第10話 遠征
久しぶりの投稿…新しい仕事は出張が多いから、中々書けないな…ととと
「おっさん、鉱石はここでいいのか?」
「お、そこでいいぜ!悪いな!」
俺は近場の山で掘った鉱石が入った袋を、ある石製建物の中に運んでおろした。
練習が休みの日に、俺は大体朝から、村人の手伝いしながら、みんなと交流を深めている。
大きい社会と違い、40、50人が住んでる集落だと、一人で何とか生活していくには、不便なところがある。
例えば、料理できない人が、食材貰っても、そのまま煮るか焼くか、割と味気がない食生活送ることになる。
そういう時は、食材を料理できる人に渡して、作ってもらうのが一番だ。
もちろんお礼として、何かを渡すのが当たり前だ。
ギブアンドテイク。
「しかし、エンも随分慣れた感じだな!まだ一ヶ月だけだろう?」
目の前にいる40代、黒い肌の男性は、武器を作る人ーー鍛冶屋だ。元々鉱物を加工する仕事してたらしく、世界崩壊後は、天聖族のサポート受けながら、この村でその長所を生かし、みんなを助けてる。
「ああ、みんなのお陰だよ。差別なく、対等に話ができるから、慣れるのが早かった」
「そうかそうか!そうだな!それもシア様のお陰だな、ははは!」
そう。シアのお陰ーーというのは勿論あるけど、天聖族のお陰、と言った方がより正確と思う。
明らかに種族違う人とこうして、会話が通じるのは、天聖族の特殊道具ーー聖引石の関係だ。
遠い場所の人と会話できる、違う種族のものと意思疎通ができるなど、色々便利な機能がある石。
それを、シアの家を中心に、適切な距離を取り、村中にその機能がちゃんと作動できるように設置されてる。
だから実際、みんなは自分の故郷の言葉を話してるけど、聖引石によって翻訳され、俺が分かる言葉に変換された。
何故そんなものを持ってるのをシアに聞いたら、
『昔から、今回みたいの絶滅が、何度もあったので、色々対策を考えました』
というざっくりの答えが返ってきた。まあ、今の俺に詳しく言っても、すぐに理解できないだろう。
そもそも天聖族という種族もあまり知らない。
『天聖界』という、俺が今いる人間界とは別の次元が存在していて、天聖族はみんなそこで生活してる。
人間界に大きな問題あった時だけ、次元を越えて助けに来る、という大まかの説明を受けた。
その大きな問題というのは、今回と同じような災害ーー世界を滅ぼす災いが起きた時、天聖族がやってくる。
普段来れないのか?とシアに尋ねると、
『人間界の平和を乱す可能性あるので、なるべく接触を控えてます。それに、天聖界と人間界を繋げる道は、掟により閉鎖されてるから。
特別の理由がない限り、人間界へ来れません。今回来れたのは、神の災涙による次元の乱れがあった、それを抜け道として使っただけです。
その関係で人間界に来れたものの、天聖界に戻れなくなりましたか』
…と、まあ、聞けば聞くほど、謎が増える一方だから、授業も含めて、程々確認してる感じだ。
「それにしても、あのシア様がお前に結構関心寄せてるよな?皆に優しいけど、お前にだけ特別だな。どういう関係だ?」
「え?いや、それは…分からない」
本当に分からない。そういえば、なんか彼女に救われて、そのまま看病されたと、舞衣から聞いたけど、
俺が目覚めた後も、なにかと世話焼いてくる。好意…と考えたらさすがに自惚れてるな。
「そうぉか?まあ、男女はそういうものだから、一目惚れということかもしれないな!はっはっは!」
「はは…」
「おっ、いた!炎!」
鍛冶屋さんと話してる途中に、ライが俺を見つけて、声かけてきた。
「どうした?」
「ああ、今日は久しぶりにオレが遠征に出る番だから、せっかくだし、お前も一緒にどうダ?」
「遠征?」
ライが歩いてきた方向を目で辿っていくと、そこに20人ぐらいの村人が武具を装着して、村を出る準備をしてる様子が見えた。
遠征行く人数、最初の頃は50人ぐらいいると聞いた。しかし不慣れな環境で、さらに知らない生物を相手にすると、犠牲は免れなかったそうだ。
「食料と村周辺の安全を確保するために、たまに遠い場所へ行く、ということはシアから聞いただろう?今日はその日だ。基本2,3ヶ月に一回だが、最近魔物が強くなってる感じある上に、前より数も増えて活発してる状態だから、今回はちょっと早めに行こうと、シアと福徳に相談した」
「なるほど。前回の遠征は、もう一ヶ月前だったけ?」
「そうだ」
福徳と初対面の日。確かあの時、遠征から戻ったと言ったな。
「でも、魔物と戦うだろう?俺は…」
