第16話 約束の日、西の遺跡にて~その二~
少年の居界を破るために、ライはグングニルを全力で、居界を標的として突き刺した。
槍と壁が衝突した瞬間、力と力のぶつかりで強い衝撃が発生し、遺跡の地面を翻し、周りをさらに壊していく。
俺もライの攻撃に合わせて、炎で創った源素の剣を振りかざした。
「はあ…!!!」
ガンーーー!!!
鈍い鈍器の音が鳴った。
俺の剣も、グングニルと同じように居界に止められた。
そして、舞衣の矢の爆撃は止まることなく降り続いてる。
俺たちに当たらないように、自動的軌道を逸らしてる。
敵味方の分別ができるらしい。
三人合わせて攻撃したーーにも関わらず、少年の居界はビクともしない。
「く…!固いな!」
舞衣とライの全力をもってしても、少年に触れることすらできない。
それぐらい力の差が大きいのか?
でも、諦める訳にはいかない。
俺は対策を考える時、
「その程度なの?つまらないな~」
少年は、右手を動かし、人差し指を、横に薙ぎだ。
それは、前回やられた時の…!
俺は急いで体周りに限定して、居界を展開した。
ライも気づいて、グングニルを縦にして、地面に刺し込み、雷源素を現わす紫色の居界を張った。
そして、
「う…!?」
予想通り攻撃された。それも前回切られた時に感じた力より強い。
俺とライは防御できたが、その衝撃によって後ろに吹っ飛ばされた。
「おお~ちゃんと戦いの準備をしてきたかどうか確認したいから、わざとこの前と同じ方法で攻撃したけど。なるほど、対策を立てたみたいね」
「ふん…!偉い口を言えるのは、今だけだ!炎!」
「ああ!」
ライが事前に説明した。少年の横薙ぎの攻撃、あれはおそらく風の刃。源素を帯びてるが、敵に気づかないように自然と融合させてる。だから攻撃が見えない。
見破る方法は、少年の指の動き。
ちゃんと見れば、避けることできなくとも、防ぐことは可能かもしれない。
そして今、俺たちは作戦通りに対応できてる。
しかし、次がない。
少年は傲慢だけど、通じない技をずっと使ってくるはずがない。
だからここからは、時間との勝負。
少年が予測付かない技を出す前に、倒す。
俺は右手の火を強く燃やし、ライのグングニルに移した。
「ほお?これは…」
グングニルは俺の火を取り込み、そして、そんなに時間経たないうちに、紅く燃え上がった。
雷を纏った炎ーー
神意を殺して力を吸収することは今は無理だが、その要領で、自分の力を分けることだったら、できるじゃないか?三人で色々試した結果、何とか成功した。
それが今、爆発する!
「はああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
ライは、再び飛び出した。
今度は、全速で、音速を越えるぐらいの速さで、最大出力で少年の居界へ突撃した。
二回目の衝突。先より強い力の対抗で響いた音に、耳鳴りする。
パリ…
「!」
そして、少年の居界に、ヒビが入った。
「今だ!舞衣!炎!」
「分かった!」
「待ってました!!!!」
俺は素早く力を集め、ひび割れた部分に、両手で火の柱を撃ち放った。
それと同時に、少年の居界にさらに亀裂が発生した。
「…へぇ、前より力が強くなったみたいね。でも、それだけじゃ、ボクに届くなんて、無理だよ?」
少年はまた手を上げた。今度は指ではなく、掌を開いた。
つまり、単純の線状攻撃ではなく、より避けにくい攻撃だと考えられる。
やばい。でもここで自分たちの攻撃を止める訳にはいかない。
それに、まだ終わってない…!
●
森の中にいる舞衣は、サポート役を徹するために、爆撃を維持しながら、少年に攻撃されないように、待機場所を炎たちの斜め後ろに移動した。そこでアルテミスで力を蓄えてた。
自然に漂う源素を限界まで吸い込んだアルテミスが、艶やかな銀色に輝き、準備万端でいつでも仕掛けられるという風に。
舞衣は最初と同じ、アルテミスを少年相手に照準合わせた。一回目と違うのは、この一撃に、必殺の意思を込めた。
「神技…!」
弓の全身が光を放ち、弦につがえた矢の先端ーー鏃に銀の光が球状に膨張し、そして、放たれた。
「月女神の光ーーーーーー!」
銀色の光束ーーそれは前、舞衣が見せてくれた、彼女の神技。しかしその威力、あの時の倍以上はある。
あの時は俺に見せるために使っただけだから、手加減したか、それとも特訓の成果か、分からない。
が、その神技を前に、少年の顔から余裕が消えた。
森からの砲撃は、舞衣の後ろ含めて、周り全体の樹木を吹き飛ばしながら、俺とライの間に空いてるところに、少年の居界に命中した。
一瞬ーー舞衣の神技が当たった瞬間、居界が完全に破壊され、光束はそのまま少年に直撃した。
ドンーーーー!!!!!!!!
