、隕石より断然強い。
神の力で意図的に創られた破壊兵器は、自然発生した災害よりは、遥かに格上。
何故なら、そこに『悪意』があるから。
それでも、
バンーーー!!!!
源素の塊が落ち、鼓膜を壊すほどの音を起こし、元々穴だらけの大地を、さらに大穴を開けた。
その余波で、最初から神居にいた死体と、神殿の柱や神殿そのもの、全部ーー吹っ飛ばされた。
「は、はは…くははははは!!!!!!」
直撃。
エディナンは勝利を確信して、笑った。
ぶつかった直前でも、炎は動いてなかった。
彼は、避けなかった。
「避け…なかった?」
彼は笑うのをやめた。
何故?
避けられない?
いや、そもそも自分が源素を集めてる時点で、彼には自分に攻撃を仕掛ける機会は、あった。
でも、彼はそうしなかった。
出来ないはずがない。
彼から感じた力は、その底なしの力は、本物だから。
だとすると、
【もう終わったのか?】
「……!?」
先と同じ言葉が、再び響いた。
聞き間違いではない。いや、この際、逆に間違いでよかったかもしれない。
だって、その言葉が言えるっていうことは、
【お前の全力は、こんなものか?】
霧とは別で、神居は莫大の煙に満ちた。
その煙を、彼は簡単に払った。
【なら、今度は俺の番だな】
煙が消え去ったその爆心地に、炎が、憎恨の源が立っている。
それも、また、無傷の状態で。
「…ありえない」
エディナンは後退った。そのことに、彼は違和感を感じた。
(ボクが、後ろに下がった?)
今まで一度もそんなことなかった。
どんな相手でも、自分より強い相手でも、そんなことは起きてなかった。
でも今回は、違った。
その違和感の正体はーー
それを考える時間を、炎は与えなかった。
「ぷっ……!?」
エディナンの顔に、重い拳が、彼の顔を歪めるほどに、ぶち込んだ。
そして彼は、飛んだ。
暫く止まることなく、遠いところへ、飛ばされた。
炎の一撃で。
大地はエディナンと共に、線状の裂け目を引きながら、破壊されていく。
その一撃は、簡単に、エディナンの源素の塊の威力を超えていた。
「がは……!」
血を吐いた。数千年ぶりに、血が。
やっと勢いが止まった時、エディナンはもう元居た場所から、
数キロメートル外のところに飛ばされた。
自分の神居の効果と範囲に助けられた。
でも、安心はできない。
相手は、素手の殴りで、自分の居界を破った上に、遠くまで吹っ飛ばせたバケモノだ。
それに通常の源素攻撃も効かない。
【どうした?対策を考えてるのか?】
「……!?」
声が響いた。先まで何とも思わなかった声が、今は、別の意味を帯びてる。
【対策あるんだったら、早く出せ。言っただろ、】
彼はゆっくりと距離を詰めながら、無表情で、その言葉を告げた。
【最初から全力で来い。さもなくば、一瞬で終わるぞ】
「ーーこの、クソかーーー!?」
エディナンは空に飛び上がり、距離を取った。
彼はまた源素を集め、
【ん?】
しかし、先みたいに塊を創るではなく、全体的にーー神居に含まれてる源素を引き起こし、
何かをやろうとした。
「ボクの本気を見たいだな?見せてやるよ!」
神居の中にある死体や兵器、空に浮かび上がり、エディナンの両側に集まった。
「神々の姿を、その目に焼き尽すがいい……!」
兵器が死体の前に浮遊し、そして死体の手が動き出し、兵器を掴んだ。
それと同時に、空から光が降り、死体を包み込んだ。
光の中、死体の体が変化していくのが見える。
同じ形にではなく、それは、各々固有の姿に。体に血の色が抜けてる事だけが共通している。
【これは…】
精悍の顔立ちを持つ大男。他者を魅了する目付きを持つ淑女。手にハンマーを持つ戦士らしき男性。
その数は、千を越えるーー彼らは兵器を力強く握り、空洞の目で炎を見つめた。
【アフロディーテ、トール…なるほど、そうか】
それは神々によって結成した軍団だ。
その中に、オーディン、アルテミスーーグングニルと神具・アルテミスの遥か昔の所有者の姿もいた。
●
戦況が激しくなり、先隠れた場所も安全ではなくなった関係で、
シアたちはさらに遠い場所に移動しで、炎とエディナンの戦いを観察することにした。
「シア!隠れるより、ここから脱出する方法はないのか!?」
「ないの!神居は一旦展開された以上、その主が自分の意思で中にいるものを外に帰すか、主が死なない限り、逃げることはできないの!」
「そんな…!じゃあ、あたしたちは逃げ続けるしかないこと!?」
「そうなの!だから、全力で走って!」
移動している途中で、彼らは神居を抜け出す方法を議論したが、無理だった。
(…空間を壊せる神具か、神技もしあれば…)
シアは走りながら、グングニルとアルテミスを見つめ、力を探知した。
しかし、強さは前とさほど変わらなかった。
期待は、できない。
脱出を諦めたシアたちは、遮蔽物がもう大部壊された広大な神居の中に、
