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再臨のラグナロク  作者: ちさん
一章 神の災涙
14/28

第14話 北の廃都~101~

北の廃都(はいと)へ行くことを決めた俺たちは、

すばやく村に戻り、必要な用品を準備し、

村人にこれからやるべきことを簡単に説明した後、出発した。


今回は俺、ライ、舞衣の三人だけだから、神意ではない村人の緩い速度に合わせる必要はなく、

数十分で北の廃都に着いた。

他の森林地帯では青空が澄み渡ってるが、ここだけが異様な赤い空に包まれてる。


「ここが、北の廃都…」


俺は目の前の廃都を見て、息をのんだ。


廃都ーー確かに「廃棄された(みやこ)」という言葉が相応しい。


大小バラバラの瓦礫の山が、数キロに渡り、大地を埋め尽くした。

元の形の一部だけ辛うじて維持してるものもあり、それで判断すると、


「高層ビル…なのか?」


瓦礫の中に、ガラス窓らしいものが混ざってる。

そして、場所によっては、不自然なぐらいに、数十メートルの高さに積み上がってる瓦礫の山。


予想すると、ここは元々大きい都市だったかもしれない。

それも高層ビルが集まるような商業が盛んでる場所。


「炎、大丈夫か?」

「あ、ああ…大丈夫だ」


ライは俺の隣に近づき、背負ってる荷物を下ろした。


「…今までみんなの話で、世界が壊れたとかなんとか聞いてるけど、こう、

本当に何もかも壊れた場所見るのが、これが初めて…だ」

「…そうか。ショックを受けたか?」

「…そうだな。かなり驚いてる。堅実に作られたはずの建物が、こんなゴミみたいにバラバラになった。一体何があって、都市がここまで破壊されるんだ?」

「それはこっちが聞きたいよ」


舞衣が荷解きしながら、俺の疑問に返事した。


「一年前のあの時、あたしたちは学校にいた。覚えてる?」

「…いや、ごめん」

「いいよ。炎が悪いわけじゃないから。とまあ、あの日は本当に突然、大きい地震が起きて、学校はあっという間に壊れた。潰れたケーキみたいに。んで、あたしは目覚めた時、もう周りが学校の残骸しかなかったよ」

「オレも同じだ。それでとりあえず生きてる人を探したところ、天聖族の人に出会った」

「あっ、あたしはシアに助けられた」

「その後オレは、天聖族に導かれながら、生存者を探し、最後は舞衣とシアに合流した」

「あの時もう大変だったよーー、知っている人誰もいなかったし。ましてや天使様という伝説のものが本当に存在してるとか、ありえないありえない」

「はは…聞くだけで本当に大変だったな」


俺は廃都を見るのをやめて、二人を手伝い始めた。


「あ、でもさ」


舞衣は何かに思いついたのように、俺の顔を不思議そうに見つめた。


「ん?」

「炎はあの日確か、早めに学校を離れたよね?■■が心配と言って、下校時刻になった瞬間、あたしを置いて、一人で行っちゃったもん」

「…え?俺が?」

「うん。だから炎はあの時どうだったの、知らないよね。炎はシアがある日、見つけて村に連れてきた。でもシアも詳しい話を言ってなかったよね」

「そうだな。どうやって見つけたのか。何でそんなにセッキョク的に炎の世話をするのか、謎だよな」

「そんなことが…」


当事者いないから、記憶失った俺も分かるはずがない。

と謝ろうとする時ーー


「!来たゾ!構えろ!」


ライの叫びで俺と舞衣は戦闘態勢に入った。


倒れた建築の中から、瓦礫の隙間から、土の中から、どことなく人の形をしてる黒い霧は湧き出た。

その数は、十、五十、百…どんどん増えていく。廃都を埋め尽くす程の、敵が。


「うひゃーーーー!!!!!気持ち悪いよーーーーー!!!!」

「話す時間あるぐらいだったら矢を撃て!数で埋もれるゾ!」


目の前に出現したこれら霧は、ライ曰く、「亡霊」。

死んだ人の魂が、未練がある場合、現世に留まるーーというのがよく聞く霊にまつわる話だが、

彼らの場合、魂が源素と融合し、具現化した霊。


その具現化の関係か、霊の形は多種多様にある。

霧のままのものもあれば、骸骨の形してるものもある。


どのみち、実体を持ってる。


つまり、()()()()()()()