「火使えるし、大丈夫だ!それに何があったら、オレと舞衣もいるからな!」
「はあ…ん?舞衣?」
部隊の方を再び見ると、先頭に舞衣が立って、全員に何かを説明しているのに気づいた。
「ああ、久しぶり、三人で出掛けよう!」
「…そこまで言うだったら、行くか」
「そうこなくっちゃな!じゃあ、さっそく準備するゾ!」
ライがはしゃぎながら、部隊へ走り戻った。
「やれやれ…」
子供みたいにと思いながら、俺は彼の後を追おうとしたが、
「おう、初陣か?」
「ええ、まあ…何故かそうなった」
鍛冶屋さんがめちゃ楽しそうな顔で声かけてきた。
「では、せっかくだし、これを使え!」
彼は部屋の壁に飾ってる、赤く輝く剣を取り下げ、俺に渡した。
「これは…」
「俺の自信作だ!ファイアが入ってる剣だ!お前の名前も、ファイアの意味だろう?だから似合うと思うぜ!」
「ファイアか…はは…」
改めてそう言われると、変な感じするな。
ファイアが入ってる、つまり火の源素が込めてるだろう。
そのことは、もう天聖族による強化済みで、戦闘に使えるということだ。
「じゃあ、有難く使わせてもらうよ」
「おう!存分に使え!」
鍛冶屋さんに礼を言った後に、俺は遠征隊に合流した。
●
今回の目的地は、村から西の方角だ。
前回は福徳が北へ行ったから、同じ場所は連続行かないというルールを守り、今回はリーダーであるライが、西を選んだ。
北に都市の廃墟があるということに対して、西は山脈の続きだ。
今までの遠征で作られた、人が歩ける道はあるのだが、魔物も生活してる環境で、そういう道は破壊さることが多い。
そのため、遠征隊の仕事は、新しい道の探索と、既に完成された道の修繕も含めてる。
部隊の人がしっかり連携を取って魔物を退治するのと、道の修繕をしながら、俺たちはそれと出会った。
山の天辺に伏せている、巨大の生き物。刺が生えてる翼を持ち、口に獲物を裂く凶悪の牙が並び、手と足は人間を簡単に踏み潰せるぐらいの大きさ。それがーー
「竜…だと?」
古代の生物、竜だ。
黒の目に漆黒の躯体、それと相反する白い翼。
幻想の存在でありながら、『実在する』と主張するように、誰もが見える場所で佇む、生きる伝説。
ただその伝説は、そもそも遥か昔の神話時代から後世に伝わった話。
だから神話時代が甦った今、それが存在してもおかしいことではない。ではないが…
「コイツ、強い…!」
ライが冷や汗かいた。舞衣も、恐怖からなのか、僅かに震えてる。
二人とも、魔物と対峙する時、全然平気だったが、竜を目の前にすると、緊張してるのが分かる。
それぐらい竜が、強いだろう。
同行してる村人たちも怯えている。通常の魔物より数倍大きい怪物を目の前に、ましてやそれが竜ときた。そのせいで彼らは呼吸すら忘れて、動けなくなった。
「なんて、そんなのがここに居るのよ…ここまで強い力を持ってるなら、村にいても、感じられるはずだよね?」
舞衣は声を抑えて、ライに話しかけた。なるべく気づかれないように、対策を考えたいだろう。
「ああ、そうだな…ただ、理由はともあれ、あの竜を倒さないと、先に進めない。最悪の場合は、村が襲われる可能性もある、無視できない」
俺たちの居場所は、村から4時間歩いて、15キロぐらい離れてる所だ。
近くはないが、遠いとも言えない。
何よりあの竜、翼持ってるから、飛べば数分で村に着くだろう。そうすると…
「ああ、ライの言う通りだ。何とかして倒さないと」
「倒せると思うの!?炎は実戦経験ないから分からないと思うけど、あれがあたしたちより強いよ!?」
「でも放っておけないだろう?」
「それはそうだけど…」
「…一旦撤退して、シアに相談しよう」
「「賛成」」
ライの提案に、俺と舞衣は秒で頷いた。
二人は音を立ったないように、周囲の人たちに退避の指示を出したが、
突然、背中に寒気がした。
俺は顔を上げて竜の方を見ると、
「ーー」
竜も、黒に染まった目で、俺を見ていた。
「まずい!逃げろ!」
「「え?」」
俺は自然と叫び出した。ライと舞衣はまだ気づいてないらしい。
だが、すぐに分かった。
何せ、竜が、体を起こし、絶大の轟音を喉から放った。
その音は、山脈すらも震動させ、人の動きをも止める…村人たちの逃げる意思が、吹き飛ばされた。
彼らはただ目を開いたまま、竜が動き出すのを見るしかない。
竜は、山の上から飛び降り、
ドンーーーー
重い音が鳴ったと共に、俺たちの目の前に着地した。
近い距離で見ると、その体の大きさに気圧される。ベヒーモスの2倍ほど大きい…!
