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再臨のラグナロク  作者: ちさん
一章 神の災涙
19/28

第19話 ■■

「うあっ……!?」


夢?俺は、また夢を見た?

いや、見ーーてない。


俺は周りを見つめた。

真っ白の空間と黒い空間が半分半分占めてる、おかしな場所。

俺は白い空間の方に座ってる状態だ。

訳わからないが、何故か懐かしさを感じる。


【それは感じるだろう。だってここは、お前の魂ーー神璃の中だからな】


そして、聞き覚えのある声。それはーー


「シャファ…!」


黒い空間の方に、黒い霧を纏った人影ーーシャファが椅子に座ったまま、俺に話しかけた。


「お前、今まで何を…!いや、それより俺は、死んだはず…?」

【ああ、死んだよ。間違いなく】


シャファはどっから出したコーヒーをゆっくり飲みながら、

指で『パチ』と音を鳴らし、黒い空間に映像を映し出した。

その映像が、つい先俺がエディナンにやられた数々の拷問だ。


そして映像は、俺の首が切られたのを最後に止まった。


「いやいや、お前、俺が死んだら困るって、前言ってたじゃないか!力を貸してくれなかった関係で、あっさり死んだぞ!?」

【いきなり大物と出くわすことは予想外だ。ゆっくり時間を掛けて、俺の力の使い方を教えるつもりだったがな。それに、福徳との約束を守るつもりだったじゃないか】

「…!それ、は」


そうだ。福徳との約束を守るために、最後まで俺は、シャファに呼びかけなかった。


【一応、本体のお前の意思を尊重するつもりだが…まあ、俺の落ち度でもあるが】

「…もういい。それより、俺はもう死んだけど、もしかして何か方法あるか?蘇る魔法か聖術とか」

【俺はそんなもの使えないぞ】

「じゃあ何もできないのか?俺はこうして死んだのに意識が持ってるのは、お前の力のおかげだろう?」

【そうだな、俺の力のおかげだな】

「もったいぶらないで、さっさと答えろよ!」

【ふむ、そこまでして、戻りたいのか?】

「あ?何言って…」


シャファはコーヒーを一口飲んでから、話を続けた。


【時には、死んだ方がいいということも、あるんだぞ?例えば家族が経済に困る時、会社の仕事がうまくいかない時、戦争が起きてみんなが食料を飢え求める時とかな】

「突然何の話だよ。それに、経済に困るんだったら、俺が仕事に行っていっぱい稼ぐし。仕事がうまく行かない時は、みんなと相談してよくなるように改善するし。食料が欲しいであれば、探すまでだ。それだけのことだろう?」

【ポジティブだな】

「お前は違うのか?」

【俺の考えを、お前が知ってるはずだ】

「はあ?知るわけが…」


反論しようとする時、聞こえた。

底なしの、暗い、冷たく、呪いみたいな声が。


『あなたが死ねば、家族の経済が回せるの!だから死んで!』

『何でこれぐらいの事もできなんだよ!会社のクズ!死ね!』

『食べ物欲しいの…ねぇ、人肉もいいから、欲しい…だから、死んでくれる?』


「…………………!!!!!!!!!!!!!!!!!」


吐き気がした。

背筋に寒気が襲った。

怖い。

エディナンと戦う時とは別種の怖さを、感じた。


シャファーー目の前の、この正体不明の影から。


【どうだ?理解したか?】

「…お前は、何なんだ?そんなもの、もう一人の俺のはず…」

【否定できるのか?この空間からも、俺からも感じた、懐かしい気持ちを】

「…百歩譲ってお前はもう一人の俺だとしても、俺は死ぬことを決して選ばない。死んだ方がいいことは絶対にない。生きてるこそ、よりみんなの助けになる。よりいい未来を創れる」

【…言い切るのか】

「ああ」

【…分かった。じゃあ本題に入ろう】


シャファは椅子から立ち上がり、右手をぶら下げて、そしてゆっくり上に上げた。

その動きと共に、床ーーというべきか、俺が立ってる場所の前に、あるものが浮かび上がった。


「これは…(ひつぎ)?」


六角形の棺、まるで古代吸血鬼が眠る棺桶(かんおけ)のそれ。表面の蓋に、綺麗な紋様が刻まれてる。

そしてその外側に何重の鎖できつく縛られてる。まるで中のものを完全に封印するために施された。


【それを開ければ、全部取り戻せる。死んだことも帳消しで、お前が望んだ、みんなを助ける願いも、叶える】

「これ、を…?」


ああ、何という簡単の話。

この鎖を解けば、俺が蘇る。

それだけなのに、


棺に伸ばした手が、止まった。


「え?」


迷った。ではなく、体が自然に反応した。

まるでそれを触ったら、何か悪いことが起こると感じたように。

拒絶反応。


【…どうした?諦めるのか?俺はどっちでもいいぞ】

「…いや、やる。みんなを、助けるために」


俺は拳を握り、再び棺に向けて、手を伸ばした。

鎖に触れた瞬間ーー


ドクン。


体が脱力し、震え始め、全身に鳥肌が立った。


「何だ…これは?」


気持ち悪い。だが、手を離しちゃいけない気がする。

先と違い、何か大事なものがこの中にあると、感じた。


【触れた…か、じゃあ、始めよう】

「…何を…」

【戻る準備を、な】


シャファが棺に向けて右手を払い、


八界輪廻(エトワド・リインカル)