「くらえーー!」


ライは高く跳び上がり、霊が一番集まってる場所に向け、グングニルを投げた。

グングニルは風を切り、鋭い音と莫大の源素の力と共に着地し、そして爆発した。

霊の集団は、瓦礫と一緒に、消し飛ばした。


が、


「ちっ…やはりか!」


消し飛ばされたはずの霊は、数秒も経たないうちに、()()()()()


「手応えがあったのに…!」

「ほら!だからいやって言ったの!」


舞衣もアルテミスを天に向けて、矢を放った。その一本の矢が、ある程度の高さまで飛んだ後に、まるで花火のように拡散した。一本の矢が、数えきれない無数の矢に姿を変え、精確に霊を射抜いた。


平地に立ってる霊は簡単に仕留められた。隙間に隠れてる霊も、舞衣が特に照準も合わせずに、あの分散した矢が勝手に軌道を変え、敵を見つけて殺した。


あれは、自動追跡機能が付いてるように見えた。


しかし、矢に貫かれた霊は、消えたものの、すぐその場で再生した。

いや、復活…と言った方が近いか。


「炎、もたもたしないで、しっかり力を蓄えていけ!」

「…ああ!言われなくとも!」


ライの一言で、俺は今回の目的を思い出し、我に返り、動き出した。

その目的というのが、ライが言ってた方法ーー



    ●



廃都に来る前に、俺たちは村でシアを助けるための行動を話し合った。

三人でシアの家で少し休憩を取りながら、気持ちの整理と、廃都のことについてライが説明してくれた。


「北の廃都は、霊が出る場所。そしてその霊は、何故か神具でも殺せない…というより、殺したはずなのに、すぐ復活する。その原因は、シアと福徳さんも分からなかった。

幸い、あの霊たちは、廃都から出られないみたい。だから遠征隊は監視の意味も含めて、定期的に廃都の周りに行って、資源を集めてた」

「そんなことが…でも、それが力を強くすることに何の関係ある?」

「あれだよ、魔星族を倒した時、あたしたちの力が少し強くなったって言ったじゃん?その状況は、実は霊を倒した時も起きたよね」


舞衣が話しながら、愛おしそうにアルテミスを撫でる。


「そうだ。そして霊はその場で無限に復活する…ここまで言って、後は分かるな?」

「つまり…あの少年と約束した時限まで、そこで霊をいっぱい倒して、強くなる、ってことか?」

「そうだ。今は、この方法しかない」


舞衣がその内容を聞いて、顔が引き摺った。


「あたしはいやだよ…お化けだよ?呻き声聞いただけで鳥肌が立つわ」

「お化けが怖いのか?」

「こ、怖くない!ただ、あんな倒しても倒しても蘇るものなんて!気持ち悪いから近付きたくないだけなの!」


それ、「怖い」ということだよな?

本音言ったら逆ギレしそうだから、黙ることにした。


それよりも、今なら諦めることはできる。きっと。

シアには悪いが、自分の命が大切だ。

今逃げれば、運よく見つからずに、遠くまで逃げられるかもしれない。


「…でも、シアを助けるために、最善の策を取らないと」


口から、自然とこの言葉が出た。

ああ、どうやら、自分はどうしようもなく、お人好しらしい。


俺の言葉に、ライも首を縦に振って同意した。


「う…分かったわよ。行けばいいでしょう!でも、ちゃんと、あたしに近づかないように守ってね!あたし弓使いだから!」

「オマエの矢、ゼロ距離でも打てるじゃ…」

「なんか言った!?」

「…いや、何も。じゃあ、決まりだな。さっさと荷物を準備して、特訓に行くゾ!」


「遠足気分だなおい」



    ●



「消えろ…!」


(ほのお)を使い、敵を焼き尽す。

近付くものは、拳で叩く。

土から湧き上がったものは、悉く足で踏み躙る。


「はあ、はあ…」


時間は、どれぐらい過ぎたらろう。

周りの景色は、()()()()()


