第14話 北の廃都~101~
北の廃都へ行くことを決めた俺たちは、
すばやく村に戻り、必要な用品を準備し、
村人にこれからやるべきことを簡単に説明した後、出発した。
今回は俺、ライ、舞衣の三人だけだから、神意ではない村人の緩い速度に合わせる必要はなく、
数十分で北の廃都に着いた。
他の森林地帯では青空が澄み渡ってるが、ここだけが異様な赤い空に包まれてる。
「ここが、北の廃都…」
俺は目の前の廃都を見て、息をのんだ。
廃都ーー確かに「廃棄された都」という言葉が相応しい。
大小バラバラの瓦礫の山が、数キロに渡り、大地を埋め尽くした。
元の形の一部だけ辛うじて維持してるものもあり、それで判断すると、
「高層ビル…なのか?」
瓦礫の中に、ガラス窓らしいものが混ざってる。
そして、場所によっては、不自然なぐらいに、数十メートルの高さに積み上がってる瓦礫の山。
予想すると、ここは元々大きい都市だったかもしれない。
それも高層ビルが集まるような商業が盛んでる場所。
「炎、大丈夫か?」
「あ、ああ…大丈夫だ」
ライは俺の隣に近づき、背負ってる荷物を下ろした。
「…今までみんなの話で、世界が壊れたとかなんとか聞いてるけど、こう、
本当に何もかも壊れた場所見るのが、これが初めて…だ」
「…そうか。ショックを受けたか?」
「…そうだな。かなり驚いてる。堅実に作られたはずの建物が、こんなゴミみたいにバラバラになった。一体何があって、都市がここまで破壊されるんだ?」
「それはこっちが聞きたいよ」
舞衣が荷解きしながら、俺の疑問に返事した。
「一年前のあの時、あたしたちは学校にいた。覚えてる?」
「…いや、ごめん」
「いいよ。炎が悪いわけじゃないから。とまあ、あの日は本当に突然、大きい地震が起きて、学校はあっという間に壊れた。潰れたケーキみたいに。んで、あたしは目覚めた時、もう周りが学校の残骸しかなかったよ」
「オレも同じだ。それでとりあえず生きてる人を探したところ、天聖族の人に出会った」
「あっ、あたしはシアに助けられた」
「その後オレは、天聖族に導かれながら、生存者を探し、最後は舞衣とシアに合流した」
「あの時もう大変だったよーー、知っている人誰もいなかったし。ましてや天使様という伝説のものが本当に存在してるとか、ありえないありえない」
「はは…聞くだけで本当に大変だったな」
俺は廃都を見るのをやめて、二人を手伝い始めた。
「あ、でもさ」
舞衣は何かに思いついたのように、俺の顔を不思議そうに見つめた。
「ん?」
「炎はあの日確か、早めに学校を離れたよね?■■が心配と言って、下校時刻になった瞬間、あたしを置いて、一人で行っちゃったもん」
「…え?俺が?」
「うん。だから炎はあの時どうだったの、知らないよね。炎はシアがある日、見つけて村に連れてきた。でもシアも詳しい話を言ってなかったよね」
「そうだな。どうやって見つけたのか。何でそんなにセッキョク的に炎の世話をするのか、謎だよな」
「そんなことが…」
当事者いないから、記憶失った俺も分かるはずがない。
と謝ろうとする時ーー
「!来たゾ!構えろ!」
ライの叫びで俺と舞衣は戦闘態勢に入った。
倒れた建築の中から、瓦礫の隙間から、土の中から、どことなく人の形をしてる黒い霧は湧き出た。
その数は、十、五十、百…どんどん増えていく。廃都を埋め尽くす程の、敵が。
「うひゃーーーー!!!!!気持ち悪いよーーーーー!!!!」
「話す時間あるぐらいだったら矢を撃て!数で埋もれるゾ!」
目の前に出現したこれら霧は、ライ曰く、「亡霊」。
死んだ人の魂が、未練がある場合、現世に留まるーーというのがよく聞く霊にまつわる話だが、
彼らの場合、魂が源素と融合し、具現化した霊。
その具現化の関係か、霊の形は多種多様にある。
霧のままのものもあれば、骸骨の形してるものもある。
どのみち、実体を持ってる。
つまり、物理的に触れる。
「くらえーー!」
ライは高く跳び上がり、霊が一番集まってる場所に向け、グングニルを投げた。
グングニルは風を切り、鋭い音と莫大の源素の力と共に着地し、そして爆発した。