辛うじて適切の場所を見つけ出し隠れた。
距離は炎とちょっと離れてるが、彼らははっきりと神意たちの外見を確認できた。
それと同時に、ライと舞衣の神具が振動し始めた。
「わっ!?何!?」
「グングニル!?どうした!?」
「これは…」
神具・アルテミスとグングニルからは、戦闘する時に、力を解放するオーラとは別のものが溢れ出してる。
「怒り…なの?」
シアが不思議に思った表情で、二つの神具を眺めた。
「え?怒り?アルテミスが、怒ってるの?」
「グングニルが…そうか、この気持ちは、そういうことなのか?」
かつての使い手が今、目の前にいる。それも元気の姿ではなく、人に操られ、惨めな状態。
例え武器であっても、許せない気持ちは、沸き上がるものだ。
「力強い神具は、たまに自分の意思を持ってる個体があるの。言葉を話せないけど、たぶんグングニルとアルテミス今は、自分の持ち主のために怒ってると思う」
「…そうだな、オレも親しい人が、死んだ後も人にいいように使われたら、腹が立つ」
「アルテミス、一緒に炎を応援しよう!」
今の持ち主の声で、二つの神具が振動を止め、落ち着いた。
●
炎は無言で、エディナンと神々を見上げてる。
その反応に、エディナンは上機嫌に笑った。
「ふははは!怯えたか!これはボクの神居の力だ!神を…」
【人の死体を依り代にし、さらに偽物の神具を持たせることで、神意、もしくは神を一時的召喚する能力だろう。言わば降神術ってところだな。
神居を四日目の夜に限定したのは、四という数字は死と連想する。さらに夜であれば、死のイメージを強固のものにできる。何という児戯だな】
得意げに自分の強さを口で表現しようとしたエディナンは、話す前に炎に遮られ、
さらに力の正体もバレてた。
「…児戯、だと?」
何より聞捨てならない言葉を、炎は平気で口にした。
「なら、その身で受けてみようじゃないか!神々の怒りをな!」
エディナンは手を大きく振り払って、
「行け!ボクの僕たちよ!」
偽物の神たちに、攻撃の指示を出した。
ある神は槍を、ある神は弓を、ある神は三叉槍を。
数千柱の神が、一斉に炎に向けて、攻撃を仕掛けた。
「■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!!」
彼らは声にならない声を放ちながら、遠方から狙撃する神や、突進してくる神もいる。
あるものは魔法を、あるものは聖術を。
それぞれ得意とする戦う方法で、炎を狙う。
「偽物と言っても、神だ!無様に消え去るがいい!!」
偽物の神の攻撃は、先ほどエディナンが撃った源素の塊と同等かそれ以上のものだ。
それを同時に放たれた。いくら憎恨の源といえどーー
【ふん】
炎が、笑った。
そして、
シャーー
一閃ーー彼に近づいた神は、目に留まらないスピードで何かに両断された。
その後に接近した遠方攻撃も、炎は黒い霧を集め、盾を形成し、簡単に防御した。
「な…!?」
何が起きた?
エディナンが目を離していなかった。それでも、炎の動きは見えなかった。
炎が黒い盾を解除した時、彼はやっと答えを得た。
「グングニル…!?」
いつの間にか、ライのグングニルが、炎の手に持たれた。
「な!?オレのグングニルが何故!?」
ライは先までグングニルを握った自分の右手を見た。そこには、何もなかった。
ただ黒い霧と、影が地面に広がっているだけ。
【目には目を】
突き刺し。
【歯には歯を】
横に薙ぎ払い。
【神意には、神具を】
紫の雷が、漆黒の雷電に変わり、近づくものを全員、焼き尽した。
その雷は、さらに天に昇り、空を蝕んでいく。
暫くすると、紅い月に染まった鮮血のような空から、
雷の束が、落ちた。
その雷は、まるで意思を持ってるように、エディナンが召喚した神だけを狙い、奔った。
雷に飲まれた敵は、灰燼になっていく。
「グングニルで、そんな戦い方を…」
ライは動揺した。
一年も使ってた神具だ。長いとは言えないが、短くもない。
それを今、触ったばかりの人が、まるで本当の持ち主みたいに上手に使ってる。
意味不明すぎる。
シアも、別の事で驚いた。
炎が一人で複数の神を相手に、余裕で対応してることだけではなく。
神々が、敵と戦い、殺され、消え逝くこと。
それは、天聖族の歴史に書いた、遥か昔に起きた出来事を彷彿とさせる。
ラグナロク。
神々が黄昏を迎えるという意味の言葉。
黄昏は即ち、日が落ちること。
生命を象徴する日が、落ちる。それは死と同じことだ。
つまり、ラグナロクは、神々の死とも言える。
目の前の風景は、まさにそれだ。
「再臨の…ラグナロク…」
シアが、独りでに呟いた。
この作品に興味お持ちの方、
PTや下の「小説家になろう 勝手にランキング」や「ツギクル」のバナー押していただいて、
応援していただければ幸いです。