第21話 憎恨の源(ぞうこんのみなもと)~そのニ~
「憎恨の源…!」
エディナンは、自分の体を抱きしめ、小刻みに震え出した。
しかし、それは恐怖からではない。
「は、はは…あはははははははははははーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
笑い。エディナンは狂ったように笑った。
彼は、体も、心も、歓喜に満ちた。
何故なら、目の前の存在は、彼が追い求めてたものだからだ。
【何を笑ってる?】
「ああ、これは失敬。噂を昔から聞いてたが、やっと本物と出会えて、つい」
【昔から、か。その口ぶりだと、お前も俺を狙う大勢の中の一人だな】
「そうとも。あなたはどういう存在なのかを、あなた自身が一番知ってるはずだよね」
【ああ。だから、俺が取るべき行動も、一つしかない】
炎は、右手を少し上げて、エディナンを威嚇するように、黒い炎を創った。
「はは、それでいい」
エディナンも、両手に黒と碧の色が混じった源素を展開し、炎と対峙する。
●
エディナンと炎が話を始めたとほぼ同時に、
ガラン。
シアの枷が突然解かれた。
「え…?」
誰も自分の隣に来ていない。
自分に対して、魔法か聖術、もしくはなんか神能を使った人もいない。
でも枷は壊れた。
その理由を、シアが知っている。
彼女は自分の周りに漂う黒い霧を、見つめた。
普通に流れているだけなのに、枷に触れた途端、それが砕かれた。
まるで『敵』として認識して、それを破壊したみたいに。
(やはり、危険です)
彼自身だけではなく、その身から溢れる力も、尋常じゃない。
しかし今は気にする場合ではない。
ライと舞衣を助けないと、特に舞衣が、死んでしまうかもしれない。
シアが後ろの岩山を踏み台にし、力いっぱい蹴りを入れ、
反動力で一瞬で舞衣が倒れた場所に着いた。
彼女は顔を下に向けて、地に伏せてる姿勢で倒れてる。
「舞衣…!」
「うう…あれ、あたし…」
とりあえず声を掛けた。幸い反応がまだある。
酷い傷に、先の炎の死でショックを受けて、ちょっと失神しただけみたい。
「大丈夫!?今治してあげ…」
シアは彼女の体を見て、傷を治そうとした時、
「傷は…ない?」
シアが目を開いた。明らかにエディナンに貫かれた胸の傷口が、今は痕も残さず、綺麗に治ってる。
「…え、シア?シアだ!枷を解けたの!?どうやって!?」
体を起こした舞衣は、自分の体より先にシアの状況を確認した。
「霧が枷に触れて、それで枷が壊れた…それより舞衣!傷大丈夫なの!?」
焦ってるからか、シアの口調はいつになく荒い感じになってる。
「え?傷?あ、そうだ!あたしは…!」
シアに問われて初めて、自分が重いケガをしたことを思い出した。
彼女は頭を低くし、自分の胸あたりを見た。
そこはやはり、穴ところが、傷一つもなく、綺麗な胸があった。服が破れてることを除いて。
「治ってる…!なんて!?」
「…霧のおかげ、だね」
シアが神妙な顔で神居を埋めつくした霧を見回した。
通常の霧は、一気に、それも大量に発生する。
そのせいで、視野がぼやけて、周りが見えなく、迷子になる。
しかし今、自分たちの目の前の霧は、ちょうど視野を遮らないように、人の高さまでしか流れてない。
まるでコントロールされてるように。
「二人とも無事か!?」
「ライ!」
ライが、エディナンに吹っ飛ばされて倒れた場所から、走ってきた。
その両手は、骨折ーーしてない。
「ライの方こそ!腕は…」
「ああ、見ての通り、治ったよ。なんか霧に包まれたあと、突然治った。他の傷もなくなった。わけわかんない」
「…どういうこと…?」
おかしい。『彼』の力は、破壊の力のはず。人を治せるなんて、聞いたことない。
でも、それよりもっと大事なことがある。
「早くここから離れて!巻き込まれたら高い確率で死ぬわ!」
シアが慌てて舞衣を支えて立たせた。
「え?でも炎が…!」
「今の彼は一人で大丈夫なの!私を信じて!」
「そんな…!」
「…舞衣、とりあえず信じよう。それに今の炎は、普通じゃないこと、分かるだろう?」
「…分かった」
舞衣はシアに引っ張られる形で、ライと一緒にその場を遠ざけった。
その動きを、エディナンはもちろん知ってる。
「…お友達は撤退したみたいね。それも傷が治ってる状態で」
【そうだな。追わないのか?】
「はは、冗談言わないで。メインディッシュはもう目の前に出されているのに、誰かアペタイザーをお代わりするの?」
【そうか。俺にとってお前は、食事すらも言えないゴミクズだがな】
「へえ、随分ないいようね。そんなに自信あるんだ?」
【あるとも。むしろ忠告だ】
炎はエディナンをまっすぐに見つめ、宣言した。
【最初から全力で来い。さもなくば、一瞬で終わるぞ】
「…ふ、ふふ…」
エディナンは低い声で笑った、そして、
「ならば、喰らえ!」
予備動作もなく、エディナンはいきなり両手に集めた源素を放った!