巨大の爆発音と共に、煙が舞い、俺たちの視界を遮った。
「…やったのか?」
ライは警戒心を緩めず、煙の中を凝視する。すると、
突然風が吹き荒れ、煙を飛ばした。
そこに、重傷おろか、ケガすらあまりしてない少年が、どこか満足してる表情で立っている。
「いいねー、ボクの居界を破れるなんて、それに先の神技。ちょっと見直したよ。おかげで服汚れた、いやだな~」
「…ここまでやって、キズもあまりないとか、バケモノかよ」
ライは冷や汗を流しながら、苦笑いを浮かべた。
「…ある意味、これも予想通りじゃないか?」
そう。ここまでは予想通り。作戦考案した時、多くの可能性を考えた。
少年が居界を展開している場合は、どんな手を使っても、居界を破るのが先。
これが最優先事項。
なぜなら、少年が言ったように、居界を突破できないようじゃ、少年に触れることすらできない。
問題なのは、ここからだ。
居界を壊した後、もし少年はまた居界を展開しようとする場合、どうする?
それが、
「さあ、続きしよっか。あなたたちの全力、何分持つか試してみようー」
「なら、受けるがいい…!」
ライは先と同じ最高速度を出し、少年に距離を詰めた。
「死ねーーー!!!!」
「…あはっ」
目に留まらないグングニルによる一刺し。空気を切り裂く音を出してるスピード。
だが少年は、それを気に留めずに、簡単に避けた。
「ボクがまた居界を展開しないように、白兵戦で動きを封じようという考えかな?」
「…!」
「その顔、図星みたいだね」
「それが、どうした!」
気付かれた。でもその手しか、俺たちにチャンスはない。
居界を破るために、時間を掛けて力を蓄積した上に、神技を使った。舞衣は今その反動で、源素だけではなく、体力も激しく消耗した状態だ。しばらく全力は出せないだろう。
つまり居界を壊すたびに、戦力が一人減るという換算だ。
そうなると、二回目の居界を展開されたら、勝ち目は絶対にない。
俺はライの後を追い、少年に仕掛けた。
ライがグングニルを振るうたび、雷が迸り、地面を裂く。
グングニルの本体ではなく、その余剰とも言える雷は、それぐらい破壊力を持ってる。
それでも、少年はグングニルも雷も気にせず、距離を離そうする様子はない。
ただひたすら槍を避けてる。
居界を破られても、余裕のままか。ならば、
「食らえ!」
俺は火の剣を形成し、少年がライの槍に注意を払ってる隙に、切りかかった。
「お?よっと」
だが、少年はすぐに俺の動きに気付き、ライの攻撃を躱した後、俺の剣も簡単に流した。
「この…!」
俺は間髪を入れずに、次の斬撃を振りかざした。少年はライと戦う時と同じように、
俺の剣も難なく避けてる。
速度でライに負けてる俺の攻撃は、当たるはずがない。
それでもけん制の意味を込めて、俺は手を、剣を、動きを続けた。
突然、少年は俺の剣を素手で掴んだ。
「な!?」
止められたが、俺はさらに力を入れ、少年を両断しようと思った。
しかし、
「あなたの本気は、こんなものじゃないだよね?」
「…なんだと?」
「呼び出してよ。あなたの中にある黒い力を」
「…!?」
「炎!」
少年の言葉で一瞬、気を取られたが、ライが横からグングニルで攻撃を入れたおかげで、少年は避けるために、俺の剣を離し、距離を取った。
(黒い力…)
でも、考えてしまう。
俺の中の力は、それも「黒い力」で言えば、シャファのことしかない。
(福徳さんに使うなと言われた)
それに、少年の目的が分からない。シャファの力を知ってる以上、むやみに使わない方がいいと、俺は思った。
ライは依然と最高速度で少年と戦ってる。彼の攻撃は当たらないが、少年の攻撃もライに当たらない。
お互い回避の応酬。
俺はもう一回加勢しようとした時、横に数本の矢が少年に飛んで行った。
俺は矢が飛来した方向に目をやると、そこは激しく胸を上下して呼吸をする舞衣の姿が入った。
「舞衣!大丈夫なのか!?」
「はあ、はあ…あたしはいいの!あのガキの話を気にしないで!集中して!」
「…ああ!」
そうだ。敵の話なんか、聞く必要がない。
「ん?」
少年は矢が飛んでくるのを見かけ、ライのグングニルを避けた後に、右手を空に振り上げ、暴風を起こし、矢を消した。
「弱いね…神技を使った後、体力は持ったないみたいだね。今のあなたたちじゃ、一回の神技で限界か」
少年は残念そうな顔で俺たちを見つめた。
それに対し舞衣は、
「あら、時間をくれれば、ニ発目を叩き込んであげるわよ!」
負けじと言い返した。
そんな舞衣の言動に、俺の気持ちがちょっとホッとした。
戦況が悪いことに変わらないが、誰も希望を捨てていない。
俺は気を取り直し、剣をしっかり握り締め、戦闘を再開した。