魔物と変態
誰にだって、不幸な日はあるだろう。
それは、昨日かもしれなかったし、明日かもしれない。
何年、何十年、何百年か後の話かもしれない、でも一つだけ言えることがある。
篠原アキトという十五の少年にとっては、まさに今日が、その不幸な日といえるだろう。
「だぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁ」
アキトは走っていた、それはもう走っていた。
前しか見ておらず、木と木の間を縫うようにとにかく走っていた。
しかしアキトの耳には確かに聞こえていた。
すぐ後ろで、木が折れて倒れるそんな音が……。
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
アキトのすぐ後ろには、【魔物】がいた。
毛虫がとてもなく大きくなったような、そんな見た目の魔物だ。
つまりどういうことかというと、端的に言ってしまえば、アキトは死にかけている。
大きく口を開いた魔物は、立った一人の獲物にのみ集中しており。
今にもアキトは食べられてしまいそうだった。
魔物の通った後を空から見れるのであれば、かなりわかりやすいとえるぐらい、その魔物の通った場所はえぐれており、また魔物の通った道の距離は、アキトがかなりの逃げ続けていることも分かってしまう。
なぜなら魔物の通った後は、付近の村(といってもアキトの現在地から距離にし約三キロの場所)から続ているのであるから。
「なんでこんなことに! なんなんだ! この毛虫の魔物は!!」
アキトは、文句を言いながら逃げ続ける。
「もおおおおお! 僕があなたに何かしましたかぁぁぁぁぁ!?」
魔物に問いかけてしまうくらい、同様していた。
そんなアキトの問いに魔物はおたけびで返す。
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
逃げ続けるアキト、追いかけ続ける魔物、そんな二人の逃走劇が始まってから役二分が経過したころ……アキトの頭上を何かが高速で通った。
アキトは視界の端で頭上を通った何かを視認、それは箒に乗っていた、とんがり帽子をかぶっていた、それは青かった。
直後、背後から聞こえる破裂音と何かが飛び散る音。
アキトが後ろを見ると、そこには……魔女がいた。
「あ、あなたは……」
それは、美しすぎた。
言葉をまだ発してもいない、それの顔を見たアキトは振り向いた顔を見ただけで虜になっていた。
笑顔を向けられらたアキトの心臓は、破裂したのでは?と錯覚させるほどに跳ねる。
「ケガはない?」
綺麗な声だった、ずっと聞いていたいとそう思えるほどに綺麗な声だった。
話しかけられたことに、唖然としてしまうアキトだったが、目の前の命の恩人が首を傾げたのを見て、慌てて話出す。
「あ……は、はい、大丈夫です」
「そう、ならよかった」
そういってまた笑顔を向けてくる、命の恩人
「あ、あの助けて頂きありがとうございます」
お礼を言わなければと思い、特にありがとうの部分を強調して礼をするアキトに命の恩人は手を横に振る。
「いいのいいの、別にいいのよ君が助かって何よりだもん」
なんて、心の広い人なんだ、アキトはそう思ったのと同時にやはり、美人な人は心の中も美人なのかと、自分の中で美人の定義を勝手に決めていると……。
「だってもったいなかったんだもん」
もったいなかった?
どういうことだろう?
アキトは、命の恩人の真意を聞きたくて、なんだか先ほどまでの優しい雰囲気が消えかけている、命の恩人に話しかける。
「あの……どういう?」
その時、アキトは自分の目を疑った。
なぜなら、目の前の美人の口から涎がこぼれたからだ。
ぎょっとした、きっとこの反応が一番しっくりくるのだろう。
アキトは、命の恩人の顔を見てそう思った。
なぜなら、さっきまでのどこか優しそうでしかし大人っぽいというか、クールというかそんな雰囲気漂わせていた、命の恩人の顔が……恍惚としているのだから……それはまるで先ほどの魔物の様に獲物を見つけた、といった顔をしていたのだ。
こんな、美人にならとも考えるアキトだったが……何かとんでもない物の片鱗を感じたアキトは逃げる事を選択した。
「ちょっとぉぉぉ! どこに行くのよぉぉぉ! まだ名前も言ってないのにぃぃぃ!!」
「うわああああああああああああああ」
「私の名前はマーリン、ブリタニア王国のお抱えマジックソーサラーで、セブンズソーサラーの一人で、お金持ちよぉぉぉぉぉ! ねぇあなた、一生養ってあげるから!」
マーリンはそこまで言ってから、一度息を吸い込んで箒にまたがると……。
アキトの事を真っすぐに見つめながら言った。
「私だけのショタになってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「こっちくるなぁぁぁぁ!!! 変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
アキトの逃げる相手が、魔物から変態に変わった。