第20話 憎恨の源(ぞうこんのみなもと)~その一~
エディナンが炎を殺した後、見せしめのように、彼の首を片手で掴み、体を引きずりながら、神殿から外に出た。
そしてエディナンの姿を見たシア、ライ、舞衣は、もちろん彼が持ってるものも認識した。
「ウソ…だろう」
「そん…な」
ライと舞衣が、絶望的な気持ちになった。
普通の知り合いではなく、自分たちの大親友が、無惨に殺された。
炎の血まみれな姿を見て、彼らはあの日のことを、思い出した。
●
あの日、ライはサッカー部の部活に参加した。
ただ、たまたま調子が悪かった関係で、早退した。
着替えるために三階の教室に戻ろうとした時、
あれが、起きた。
『地震…!?』
最初は強い地震だけだと思った。
安全のために、自分に近い一階の教室に逃げ込み、身を隠した。
しかし、地震が一向収まる気配がない。
それところが、教室の壁が、割れ始めた。
やばいと認識した時、もう手遅れた。
教室から外に逃げようとしたライは、そのまま壊れた天井に埋まれて、意識を失った。
次に目を覚ました時は、
周りの景色はもう変わった。
今まで通っていた学校は、面影もなく壊れて、
部活で使うサッカー場も、まるで水を枯らした川みたいに、地割れた。
そして一番大事なのは、
「みんな…死んだ?」
自分は運よく完全に埋もれてなかったが、他の学生は違った。
壁に押されて死んだ。天井にぶつかれて死んだ。四階の教室と一緒に落ちて死んだ。
目が届く範囲に、生きてる人はなかった。
「ウソ…だろう」
悪夢であってほしい。しかし身に襲う痛みが、それが現実だと無情に伝える。
そして、ライは動いた。
生存者を探す。
人を助けないと。
彼は、学校だった場所を彷徨った。
●
『炎も帰ったし、ライも部活だし、つまんないの』
放課後の教室、舞衣が一人愚痴ってた。
親友はみんな用事があって、教室を早々離れたから。
彼女は教室の窓を越えて、外を見る。
綺麗な夕焼け。冬の時期、太陽が沈むのが早い。それはいつも通り。
だけど、その日の太陽は、何かが違った。
紅く、赤く、朱く、血のような色をしてる印象だった。
それに不安を覚え、自分も早めに学校を離れようとした時、
「舞衣~これから私たちカラオケいくけど、一緒に行く?」
別のクラスの友たちに声を掛けられた。
いつも炎たちと一緒だから、たまにこういうのも悪くない。
あたしは彼女たちとゆっくり話ながら、自分たちの三階にある教室から、階段を下りた。
それがだめだった。
階段を下りてる途中、地震が起きた。
「え…え!?」
「地震!?ギャ…!」
地震と反応する前に、階段が裂いて、一階までバラバラに落ちていく。
あたしは運よく手摺を掴んで踏ん張ったが、友達みんなが、
階段と一緒に落下して、さらに壊れた壁や床に埋もれた。
「ひ…!」
死んだ。姿見てないけど、絶対に死んだ。
あたしは恐怖を覚え、急いで階段を上り、別の道を探し、学校から脱出しようと考えた。
でも、
「や……!?」
廊下が傾くーーいや、学校が、建物が、倒れる!
