第13話 神~その三~
土地を守る神、それはどの国にも存在する。
福徳もその一柱。台湾の土地を守る神。
彼はどのようにうまれたのは、諸説がある。
民間伝説では、張 福徳という人が死んだ後、生前の功績が認められて神になった。
もう一説は、自然から形成された。
しかし、当の本人はそれに関する記憶も曖昧の状態。
その関係で彼の元となるものは、定かではない。
「ぶっちゃけ、どうでもいいのじゃ」
「え?」
気が付くと、妙な空間にいた。
真っ白な空間。何もない。先ほどの周りにあった戦闘の跡は、どこにもない。
この空間にいるのは、俺と、
福徳だ。
何故か白い髭を伸ばし、痩せている和やかな雰囲気が漂う老人の姿をしてるが、
あの声と古臭い言葉使いは、俺にそう確信させた。
「福徳さん!?生きて…」
「死んだじゃよ」
福徳は秒で俺が言おうとした言葉を否定した。
「え、でも…」
俺の目の前にいるじゃないか。そう話そうとしたが、福徳はまた先に答えを出した。
「この空間は、お主の心の中じゃ。儂はお主に残りの力を渡し、その力の残響がこういう形に現れたに過ぎないのじゃ。ちなみにこの老人の姿は、儂本来の姿なのじゃ。皆に見せた若い姿は、『頼られる存在』と思わせるために、安心させるために変身したのう」
「そんな…じゃあ、本当に死んだのか…」
「そう言ったじゃろ…まあ、最後の別れぐらいは、できそうじゃけどな」
「最後って…」
「いいか、よく聞け」
福徳軽く咳払いし、凛とした声で俺に話しかけた。
「シア様を攫ったやつに、今のお主らでは絶対に勝てん。だから戦おうとするではない。うまくシア様を助け出した後、逃げるのが得策じゃ」
福徳の言葉で、あの少年の事を思い出す。
強い。
それは間違いなく。
そして竜を使役できるほどの強さを持ってる。
何より福徳を殺した存在だ。それだけで脅威と言っていい。
「でもあの少年は、俺たちをそう簡単に見逃さないと思う」
「そうじゃ。だからシア様を助け出すのが最優先じゃ。シア様が自由になれば、何とか対抗できるはずじゃ」
「シアを…」
シアは確かに強い。でもあの少年の力の片鱗を感じた俺から見ると、シアはあの少年を倒せるほどの力を持ってない。隠してる…ということか?
「それともう一つ」
「うん?」
シアの事を考える途中で、福徳の次の言葉に俺が驚いた。
「シャファの力を使うな。何があってもな」
「え、それはどういう…」
理由を聞こうとした時、福徳の体が分解し始めた。
それはつい先、見た光景だ。
「…福徳さん…!」
「…どうやら時間じゃのう。理由を説明してあげたいけど、無理じゃな」
「…本当に、消えるのか?死ぬ…のか?」
「もう死んでるっと言ったじゃろ。今お主と話すのが、幻みたいなものじゃ。幻は夢と同じ、いずれ消える。まあ、幻が消えないような技を使える神意もいるじゃが」
「じゃあその人に…!」
「アホ!もう間に合わないのじゃ!いい加減現実を見ろ!」
「く…!」
悔しい。親しい人が目の前に死にかけてるのに、何もできない。
自分の力のなさに、涙が零れた。
「…涙、のう。それは、悲しいからか、悔しいからか」
「…両方、だ」
「…そうかのう。その感情があれば、お主はきっと強くなれるぞ」
「強く…」
「そうじゃ。強く、すべてを守れるぐらいに、強くなれ、炎。儂が最後に助言できるのは、これだけじゃ。この神話時代を生き抜くために、絶対的の強さが必要じゃ」
「絶対的の強さ…」
その言葉に込めた真意は、俺には分からない。
ただ、シアを助けるために、あの少年を倒すために、確かに今より強くならないと、勝算はない。
だから、
「…分かった。強くなるよ。二度と、誰かを死なせないために」
俺の言葉を聞いて、福徳は安心したのか、先までの険しい顔が、緩くなった。
「…それで良し。短い時間だったか、お主らと一緒に生活できて、楽しかったのう」
もし何らかのきっかけで、蘇ることできたら、またどこかで会おう。
まあ、そういう事例、そうそういないじゃけどな。
福徳は最後の別れの言葉を残し、俺の目の前から完全に消えた。
●
「…炎!」
「…はっ!?」
「大丈夫!?しっかりして!」
舞衣が血相を変えて、俺の肩を揺らしてる。その隣に、ライが立っている。
「俺…は?」
今の状況をいまいち飲み込めない、そんな俺の考えを察したのか、ライはすぐ口を開けた。
「オマエがオレたちを置いて、福徳さんを探すために勝手に飛び出したよ。幸い、数分でオマエを見つけたけど、ここで一人でボーとしてる状態だった。それで舞衣が必死にオマエを揺らしてるわけだ」
「そうか…俺は…」
「…何があった?」
ライの質問に、舞衣も気にする様子で俺の顔を覗き込んだ。
「実は…」
俺は先ほど福徳とのやり取りを二人に全部説明した。
「そんな、福徳さんが…」
「ク…あのガキ!」
二人は福徳の死を悲しんだ。それは当たり前だ。
俺より長く、福徳と付き合っていたから。
しかし、今は感傷に浸る時間はない。
「福徳さんの仇、そしてシアを助けるために、あの少年を何とかしないと」
「…そうだな」
「炎、なんかいい考えある?」
「俺は、福徳さんが言ってた言葉が気になるな」
「あ。あの、強くなるために…」
「強い存在を取り込む、神意さえも、のことか?」
福徳が俺に言ったその事実に、二人は驚いた。
「確かに魔星族をやっつけた時に、ほんの少しだけ力が湧いた感じあるけど、あれはあたしが魔星族の力を取り込んだってこと?」
「オレもそういう感じがあった。だとしても、あの自称神のクソガキに勝つために、今までのように魔星族を倒すだけじゃ、力は大して成長しないと思う」
二人は俺より早く神意として目覚めて、倒してきた魔星族の数ももちろん俺より断然多い。
それでも、鍛えてきた力は、あの少年を目の前に、触れるところか、動くこともできないまま、膝を突くしかなかった。
「じゃあ、もう方法ないじゃん!」
舞衣の焦りが混じった不安の声が、何もない静かなこの場所に響く。
ライは返事しなかったが、何かを考え込んだ様子。しばらくして、
「…いや、方法が、ある」
「あるのか?」
「あるの!?」
「ああ…ないよりマシの方法は、一つだけある」
「どんな方法?早く教えて!」
方法があると聞いた舞衣は、嬉しそうにライに寄せて、答えを求める。
しかしライは、彼女を横目で見て、ため息をついて、それから答えを伝えた。
「北の廃都…あそこの特性を利用すれば、オレたちは今より多少強くなれる、かもしれない」
「えっ」
ライの話を聞いた舞衣は、先の希望に溢れる表情が、一瞬で氷のように固まった。
「北の廃都?特性?」
「あ、そういえば、炎はまだそこに行ったことなかったっけ?あそこはな…」
ライは両手を肩の高さに上げて、舌を出した。
「お化けが出る場所なんだよ」