第15話 約束の日、西の遺跡にて~その一~
約束の日。
朝、俺たちは最後の作戦会議を行い、夕方ぐらいに西の遺跡へ出発した。
夕焼けに染まった空、新鮮な森の空気。
自然を感じながら、俺たちは重い歩みで遺跡へ足を動かす。
作戦内容はーー
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「西の遺跡は、洞窟の中にある遺跡ではなく、北の廃都に似てる場所ダ。ただ神像とか、明らかに現代の建物じゃないものが多いから、廃都ではなく、遺跡を呼ぶようにしてる。その方も区別しやすいしな」
シアの家で、ライは地図を開いて、俺に遺跡のことを説明してる。
舞衣はその隣で、サポート役の感じで立っている。
地図はシアが遠征隊が遠征行く時、周りの環境が分かり易いように、聖術で作ったものらしい。
遺跡の居場所はもちろん、その周辺にある山の高さ、森の広さまでも記載されてる。
「廃都と似てる…じゃあ足場もぐちゃぐちゃってことか?」
「そういうことだ。だから廃都を特訓場所を選んだ。力を強くできる他に、似たような場所で戦闘体験できるから、イッセキニチョウってやつだな」
「へぇーそこまで考えたんだ?見直したゾ」
舞衣が時間差なく、ツッコミを入れた。
「うるせぇー」
「はは…でも、体験できたとしても、力の差は目に見えるだよな。そこはなんか対策あるのか」
「ない」
「ないっかい!」
舞衣が肘でライを突き、再びツッコミした。
「力の差はどうしようもない。ないだが、シアを助けるのが最優先事項だろう?」
「…そうか。無理に正面から戦う必要はないか」
「そうだ。この遺跡を見てくれ」
遺跡の構図は、丸い形で、真ん中に広場がある状態だ。北と南に山があり、東と西は人が歩く道になってる。
「遺跡の北と南は岩だらけで、歩くのが難しかったから、オレは遠征隊のみんなと一緒に、東と西に出入り口を作った。あのクソガキの性格で考えると、村への道と繋がる、東の入り口でオレたちを待つことはないと思う」
「「たしかに」」
俺と舞衣はあの少年の言動を思い出し、納得した。
自分が格上の存在を示すため、そして余裕を見せるために、きっとどっかに座って俺たちが来るのを待つだろう。
「そこで、だ。まずシアの居場所を確認する必要がある。あのガキと一緒にいれば問題ないが、もしいなかったら、ガキと戦いながらシアを探すハメになる」
「そうすると、助けるところか、シアを見つけないまま、俺たちが全滅の可能性がある、か」
「そうだ」
「無駄死にってこと?いやだな~」
「それがいやだったら、舞衣、オマエの目でしっかり確認してくれよな」
「分かってるわよ」
「目?君の目はいいのか?」
今までの戦いで、舞衣が遠方の敵を目で捉え、俺たちを支援してたことから、彼女は目がいい、ということはもう知ってる。
敢えてこのタイミングで話すってことはーー
「まあ、その気なれば、十キロ以上は見えるかな?この子のおかげだけどね」
舞衣は顔をアルテミスに寄せて、スリスリし始めた。
「十…!?」
「神具による身体能力の強化、人によって違うらしいんだ。普通の人より全般的に強くなる上に、さらに特定の能力が段違い強くなる。オレの場合は速度で、舞衣の場合は目だ」
「なるほど…俺は…」
特筆すべき能力は、今のところ感じたことはない。
「まあ、オレと舞衣も、戦闘の中で、突然気付いた。炎はまだ自覚してないだけ、かもしれないな」
「そうそう。だから落ち込むことはないよ」
「…ありがとう」
二人の慰めの言葉、嬉しいが、自分があまり役に立たないことは、何とも言い難い気持ちになる。
「話し戻すゾ。作戦はシンプルだ。まずシアの居場所を確認する。そこは遺跡に入る前に舞衣、オマエの目で確かめてくれ。その後、シアがいてもいなくても、オレたちより先に遺跡の南側に行って、オレと炎はすこし時間を置いてから遺跡に入って、時間を稼ぐ」