そして、俺たちが反応する時間もなく、竜が仕掛けてきた。
右手を掲げ、力いっぱいで横を薙ぎ払い、樹木を簡単にへし折って、村人たちを襲った。
「させるか…!」
ライは迷いなく身を挺し、竜と村人たちの間に入り込み、グングニルを全力で振るい、竜の攻撃を間一髪弾けた。
「やーーー!」
それと同時に、舞衣はアルテミスで竜の眉間を狙い、二回の射撃で、六連の矢を撃ちだした。
しかし、竜の方がさらに早かった。
竜は、左の翼で、上半身を隠すように展開し、矢は翼にぶつかり、元の狙いから外れた。
が、舞衣の矢は、源素で作られた矢だ。的に当たらなくても、触れただけで、爆発が起こし、敵に傷を与える。
「全員、早く逃げろ!」
ライは大きな声で指示を出して、それと同時に俺の方を見た。
あれは、俺に『みんなが安全に逃げられるように守れ』という視線だ。何故かそう感じた。俺はその通りに村人を庇うように彼の前に立ち、戦いの余波に巻き込まれない、火の源素で結晶の壁ーー居界を作った。
二人はうまく竜の攻撃を躱しながら、竜を牽制してるが、村人たちを巻き込まないためなのか、いつものように強い力で技を放してない。その関係で、竜に致命的な打撃を入れること中々できないでいる。
逆に竜の攻撃で、森と山の形がどんどん変形していく。上から振り落とされた手で大地は凹み、尻尾の一振りで山が崩れ、口から放った黒い炎の弾が森を燃やし、元の形がなくなった。
「もう!硬すぎ!」
舞衣は止まることなく、自動追跡できる無数の矢を、数多の方向から竜の隙に突いてるが、竜自身の皮膚が固いらしく、当たったものの、やはり大きいケガにならなかった。
「ちっ…!」
ライは明らかにイラついた。埒が明かないと考えただろう。
が、相手はそう思わないようだ。
「ガァーーー」
竜は口に再び源素を集めた。しかし、今回は明らかに違う。黒い源素ーー闇の源素は光を帯び、少しずつ集合し、やがて深い闇を包んだ球体になった。そこから強烈の波動が伝わる。
そして竜は、その球体を、ライでも舞衣でもなく、俺の方へと照準を合わせた。
「「えーー」」
ライと舞衣は、てっきり竜は自分を攻撃すると予想したみたいで、回避の準備をしたが、竜がいきなり目標を俺に切り替えたことで、咄嗟に反応できなかった。
その一瞬の遅れが、命取りに。
【竜閃だ!逃げろ!】
「な…!?」
突然、体の内側から、声が聞こえた。
「シャファ!?お前、いたのか?」
【いいから逃げろ!今のお前じゃ耐えられないんだ!】
「…やってみないと分からないだろう!?」
【分かるんだよ!俺は、もう一人のお前だからさ!】
シャファはもう一人の俺というのは、本当かどうか分からないが、少なくとも、耐えられないということは事実だろう。
あの竜から感じた力は、自分より遥かに強い。神意になった関係か、そういう生き物が持つ源素の量、力の強弱など、鮮明に感じるようになった。
だから、このままその一撃を受けると、死ななくても、重傷にはなるだろう。
それでも、
「逃げない…逃げてはだめだ!」
俺は、背後にいる逃げ遅れてる村人と、離れた場所にある、俺たちの帰るべき場所をちらと見た。
あの竜は、何故か最初から俺を狙ってる気がした。目が合ったのも、今、俺に向けて、攻撃しようとしたのも。だから俺が村人と違う方向に逃げれば、竜も射線を変えるかもしれない。
だが、それは可能性の話だ。
逃げるという判断が間違いだったら、村人が殺される。村も、遠い場所にあるからって、無事に済ませないかもしれない。
「後ろに守るべきものがあるんだ…!」
俺が震える体を落ち着かせるために、大声で吶喊した。竜はそれを合図と取ったかのように、
破壊の光ーー竜閃を解き放った。
俺は、ただ今持つ全力で、居界に注ぎ込み、それが耐えられるように祈るしかなかった。
ライと舞衣は、俺を守るために駆け付けようとする姿が見えるが、間に合わない。
最初の時と違い、今度は自分で自分を守らなければ…!