霊の集団は、瓦礫と一緒に、消し飛ばした。
が、
「ちっ…やはりか!」
消し飛ばされたはずの霊は、数秒も経たないうちに、元に戻った。
「手応えがあったのに…!」
「ほら!だからいやって言ったの!」
舞衣もアルテミスを天に向けて、矢を放った。その一本の矢が、ある程度の高さまで飛んだ後に、まるで花火のように拡散した。一本の矢が、数えきれない無数の矢に姿を変え、精確に霊を射抜いた。
平地に立ってる霊は簡単に仕留められた。隙間に隠れてる霊も、舞衣が特に照準も合わせずに、あの分散した矢が勝手に軌道を変え、敵を見つけて殺した。
あれは、自動追跡機能が付いてるように見えた。
しかし、矢に貫かれた霊は、消えたものの、すぐその場で再生した。
いや、復活…と言った方が近いか。
「炎、もたもたしないで、しっかり力を蓄えていけ!」
「…ああ!言われなくとも!」
ライの一言で、俺は今回の目的を思い出し、我に返り、動き出した。
その目的というのが、ライが言ってた方法ーー
●
廃都に来る前に、俺たちは村でシアを助けるための行動を話し合った。
三人でシアの家で少し休憩を取りながら、気持ちの整理と、廃都のことについてライが説明してくれた。
「北の廃都は、霊が出る場所。そしてその霊は、何故か神具でも殺せない…というより、殺したはずなのに、すぐ復活する。その原因は、シアと福徳さんも分からなかった。
幸い、あの霊たちは、廃都から出られないみたい。だから遠征隊は監視の意味も含めて、定期的に廃都の周りに行って、資源を集めてた」
「そんなことが…でも、それが力を強くすることに何の関係ある?」
「あれだよ、魔星族を倒した時、あたしたちの力が少し強くなったって言ったじゃん?その状況は、実は霊を倒した時も起きたよね」
舞衣が話しながら、愛おしそうにアルテミスを撫でる。
「そうだ。そして霊はその場で無限に復活する…ここまで言って、後は分かるな?」
「つまり…あの少年と約束した時限まで、そこで霊をいっぱい倒して、強くなる、ってことか?」
「そうだ。今は、この方法しかない」
舞衣がその内容を聞いて、顔が引き摺った。
「あたしはいやだよ…お化けだよ?呻き声聞いただけで鳥肌が立つわ」
「お化けが怖いのか?」
「こ、怖くない!ただ、あんな倒しても倒しても蘇るものなんて!気持ち悪いから近付きたくないだけなの!」
それ、「怖い」ということだよな?
本音言ったら逆ギレしそうだから、黙ることにした。
それよりも、今なら諦めることはできる。きっと。
シアには悪いが、自分の命が大切だ。
今逃げれば、運よく見つからずに、遠くまで逃げられるかもしれない。
「…でも、シアを助けるために、最善の策を取らないと」
口から、自然とこの言葉が出た。
ああ、どうやら、自分はどうしようもなく、お人好しらしい。
俺の言葉に、ライも首を縦に振って同意した。
「う…分かったわよ。行けばいいでしょう!でも、ちゃんと、あたしに近づかないように守ってね!あたし弓使いだから!」
「オマエの矢、ゼロ距離でも打てるじゃ…」
「なんか言った!?」
「…いや、何も。じゃあ、決まりだな。さっさと荷物を準備して、特訓に行くゾ!」
「遠足気分だなおい」
●
「消えろ…!」
炎を使い、敵を焼き尽す。
近付くものは、拳で叩く。
土から湧き上がったものは、悉く足で踏み躙る。
「はあ、はあ…」
時間は、どれぐらい過ぎたらろう。
周りの景色は、ずっと同じ。
倒された霊は、その場で蘇る。
建物とかも、元々壊れてるから、今更俺たちの戦いで破壊されても、何も変わらない。
瓦礫の山が増えるだけ。
変化を感じれるのは、廃都から離れたところの空が、暗くなったのと、自分の体力が激しく消耗したことぐらいだけ。
「はあ、はあ、はあ…弱いとはいえ、無限の敵を相手するのが半端じゃないな。流石に一日中ずっと戦えるわけにはいかないか」
「もうへとへとだよ…」
ライと舞衣も、顔から疲れの様子が感じる。
体力だけではなく、精神的にも。
終わりが見えない戦いに挑むのは、こんな気持ちになるのか。
そもそも俺たちは、元は普通の学生だった。
それなのに、今は霊を相手に戦ってる。
おかしくない?