ドーーガンーーーー!
凄まじい爆発が起こり、周りの神殿を、元の形も分からないぐらいに壊した。
その轟音を、衝撃も、既に五百メートル外の距離を離れたシアたちは、
遮蔽物に隠れながらも、それをまるで身近に起こったように、はっきり聞こえて、感じた。
「始まった…!」
「凄い力だな…」
「…ねぇ、シア」
戦いに心を寄せるシアとライとは別に、舞衣が抱えた疑問をぶつけた。
「なに?」
「あれは、炎なの?」
「ーーーー」
「シアはなんか知ってる感じだけど、あたしの勘違いだったらごめん」
「…いえ、大丈夫です。舞衣の言う通り、私、彼のこと知ってる。あれは、炎じゃない」
「炎じゃない?でも、炎の顔だよ?声も一緒だし。まあ、雰囲気がちょっと違うけど」
「そう。同じなの。だけど、違う。あれは炎の体を操るバケモノなの…多分、シャファだと思う」
「どういうこと?分かりやすく説明して」
「…天聖族ではあまり口にしてはいけないことだが、二人にはその権力あるし、義務もある。分かったわ」
シアが意を決した眼差しで、炎とエディナンの戦いに気を付けながら、ライと舞衣に、
「伝えるわ。シャファ…憎恨の源のこと」
●
憎恨の源ーー伝説によると、それはかつて、『始まりの神』が、自分の神体で世界を創った時、
不要と判断し、自身から切り捨てた存在。
それが何故か地上に放り出され、そのまま行方不明になった。
ただその存在が持つ力は途轍もなく強く、それを手に入れたものは神になれるーー
という噂が、いつの間にか世界中に流れ、
天聖界、魔星界、人間界など、意思持つもの全員はそれを求めて、探し出そうとしていた。
「そしてある日、世界が壊れた。今回と同じように」
「え?なんか話飛び過ぎたじゃない?」
「ええ。でもそれが本当に突然起きたことだから、それしか説明のしようがないの。その時の滅亡で、世界中の全員が知った、憎恨の源が本当に存在する、と。しかし、どこにあるか、誰が持ってるか、そもそもどんな形なのか、誰も分からなかったので、結局謎のままで、また伝説になったわ」
「でも、シアは知ってたよね。炎がその憎恨の源という存在ということ」
「…はい、知ってたわ。そのために一番大事なことは、彼を探し出して、保護することだったの」
「知ることできたのは、何故?」
「…それは、とある方からの御告げをもらったから」
「とある方?」
ライが『とある方』のことを追求しようとした時、
「え、ちょっと待って。じゃあ何?シアは炎がこうなることも知ってたってこと?」
舞衣が戦ってる炎の方を指さして、驚く顔でシアに問いかけた。
「違うの!そんなことにならないように、封印を掛けたの!」
シアが大声で舞衣の話を否定した。
「彼はどんな存在であれ、私は守りたい。だから、あえて憎恨の源であることを言わなかったの。記憶の事も、刺激を与えないように、わざと触れないようにしたの」
「「そういうことだったのか…」」
シアの今までの行動の謎は、ライと舞衣がやっと理解した。
「でも、炎…いえ、今の彼は炎ではないわ。どちらにせよ、彼がそうなる以上、もう誰も止められないわ。憎恨の源の力は、強いだけではないから」
「え、強いだけじゃない?どういうこと?」
舞衣の質問に、シアは息を呑んで、
「彼の力は、理すら壊す力だわ」
炎を、凝望した。
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