倒された霊は、その場で蘇る。

建物とかも、元々壊れてるから、今更俺たちの戦いで破壊されても、何も変わらない。

瓦礫の山が増えるだけ。


変化を感じれるのは、廃都から離れたところの空が、暗くなったのと、自分の体力が激しく消耗したことぐらいだけ。


「はあ、はあ、はあ…弱いとはいえ、無限の敵を相手するのが半端じゃないな。流石に一日中ずっと戦えるわけにはいかないか」

「もうへとへとだよ…」


ライと舞衣も、顔から疲れの様子が感じる。

体力だけではなく、精神的にも。


終わりが見えない戦いに挑むのは、こんな気持ちになるのか。


そもそも俺たちは、元は普通の学生だった。

それなのに、今は霊を相手に戦ってる。

おかしくない?


しかし、今はそれを考える余地はない。


触れるものであれば、霊が相手だろうと、壊すだけ。

強く、もっと強くならなければ…


シアを助けるために…!


手に力を集め、目の前に集めた多くの霊を、炎で、焼き払う!


そして、俺が手を振り下ろし、霊を消し炭にしたと同時に、あれを見た。


「え…?」


遠くに、とてつもなく高い建物が、聳えてる。

外見はカップケーキが何層も重なってるみたく、それが500メートルも越えてる。

天にも届くような勢いで、そこに存在する。


先は、()()()()()()()()


「炎!後ろ!」

「!しまっ…!」


ライの声で、俺は後ろに向いた。しかし霊がすでに近い距離にいて、

俺に噛み付こうとしたーーの時、


パシュ!