しかし、今はそれを考える余地はない。
触れるものであれば、霊が相手だろうと、壊すだけ。
強く、もっと強くならなければ…
シアを助けるために…!
手に力を集め、目の前に集めた多くの霊を、炎で、焼き払う!
そして、俺が手を振り下ろし、霊を消し炭にしたと同時に、あれを見た。
「え…?」
遠くに、とてつもなく高い建物が、聳えてる。
外見はカップケーキが何層も重なってるみたく、それが500メートルも越えてる。
天にも届くような勢いで、そこに存在する。
先は、何もなかったのに。
「炎!後ろ!」
「!しまっ…!」
ライの声で、俺は後ろに向いた。しかし霊がすでに近い距離にいて、
俺に噛み付こうとしたーーの時、
パシュ!
横から矢が飛んできて、霊の頭を粉々に壊した。
「何やってんの!しっかりして!」
「…ああ、ごめん!」
舞衣に謝りながら、俺は先ほど見たあの高い建物を見るために振り返った。
しかし、そこには何もなく、ただ腰から両断されたみたいな壊れたビルだけが、
そこにあった。
●
「ふ…これでよし」
体力尽きる前に、俺たちは廃都から離れて、安全な場所に野営を用意した。
村から持ってきた荷物は、キャンプ用の道具と二日分の食料と、
そして簡易の着替え。廃都の周りに川がないから、水浴びすらもできない。
『汗臭い服を二日着るなんて無理無理』と舞衣が。
「こういうこと初めてやったけど、キツイなーー」
ライが両腕を横に伸ばし、筋肉をバキバキ鳴らした。
そして彼は村ですでに下処理されたベヒーモスの肉を、焚き火で焼き、いい焼き加減になった後、
三等分に切り分けてくれた。
「だからいやだって言ったのに!」
「まだ言うかオマエ…」
「まあまあ、無事だったし、よかったじゃないか」
脱出した後、舞衣は始終不機嫌な顔で野営の準備をしていた。
それぐらい霊が嫌いだろう。
「どうだ、二人とも?力が強くなった?」
炊き上げご飯と焼き肉を食べながら、ライが一番肝心の問題を言い出した。
舞衣は一瞬迷った様子で、手に持ってる食器を置いた。
「…強くなった…と思う。でもやはりそこまで強くなった気はしないよ」
「…俺もだ。この程度じゃ、あの少年に届かない」
「…そうだな。実を言うと、オレも同じ考えだ。だが、他に方法はない」
沈黙。
一日試せば、もしかするといいアイデア出るじゃないかと、
たぶん俺たちの心の中で、そう期待していた。
その結果は、そんな簡単にいい解決策が出てこない、という事実に突き詰められてる。
「まあ、ここまで来たし、最後まで頑張ろう。な?」
「炎…」
「…はは、オマエは、相変わらずポジティブだな」
「そうか?」
「そうだ」「そうだよ」
ライと舞衣は息ぴったりで肯定した。なんかくすぐったい気分だ。
「よし、じゃあ、メシ喰って、しっかり休んで、明日もファイトだぜ!」
「あ~またあの亡霊たちを相手にするの?ダルイ~」
「はは…」
その後、俺たちは食べ終わった食器を片付け、テントに入って早めに寝ることにした。
●
数多の高層ビルに囲まれた都市。その中に一際高いものがあった。
天にも届きそうな建物、あれは、
101ビル。
台湾の台北市に作られ、象徴になった建築。
あれは、繁栄の証ーー
が、今や魔が巣くう不浄の地。守る価値なし。
されど、いつの日か、解放されることを望む。
救い手が現れること、希う。
●
「ね、人が助けを求める時、助けようと思うのが、当たり前だよね?」
「ん?何、突然?」
「私はね、炎が自然と困ってる人を助けようとする行動、素晴らしいと思う」
「それ、■■も同じじゃないか」
「ふふ、そうね。だから私たちはこうして、一緒にいる訳だよね」
「…いきなり恥ずかしいこと言わないでくれ」
「照れた?かわいい~」
あの日の朝、■■と一緒に学校行く時、なんの拍子もなく、彼女はそんな話を言い出した。
今思えば、彼女は何かを感じて、それを言ったじゃないのか?