何かを詠い始めた。


一限(ファースト・)封解(アンロック)


その呪文みたいな言葉に反応するように、鎖にヒビが入り、自ずと壊れていく。


チャラン、チャラン…


重い鎖の音が、静かな空間の中にあるせいが、余計に重いと感じてしまう。

瞬きする間、鎖が全部解かれ、棺の全貌が目に入った。


表が白に塗られ、他の場所は全部黒に染まっている。棺全体に、何かを意味するような金色の紋様が刻まれ、まるで生きてるように輝いてる。


【さあ、それを開けるんだ、それで戻れる】


戻れるーー棺を開ければ、ライ、舞衣、そしてシアを、助けるチャンスが手に入る。

俺は手をーー


【どうした?】


伸ばそうとした手が、止まった。


「シャファ。これを開ければ、みんなを助けられるのか?()()()?」


俺は、一番大事のことを、問いかけた。


【…そんなこと、俺は一言も言ってないぞ】

「…はは、嘘をつかないのか。分かった」


戻ったとしても、あのバケモノーーエディナンを相手しなければならない。

強い力を手に入れない限り、戻ったところで意味がない。

また殺されるだけだ。


でもーー


俺は棺に手を伸ばし、


助けるべき人は、ここではなく、現実にいる。

迷うことは、ない。


重い蓋に力を入れ、慎重に開けていく。

だが、蓋は少し隙間が覗けるまで開けた途端、棺の内側から、()()が湧きだした。

それらが勢いよく蓋を突き破り、俺を飲み込んだ。


暗い奔流ーー


反応もできずに、飲み込まれる前に見えたものは、一言で言うと、それだった。


しかし。そんな簡単のものじゃない。


悲しみ。妬み。欲望。傲慢。怠惰。不幸。虚しさ。絶望。そして、


憎しみ。


おおよそ考えられる人類の負の感情が、それが内包してる。


重い。


一人の感情ではなく、これは、数えきれない人の感情が、波…いや、海になってる。


耐えきれるはずもなく、俺は流されたるまま、意識を失った。



    ●



奔流の中に、


「最近、殺人事件多いよね?」

「ああ、ニュースも放送したな」


学校の帰り道、俺は■いと最近の出来事について話し合った。他愛のない話。毎日こういう感じ。

そう、これからも変わらない、と思ってた。

                                             』


思い、


「炎はあの日確か、早めに学校を離れたよね?れ■が心配と言って、下校時刻になった瞬間、あたしを置いて、一人で行っちゃったもん」

「…え?俺が?」

「うん。だから炎はあの時どうだったの、知らないよね。炎はシアがある日、見つけて村に連れてきた。でもシアも詳しい話を言ってなかったよね」

「そうだな。どうやって見つけたのか。何でそんなにセッキョク的に炎の世話をするのか、謎だよな」

「そんなことが…」

                                             』


出した。


少女に言われて初めて、自分の両手は何かを抱いてることに気付いた。

目をそこにやると、女性だ。胸に大きな穴が開いてる、高校生の制服を着てる、少女の()だ。

そう断言できたのは、もう彼女の体に、温度を感じないからだ。

ただの物になり下がった、名前を知らない人ーーそれなのに、自分の心が、悲しみを感じた。

涙が、溢れてきた。

                        

「うあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


そして、天に向かって、とめどなく、叫んだ。


『 』が死んだ。その事実を認識した瞬間、心が崩壊した。

                                             』


黒い靄が、消え去っていく。

彼女の顔が、全身の姿が、少しずつ鮮明に見えてくる。

腰まで伸ばしてる、艶やかな黒く長い髪。

可憐で華奢(きゃしゃ)な体つきだが、それと反対で、根はしっかりしてる。


何より印象に残ったのは、


いつも笑顔で、

明るく元気で、

何があっても挫けない、

頑張り屋さん。


ああ、何で、忘れただろう。


あんなに大切にしていたのに。

あんなにずっと一緒だったのに。

あんなに好きだったのに。


ああ、自分を守るために、忘却を選んだ、か。


なんという罪。


その罪を償うためにも、このまま死んだ方がいいだろう、きっと。

どうせ、彼女ももう、いないから。


目を閉じたまま、落ちる。どこまでも落ちていく。

負の奔流に任せ、この身の記憶と罪を、流していく。


『『炎ーーー!』』

『いやーーー!』


…聞こえる。懐かしい声が。

俺の名を覚えてる人、それを呼ぶ人、またいるのか。


目を開けた。


暗闇の中、いつの間にか、一縷(いちる)の光が照らしてる。

無意識にそれに手を伸ばした。

その光から、呼応するように、人の手が伸ばしてくる。


細くて、頼りなさそうな、綺麗な手。


「炎が何かあった時、私が守るから」

「いや、それは俺のセリフだろう?」

「ふふふ」

                                             』


…ああ、そうだった。君は、そう言ってたな。

俺が守るべきなのに、守れなかった。

でもそんなヘタレな俺でも、君は見守っているだろう、きっと。


そして、『諦めないで』、と。君は言うだろう。

なら、今一度、戻ろう。

君のためだけではなく、みんなのため。


いつか、どこかで会えたらいいな、例え、それが死んだ後の世界でも。

二人で最後までーー君もそう思うだろうか?


俺の大切な、(れい)

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