第17話 第四夜の支配者(フォナト・ヘルシャー)
「うっ…」
体が、重い。
両手両足が何かに縛られてる感じがする。
耳に大きい爆発の音や、金属がぶつかり合う響きが、絶え間なく入ってくる。
ゆっくり目を開けると、自分から少し離れた場所に、誰かが戦ってるのが見えた。
「…!炎!?」
炎の姿を確認した途端、朦朧とした意識は一気にはっきりした。
そうだ。私は、村を守るために、自ら人質になると伝えた。
その後すぐ、意識を奪われた。
今の状況を一刻も早く、把握しないと。
そう考えた私は、戦闘してる人たちの方を見つめた。
炎、ライ、舞衣。自分が守るべき人たちは今、凶悪の敵を相手に戦ってる。
三人でうまく連携を取り、白髪の少年を本気で倒そうとしてる。
力の差は歴然にも関わらず。
炎は戦闘経験そんなにないから、判断できないことは理解できるが、
ライと舞衣は、少年は自分たちより格上ということは、分からないはずがない。
それでも一歩も引かずに、相対してる。
ああ、私を、助けるために、ですか。
神具を持ち、神意として目覚めたなおも、人としての優しい心を保っているということですね。
ありがたいことです。
力無き者は、ある日力を持つと、それに溺れることが多いから、ずっと心配していましたが、
その様子なら、問題なさそうですね。
でも、相手が悪すぎる。
あの少年は、今の彼らでは、絶対に勝てない。
そして拘束されてる自分は、助けることもできない。
ならできることは一つだけ、
私は大きく息を吸い、
「皆!逃げて!」
唯一の助言を、叫んだ。
●
声が、聞こえた。
俺は、いや。
少年含め、俺たち全員はその声の方向に顔を向けた。
シアが、緊張してる表情で、俺たちを見ている。
「あ、目が覚めたの?三人を相手してるから、そっちに掛けてる力が弱まったかな~」
少年は独り言を呟いた。
彼の注意力が割れたその一瞬の隙を、ライと舞衣は逃さなかった。
「今だ!炎!」
ライはグングニルを地面を貫く勢いで刺し込んだ。そして、目の前にいる少年を、
無数の雷で形成した網状の居界で封じ込めた。
「おお?あなたの雷って、こういうこともできるの?凄いね」
少年は感心してると同時に、居界を壊そうとしたが、
ヒュー!
彼の近くに、数本の矢がグングニルと同じように地面に打ち込まれ、
そこから風源素の縄が飛び出し、少年の体を拘束した。
「簡単に壊させないわ!」
「ライ!舞衣!」
「「炎!行け!」」
二人が作ったこのチャンスを、逃すわけにはいかない。
俺は全力で跳び上がり、シアのいる場所に近づいた。
「シア!」
「炎!」
「待ってろ!今助けてやるから!」
俺はシアの四肢に掛かってる枷を手で引っ張り、壊そうとしたが、まったく反応がなかった。
あの少年が作ったものだから、もしかすると同じ強い力じゃないと、壊せない。
その考えが浮かんだ時、俺は焦った。
「ダメです!今すぐ逃げて!」
「ああ、君を助けた後に、一緒に逃げよう!」
「無理なの!炎の力じゃ、この枷を壊せないわ!だから私を置いて逃げて!」
「…!」
諦める?やっとここまで来たのに?
いや、諦めてたまるか。
目の前に助けるべき人がいるのに、無理があっても、救うべきだろう。
俺が手に炎を創り、枷を燃やそうとした時。
カランーー
ガラスが砕かれた、清く澄んだ音が、鳴り響いた。
俺は音の発生源に目を向いた。
少年は、自分を止めてた居界を、両手を横に振るだけで、いとも簡単に解けた。
「な…!」
ライと舞衣も信じられない顔で、少年を見つめた。見るしかなかった。
シアを助け出した後に、四人で力を合わせて少年を倒す計画だった。
それか、俺が素早くシアを救出できなかったせいで、今、台無しになった。
「クソ…!」
再び枷に集中した。
早く、早く、早く、早く、早く、早く、壊さないと。
「ダメじゃないか。ゲームのルールを破るの」
「ーーーー」
声が、隣に響いた。
俺は右に目だけを移動した。
顔が、体が、言いようのないプレッシャーによって、動けなくなったから。
少年は、いつの間にか、俺の横に浮かんでいる。
「「炎!!!」」
ライと舞衣も、今気づいたらしい。それぐらいの速度で動いただろう。
早いーー今までの戦闘で、ここまでのスピードを、出してなかったはず。
まだ本気を出してない、ていうことか?
「賞品は勝者のものだから、ゲーム終わる前に、離れてね」
少年は言い終わったと同時に、俺に回し蹴りを入れた。
「くあっ…!」
咄嗟に両腕を上げ、蹴りの直撃を防いだが、あまりの強い衝撃で、俺はシアの居場所から、
数十メートルも離れたライのところに吹っ飛ばされた。
「炎!!!」
「もうちょっと楽しもうとしたのに、悪いタイミングで起きたね」
「離して!こんなことして、何のメリットあるんですか!?」
「あるよ。ボクの退屈凌ぎになるから」
「「「「な…」」」」
絶句。その答えは、誰も予想できなかっただろう。
あまりにもシンプルで、動機すら呼べない回答。
ただ、少年は真面目な顔で、それを口にした。
「まあ、さすがに神意を三人も同時に相手するのも疲れてきたし、すこし、」
少年は天に向かって、右手を伸ばした。
俺たちは警戒を高め、少年の動きをに随時対応できるように構えた。
「本気を出そっか」
シンーーーー
静寂が、訪れた。
少年の言葉と共に、何かが変わった。
それが何か、俺たちはすぐに気づいた。
「え、何、ここ…」
舞衣が戸惑った。それもそのはず。
俺たちが今いる場所は、遺跡の中ではなく、見知らない場所だ。
壊れた数々の神殿、地面に刺さってる無数の兵器。
山積みになってる死体。
川になってる夥しい量の血、血、血。
ここが、戦場。
空に浮かぶ月も、綺麗な銀色ではなく、禍々しい紅い月に変わった。
「ようこそ」
感知することもなく、周りの景色が変わったことに、俺たちは混乱した。
そんな中、少年だけが、一度消えた余裕の表情が、元に戻り、シアの隣で俺たちを見下ろした。
「ボクの神居・『第四夜の終わり』へ」
少年が言い終わった時に、彼の体から突然莫大の力が湧き、荒れ狂う。
「や……!?」
「な…!」
「…何だ…!?これは!?」
俺たち三人は驚きを隠せなかった。
今の少年から感じた力は、強い、というもんじゃない。
勝てない。
先、シアが言ってた言葉が、脳によみがえった。
「そういえばボクの名前を知りたがってたね」
少年は空からゆっくり降下してくる。
彼が少し距離を縮めるだけで、俺たちが感じた圧力が、倍以上になった。
ガタガタ…
自分の両足を見る。いつの間にか震え出してる。
だが、今気づいて止めようとしても、止まらない。
ライも、舞衣も、顔に出てはないものの、体が小刻みに震えてる。
本能で分かる。勝てない相手だと。
「ボクの名前はエディナン・ロロシェ。またの名は、」
少年はわざと一息を吸った後に、正体を告げた。
「第四夜の支配者さ」