そして、竜閃が俺が展開した居界に直撃した。幸いのことに、一瞬で破れることはなかった。
しかし、数秒も経たないうちに、真ん中からひびが入り、それが間もなくの間に全体に広がった。
死を覚悟したーー
【…ふ、こんな本体持つと、命がいくら持っても足りないな】
「は?お前何言って…」
シャファが呆れたように笑い、影から俺の腰の剣に手を伸ばした。そして剣は突然、紅い光を迸った。
【ほら、力を少し貸した。剣を抜け】
「剣?」
言われるままに剣を抜いた。抜かれた剣は、鍛冶屋で見た時の紅鉄の色より眩い彩を発散してる。
【防御することを忘れ、全力で振るえ。そうすれば、多少は対抗できると思う】
「…分かった!」
シャファの言う通りに、居界を維持する力を、全部剣に回した。すると、剣から炎が生きてるように燃え上がった。自分はやけどしないが、そこから感じた熱は、尋常じゃないのが分かる。
そして、居界が割れた同じタイミングで、俺はすぐさまに両手で炎の剣を竜閃にぶつけた。
「はあああああーーーーー!!!!!!」
全力で、自分の命を賭けに、最後となるかもしれない一振りで。
赤く燃える火の柱が、竜閃と真正面から衝突し、周囲の環境は衝撃の波動で壊されながら、二つの力が拮抗状態に入った。
「くっ…!」
重い…!長い時間持たない…!
そう考えた時に、ライと舞衣が、いつの間にか力を蓄えて、攻撃の準備してるところが目に入った。
「この馬鹿トカゲ…!」
「オレたちの友たちを…!」
二人は事前に打ち合わせすることもなく、息ぴったりで、
「「傷つけるなーーーーー!!!!!!」」
ライのグングニルがいかずちを帯び、舞衣の矢が風を纏い、二人は同時に攻撃を放ち、竜の頭に直撃し、爆発した。
竜は、その強烈な力で、頭ところが、上半身が消えてなくなり、永遠に沈黙した。
竜が死んだと理解した俺は、全力で対抗した関係で、体が脱力し、地に膝を突いた。
「はあ…はあ…!」
勝った。竜という伝説の存在に。魔物と対面したことはあるが、戦うことは、今回が初めてだ。ましてや竜など。
手が、また震え始めた。しかし、村人はそんな俺の心境をもちろん何も知らずに、興奮して俺に寄ってきた。
『ありがとう!』『私たちを守ってくれて!』『あなたはまさに、』『ヒーローだ!』
賞賛の言葉が絶え間なく飛んでくる。そんな俺の方に、ライと舞衣も歩いてきた。
「よくやったな」
「もう~逃げずに逆に反撃するなんて、見てるこっちは冷や汗かいたよ」
「ああ…ごめん、俺は…」
「村人を守るためでしょう?知ってるよ。だって、」
「オマエは昔から、そういう困ってる人を助けるような、いいやつだったからな」
「ーーー」
そうか。どうやら、俺は、みんなが認めるいい人だったようだ。妙な気分だ。
しかし二人の笑顔、みんなの喜んでる表情、それを見られるのは、悪くない。
「でも久しぶりに、三人で協力して何かをやり遂げたね!やはり気持ちいいー」
「ああ、そうだな!こういうの、燃えるぜ!」
ただ、俺たちが勝利を噛み締める時間、長くなかった。
パチ、パチ、パチ。
竜に破壊された、山だった場所に、拍手の音が響き渡った。
「あ~いいもの見た。これは何て言うの?…あ、友情、努力、勝利ってヤツ?面白いね!」
そこに、見た感じ俺より若い少年が、両足を組んで、本当に愉しんでる顔で笑ってる。
その隣に、シアが碧の光の輪で拘束されてる姿も目に入った。頭を垂れて何も反応しない状況からすると、気を失ってるみたいだ。
「シア…!お前、何者だ!」
俺は体に残ってる力を絞って怒声を出した。
シアを捕まえてるということは、もう敵だと判断していい。そんな奴に礼などいらない。
何より、本能が、目の前コイツが危険だと、感じた。
見た目に反して、白い髪の少年は、先の竜より、遥かに…
「ボク?ボクは、そうね…あなたたちの言葉でいうと、あれだ」
少年は口角を上げて、得意げに宣言した。
「神である」
その言葉が少年の口から出たと同じタイミングで、まるで自分が本当の神を証明するかのように、彼の体から膨大な力が溢れ出し、大地を撼動させた。俺たちもその力に圧迫され、背中に岩でも背負ってるように、しっかり立つことができなくなった。
この日、俺たちは、初めてそれと出会った。
伝説の竜の強ささえも簡単に超える、本物の、神と呼ばれる存在にーーー