「了解!」
「シアがいない場合は、オレと炎でガキの注意を引き付ける。その隙でシアの所在を見つけてくれ。見つけた後すぐに戦闘に参加する。いいな?」
「オッケー」
「もう一つのパターン、シアがあのガキの隣居る場合、オレと舞衣でガキをけん制する。そして、炎、オマエが戦うフリをしながら、シアを助け出すんだ」
「…え?でもそれってライ、君が…」
「近距離で、一人であのガキを相手することになる。それは分かってる。しかし、あのガキはオレたち三人で倒せる敵じゃない」
「だったら…!」
俺が反論しようとした時、ライが大声で俺を制止した。
「だからだ!三人で倒せない敵に、正面から二人掛かっても勝てるはずがない。それなら一人をオトリにして、シアを救い出すのが一番いい方法だろう」
「それなら俺が…!」
「オマエ、戦闘経験オレより多いか?あのガキの戦い方が分からない状態で、臨機応変できるか?」
「そ、それは…」
ライが言ってることはごもっともだ。俺は目覚めて一ヶ月だけ、戦闘ところか、この世界のことすらもあまり知らない。そんな俺が、あの少年を止める?あの自称とはいえ、神の力を持つ存在を?
「大丈夫だよ。あたしがしっかり援助するから。それにライは別に死ぬつもりないでしょう?」
「…それはトウゼンだ。せっかく生き延びたんだ。簡単に死んでたまるか」
「ほらね。だから炎、あなたはシアを助けてあげて。それにさ、戦うフリと言っても、完全に手を抜くわけじゃないよ。そうするとバレるから」
「…そうか。分かった」
舞衣の言葉で、俺は落ち着いた。
俺の様子を見たライは、ため息をついてから話を続けた。
「長く話しだけど、多分、舞衣が別行動を取る時はすぐバレるだろう。それでも、ガキは何もしてこないと思う。そこが勝機だ。一秒でも早くシアを助け出せば、四対一になる」
「おお、勝ち筋が見えたね!」
「…ああ、絶対にシアを助け出そう!」
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遺跡から二キロ離れたところに、俺たちは足を止め、舞衣が目を使って遺跡の周辺と中を観察した。
一分も経たない内に、
「…いた、シアは、あのガキの後ろにいる」
「!どんな状態だ!?」
俺は焦って舞衣に問い詰めた。
「ん…眠ってるかな。三日前、あたしたちの前から攫われた時と同じ感じだね」
「外傷はない?」とライが。
「ないね」
「そうか。少なくとも、本当に人質として扱ってるわけか。他になんかおかしいところは?」
「特にな…!?」
舞衣が話を言い切る前に、突然地面に座り込んだ。
「どうした!?」
俺は急なことに驚いて、舞衣の状態を確認した。
「あ、あのガキ…あたしを見て、笑った…悪魔のような、笑顔で…」
「な…本当か?」
舞衣は力なく首を縦に振り、体も震え出し、顔色が真っ青になった。
「…さっそく、バレたのか…」
ライは遺跡の方向を見つめ、冷や汗を流した。
「…どうするの?本当にあんな奴と戦うの?」
「…ああ、やろう。シアを助けるために!」
「「炎…」」
「ここまで来て、逃げようとしても、あいつは簡単に見逃してくれないだろう。もうやるしかない」
「…そうだな。じゃあ計画通り、舞衣が先に行ってくれ」
「…わかった。二人とも、無理しないでね」
「分かってるさ」
俺は安心させるように、笑ってみせた。
舞衣の心配な顔は変わらないが、俺に微笑みを返し、そのまま森に飛び込み、予定の場所に移動した。
「よし、オレたちも行くか!」
「おう!」
●
西の遺跡は、ライが言説明したように、北の廃都より少し小さいが、遺跡としては広いと言える。天井がないという点も理由の一つだろう。