横から矢が飛んできて、霊の頭を粉々に壊した。


「何やってんの!しっかりして!」

「…ああ、ごめん!」


舞衣に謝りながら、俺は先ほど見たあの高い建物を見るために振り返った。

しかし、そこには何もなく、ただ腰から両断されたみたいな壊れたビルだけが、

そこにあった。



    ●



「ふ…これでよし」


体力尽きる前に、俺たちは廃都から離れて、安全な場所に野営を用意した。

村から持ってきた荷物は、キャンプ用の道具と二日分の食料と、

そして簡易の着替え。廃都の周りに川がないから、水浴びすらもできない。


『汗臭い服を二日着るなんて無理無理』と舞衣が。


「こういうこと初めてやったけど、キツイなーー」


ライが両腕を横に伸ばし、筋肉をバキバキ鳴らした。

そして彼は村ですでに下処理されたベヒーモスの肉を、焚き火で焼き、いい焼き加減になった後、

三等分に切り分けてくれた。


「だからいやだって言ったのに!」

「まだ言うかオマエ…」

「まあまあ、無事だったし、よかったじゃないか」


脱出した後、舞衣は始終不機嫌な顔で野営の準備をしていた。

それぐらい霊が嫌いだろう。


「どうだ、二人とも?力が強くなった?」


炊き上げご飯と焼き肉を食べながら、ライが一番肝心の問題を言い出した。

舞衣は一瞬迷った様子で、手に持ってる食器を置いた。


「…強くなった…と思う。でもやはりそこまで強くなった気はしないよ」

「…俺もだ。この程度じゃ、あの少年に届かない」

「…そうだな。実を言うと、オレも同じ考えだ。だが、他に方法はない」


沈黙。

一日試せば、もしかするといいアイデア出るじゃないかと、

たぶん俺たちの心の中で、そう期待していた。


その結果は、そんな簡単にいい解決策が出てこない、という事実に突き詰められてる。


「まあ、ここまで来たし、最後まで頑張ろう。な?」

「炎…」

「…はは、オマエは、相変わらずポジティブだな」

「そうか?」

「そうだ」「そうだよ」


ライと舞衣は息ぴったりで肯定した。なんかくすぐったい気分だ。


「よし、じゃあ、メシ喰って、しっかり休んで、明日もファイトだぜ!」

「あ~またあの亡霊たちを相手にするの?ダルイ~」

「はは…」


その後、俺たちは食べ終わった食器を片付け、テントに入って早めに寝ることにした。



    ●



数多の高層ビルに囲まれた都市。その中に一際高いものがあった。

天にも届きそうな建物、あれは、

101(いちまるいち)ビル。

台湾の台北市に作られ、象徴になった建築。

あれは、繁栄の証ーー


が、今や魔が巣くう不浄の地。守る価値なし。

されど、いつの日か、解放されることを望む。

救い手が現れること、(こいねが)う。



    ●



「ね、人が助けを求める時、助けようと思うのが、当たり前だよね?」

「ん?何、突然?」

「私はね、(えん)が自然と困ってる人を助けようとする行動、素晴らしいと思う」

「それ、■■も同じじゃないか」

「ふふ、そうね。だから私たちはこうして、一緒にいる訳だよね」

「…いきなり恥ずかしいこと言わないでくれ」

「照れた?かわいい~」


()()()の朝、■■と一緒に学校行く時、なんの拍子もなく、彼女はそんな話を言い出した。

今思えば、彼女は何かを感じて、それを言ったじゃないのか?

それとも、俺の、考え過ぎなのか?

どちらにせよ、もう確かめるすべはないーー



    ●



「…夢?」


目を開けると、テントの中でも分かるぐらい、空が少し明るくなってるのが見える。

朝だ。

俺がライと舞衣を起こさないように、足音を抑えて、外を出た。


ヒュ…


寒い風で目が覚めた。

時期的に今は冬ぐらいか。シアが教えてくれた紀神暦は、俺が知ってる西暦と時間の計算方式若干違うか、一年に四季があるということは共通している。


それにしてもまた夢。

いや…あれは、記憶?

夢に出た綺麗な都市の風景は、廃都と似ている。壊れた前の廃都か?


そして、それを見てる誰かの声が聞こえた気がする。

男の声。彼は懐かしい気持ちで、廃都を見ながら、救いを願った。


(台湾と言ったな…もしかして、)


福徳の記憶?

俺は、この場所来たことないし、そもそも台湾の事も知らない。

可能性としては、それしかない。


(取り込んだ神意の力が使えるだけではなく、記憶も共有される、ってことか?)


俺は目を閉じて、試しに福徳の事を考えた。しかし何も起きなかった。


「ふむ…ダメか」


偶然か、やり方違ったか。正解知ってる人は、神意を取り込んだことある存在、

福徳自身と…予測だけど、シアあたりか。


「ふあ…何がダメなの?」

「舞衣?ごめん、起こしたか?」


舞衣が目を擦りながら、テントの中からゆっくりと歩いてきた。

護身用の防具を外した彼女の体は、細くて、綺麗で、とっても戦士には見えない。


「ううん。なんか自然と目が覚めちゃって。野営したことは結構あったけど、こんな自分から早く起きるのは、今回初めてだよ。不思議だねー」

「…そうなのか?」

「うん…きっと、シアのこと心配してるから、しっかり寝れないよね」

「ああ…」


なるほど。それもそうか。時間的に、今日でもう特訓が終わり、明日はしっかり休憩を取り、対策を練った上にシアを助けに行くから、実質余裕がない。


実力をつけるには、時間が足りない。


「炎は?何でこんな時間起きたの?あたしと同じ?」

「俺は…夢を見た」

「夢?」

「ああ…この廃都が廃都になる前の、昔の景色を見た」

「え?この廃都?なにそれ、気になる~」

「オレも気になるな」

「ライ?君も起きたのか」

「誰かさんの話声で起こされたんだよ」

「あー何?嫌味?」

「さあ、どうだろうね?」

「この!」


舞衣がライに走っていき、蹴りを入れようとした。

ライは勿論、棒立ちではなく、蹴られないように逃げ回った。


二人のじゃれ合う姿が、少しではあるが、心を休ませた。


ふっと、気づいた。

福徳の記憶を見たの他に、もう一つ夢を見た気がする。

しかし思い出せない…大切なこと、じゃないから?


俺はそんな気にしてもしょうがないことを心の隅に置き、

二人と朝ご飯を食べた後、二日目の特訓を始めた。



そして、約束の時間が来るーー

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