それとも、俺の、考え過ぎなのか?
どちらにせよ、もう確かめるすべはないーー
●
「…夢?」
目を開けると、テントの中でも分かるぐらい、空が少し明るくなってるのが見える。
朝だ。
俺がライと舞衣を起こさないように、足音を抑えて、外を出た。
ヒュ…
寒い風で目が覚めた。
時期的に今は冬ぐらいか。シアが教えてくれた紀神暦は、俺が知ってる西暦と時間の計算方式若干違うか、一年に四季があるということは共通している。
それにしてもまた夢。
いや…あれは、記憶?
夢に出た綺麗な都市の風景は、廃都と似ている。壊れた前の廃都か?
そして、それを見てる誰かの声が聞こえた気がする。
男の声。彼は懐かしい気持ちで、廃都を見ながら、救いを願った。
(台湾と言ったな…もしかして、)
福徳の記憶?
俺は、この場所来たことないし、そもそも台湾の事も知らない。
可能性としては、それしかない。
(取り込んだ神意の力が使えるだけではなく、記憶も共有される、ってことか?)
俺は目を閉じて、試しに福徳の事を考えた。しかし何も起きなかった。
「ふむ…ダメか」
偶然か、やり方違ったか。正解知ってる人は、神意を取り込んだことある存在、
福徳自身と…予測だけど、シアあたりか。
「ふあ…何がダメなの?」
「舞衣?ごめん、起こしたか?」
舞衣が目を擦りながら、テントの中からゆっくりと歩いてきた。
護身用の防具を外した彼女の体は、細くて、綺麗で、とっても戦士には見えない。
「ううん。なんか自然と目が覚めちゃって。野営したことは結構あったけど、こんな自分から早く起きるのは、今回初めてだよ。不思議だねー」
「…そうなのか?」
「うん…きっと、シアのこと心配してるから、しっかり寝れないよね」
「ああ…」
なるほど。それもそうか。時間的に、今日でもう特訓が終わり、明日はしっかり休憩を取り、対策を練った上にシアを助けに行くから、実質余裕がない。
実力をつけるには、時間が足りない。
「炎は?何でこんな時間起きたの?あたしと同じ?」
「俺は…夢を見た」
「夢?」
「ああ…この廃都が廃都になる前の、昔の景色を見た」
「え?この廃都?なにそれ、気になる~」
「オレも気になるな」
「ライ?君も起きたのか」
「誰かさんの話声で起こされたんだよ」
「あー何?嫌味?」
「さあ、どうだろうね?」
「この!」
舞衣がライに走っていき、蹴りを入れようとした。
ライは勿論、棒立ちではなく、蹴られないように逃げ回った。
二人のじゃれ合う姿が、少しではあるが、心を休ませた。
ふっと、気づいた。
福徳の記憶を見たの他に、もう一つ夢を見た気がする。
しかし思い出せない…大切なこと、じゃないから?
俺はそんな気にしてもしょうがないことを心の隅に置き、
二人と朝ご飯を食べた後、二日目の特訓を始めた。
そして、約束の時間が来るーー