そして、巨大の神像が遺跡全体に渡り、何柱も佇んでいる。
しかも、そのどれも頭がない状態ーー頭以下の部分は埃あるが、キズはあまりない、まあまあ綺麗の状態だ。
頭だけが、まるで意図的に壊されたように見える。
「やあ、来てくれたね」
そのような不自然な環境の中、白髪の少年は、遺跡の北、岩山の上に両足を組んで、俺たちを見下ろしながら声をかけてきた。
その足元に、碧の鎖に四肢を縛られてるシアが、空を浮かんでる。
舞衣が言ったように、攫われた時と同じ状態だ。
「約束通り来たから、シアを放せ!」
俺は迷いなく、真っ先に要望を伝えた。が、
「約束?えーーボクを倒したら彼女を返す。という約束だったと、覚えてるけど?」
「くっ…」
その要望が通れるわけもなく、少年に嘲笑われるだけだった。
「ふふ、心配しなくても、ちゃんとボクを倒せたら、彼女を返すよ。もっとも、今のあなたたちじゃ、無理だけど。三対一でもね」
「なめやがって…!」
やはり、舞衣の事はバレてる。それでも余裕を見せてるってことは、舞衣の存在…いや、そもそも俺たちの存在は眼中なしか。
ライは事前に顕現させたグングニルを横斜めに構え、臨戦態勢に入った。
俺は右手で彼を止めて、少年に質問した。
「始める前に一つ聞きたい。お前の目的は俺だろう?何故関係ない人を巻き込む?」
「ふん~何を聞くと思えば、またそのこと?でもね、教えないー」
「ふざけるな!」
「おお、怖い怖い。そうだね…ボクを倒せたら、それも答えてやるよ。くひひ」
「炎、話すなんて無駄だ」
「…くそ!」
少年は岩山から飛び降り、俺たちの目の前に立った。
「さあ、戦いを始めようじゃないか!」
その言葉と共に、少年の体から黒と碧の霧ーーいや、密度が高い源素が吹き出し、遺跡の内部から外まで狂風を巻き起こした!
「ぐ…なんて力だ!」
俺とライは、防御態勢を取り、風で舞い上がってる岩を壊しつつ、攻撃のチャンスを窺ってる。
その時、
『る…聞こえる!?』
「この声…舞衣!?」
首にかけてる事前に用意した聖引石から、舞衣の声が響いた。
『あたしは先に仕掛けるから、二人はそれに合わせて!』
「…了解!」
俺はライの方を見た。ライも俺を見て、頷いた。
そして、
「このやろう…これでも食らえ!!!!!!!!!!」
森の中、舞衣がアルテミスの弦に源素の矢を形成させてた。風源素を示す緑の霧が、彼女の周りに集まり、やがて普通の矢より数倍大きい矢が形を取った。
舞衣はそれを少年目掛けて、迷いなく放った!
巨大の矢が、その大きさで速度落ちることなく、一瞬で少年が立ってる場所に着いた。
命中したーーと思った時、
ガンーーー!!!
矢が何かにぶつかり、激しい音を起こしながら、空に止められた。
「居界…!」
壁がーー碧の居界が、少年の周りを覆ってる。
自分も居界を使ったことあるから分かる。強い力による作られた居界は、簡単に破れない。
「まだまだ…!」
舞衣は放たれた矢に、空いてる左手を伸ばし、開いてる手を、握った。
その動きと同時に、矢が爆発した。
そして、激しい煙の中から、通常の大きさの矢が、空に舞い上がり、遺跡の上空に着いた途端、そのまま自由落下の勢いで、少年に再び仕掛けた!
「へぇ、二段射ちか?やるねー」
矢の雨ーー少年を逃がさないように、広く展開された無数の矢が、落ちる。
着地した矢が爆発を起こし、触れた物を壊していく。
その光景は、最初に村に着いた時、俺が見たあの爆撃の跡と同じ。
(これが、舞衣の本気…!)
強い。俺より断然強い。でも、あの少年は、矢の雨に打たれてもなお、動じない。
「舞衣のヤツ、無茶なやり方を…!炎、オレたちも行くぞ!」
「!ああ、分かった!」
ライがグングニルに雷源素を充電し、
俺は両手に火源素を燃やしながら、少年に向かって走り出した。
戦いは、始まる!