それを理解した時、あたしは死を覚悟し、その後意識が飛んだ。
…覚悟したけど、生きていた。
意識取り戻した後、あたしは山積になってる瓦礫から抜き出し、
状況を確認した。
「ひどい…」
何もかも壊れた。視野にあるここが学校だと分かるものは、両断した黒板と、教室の学年表示板ぐらいだった。
舞衣は廃墟となった学校を歩きながら、生存者を探してた。
そして、彼女と出会った。
『大丈夫ですか?』
羽を持つ、神聖なる気配を纏う存在。
天使ーーそれしか彼女に相応しい呼び名はない。
地獄のような場所で、これが舞衣と、アイニレシアの初対面だった。
●
「「炎ーーー!」」
「いやーーー!」
ライと舞衣、シア、全員は炎の死体を見た瞬間、絶叫した。
友の死、愛してる人の死。
言いようのない悲しみが、彼らの心を満たしていく。
「結局、何も起きなかった。つまらないね。本当に人違い?でも彼女が付いてるのに…」
エディナンはシアのお方を見て、不思議と思った。
「まいっか、こっちは期待はずれだけど、本物のグングニルとアルテミスがあるから、多少の足しになるだろう」
エディナンは視線をライと舞衣に戻し、彼らに近づこうとした時、ふと、
異変を感じた。
その異変を、シアも同時に察知した。
「ん…あっ…!?」
彼女は苦しい顔になり、若干苦痛が入ってる喘ぎ声が漏れた。
シアの胸に、金色の紋様が浮かび、そして砕かれた。
自身に何の被害がある訳ではないが、彼女の顔から、血の色が失っていく。
「封印が…解けた…」
先までの悲しみが、この一瞬の出来事で、完全に消された。
エディナンは、シアのように明確に何かを感じた、ではないが、
彼は、自分の左手を見た。
左手が、ない。
「…え?」
目を開いた。戦闘に影響が出ないように、痛覚を消すか、抑えるのが神意ーーひいては神のやり方だが、手が切られても気づかないなんて、ありえない。
彼は後ろを見た。
そこには、自身の頭を持ったまま、体に数本の剣が刺されたまま、
それを全く気にしてない、炎ーーの死体が、立っている。
ゾクっ!
エディナンは、驚愕した。
死人が動くことに、ではない。
目の前の死体から、得体の知れない何かを感じたからだ。
神である自分も知らない、何かが。
「炎…?」
「どういう…こと?」
ライと舞衣も目の前の現象を理解できない。
ただ一つ、もしかしたら炎が生きてる、という望みだけが生まれた。
「…やっと本気を出した、てことかな?でもその状態じゃ、ボクを倒せるとっても?」
【ああ、確かにこの状態は不便だな】
「ーー」
死体が、喋った。
…別におかしいことではない。しかしその死体は、
切られた首の方ではなく、首のない場所から、声を出した。
異常ーー自身の経験から見ても、普通じゃない。
エディナンを気にせず、死体が行動した。
いや、正確に言うと、死体の『影』が行動した。
足元の影が、足を伝って、胸あたりに移動し、体に刺さてる剣を、喰った。
神居の中にあるものは、全部使い手の力の一部だ。つまり、簡単に壊されるはずがない。
相手の力が自分より強くない限り。
でも、現に影に難なく食べられた。
エディナンは、顔を引きずってしまった。
【ふむ、兵器でもまあまあの力あるのか、さすが神居の産物だな】
自分の武器をあさっり喰われたのを見て、エディナンは不機嫌になり、荒い口調で質問を投げた。
「…何なの、あなた」
【俺?お前が一番分かるじゃないか?】
その答えを聞いたエディナンは、興奮と驚きが混じった気持ちで、目の前の死体を見つめた。
【そうだな…せっかくだし、ちょっと自己紹介するか】
言葉が終わると同時に、死体から、黒い霧が溢れ出した。
その霧がエディナンの神居を瞬く包み、異様な場所をさらに異質な状態に変えた。
そして、霧の中心にある死体も、変化を遂げた。
左手に持っていた炎の首が、消えてなくなった。
体中の傷も、いつの間にか治ってる。
元々首がなくなった場所に、霧が集まり、そしてだんだん形を成していく。
最後は、首になった。
その首は、若い見た目で、綺麗な顔立ちを持ってる。
そうーー炎の顔だ。
それを見たライ、舞衣は驚いた。
炎が、蘇った。
喜ぶべきことーーなはずなのに、
一人だけ、笑顔をどうしても出せなかった。
シアだ。
「ああ、結局、こうなってしまうんですね…私の力不足の関係で…」
悔しい気持ちが、その言葉に込められてた。
首を再生した炎、彼の体の周りに漂う霧がさらに濃くなり、不穏のオーラを放ってる。
今までの彼の雰囲気と全く違う。
同じ顔の別人ーーライと舞衣は、そう思った。
そして炎は、言葉を紡いだ。
【俺は、お前が求める『黒い力』。我が名は、】
その名が告げられたと同時に、
【憎恨の源だ】
大地が、揺らいだ。
まるでその存在を畏れて、震えるようにーー
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