第一話 『再誕ーThe beginning of the endー』
今度こそは、今度こそは、今度こそは。
そう思い続け、20回失敗を繰り返した。
この選択が、この結末が正しいのか、もはや私にはわからない。
ただ一つ言えるのは、
私の選んだ未来で、彼女は笑い、私を呪い続けるのだろう。
――――――――――
異世界と言えば、魔法。
異世界と言えば、剣。
派手な炎で焼き尽くすもよし。
大量の水で砕くもよし。
荒れ狂う風で切り刻むもよし。
伝説の聖剣を引き抜いて、勇者になるのかも。
呪われた魔剣を引き抜いて、魔王になるのかも。
何か「そういうの」を期待してた。
異世界に転生すれば、
人とは違う能力が与えられていて、困難を機に覚悟を決めて、
数話にわたる修行回を経て、巨大な悪を打ち砕く。
助けた王女と恋をしたり、幼馴染に抱き着かれたり、奴隷の子に懐かれたり。
そして待ってましたハーレムEND。
英雄となった主人公は1人2人と女をたらし込み、最終的には十数人の妻を抱いて幸せな生活を送る。
テンプレ展開はテンプレであるから意味があるし、憧れる。
この世界に前世の記憶を持って生まれ直したからには、
そういう「何か」が起こるのだと思っていた。
――――――――――
広瀬ハル。
身長は175㎝。体重は最後に測った時は65.3㎏。
平凡な父と平凡な母の間に生まれた平凡な子供。
天才ではなかったが、愚図でもなかった。
テストをやれば、各教科オール平均点。
英語は苦手だったが、得意な現代文と平均すれば学年ど真ん中ぐらい。
運動神経も可もなく不可もなく。
シャトルランは100回ぐらい。
50mは6.8?とかだったと思う。
とにかくクラスの真ん中。
小学校の頃から柔道は習っていたけど、
特別強いわけでもなく大会で注目されるような腕ではなかった。
友達も普通に居た。
僕は友達が云々とか、やはり俺の青春云々とか、そういうラノベの主人公になれるようなボッチではなかったし、絶世の美少女との恋愛もなかった。
もちろん裸に剥かれてニートになった挙句、異世界に転生することもなかった。
普通に友達は居たし、親友と呼べる存在も居た。
初めての彼女は高校2年生の頃同じクラスだった女の子。
名前は何だったか。まあまあ可愛かった。
そんな俺の人生はB級映画未満の起伏の無さで進行していく。
妹が居たから都立高校に進学し、頑張って国立大学に入った。
やりたいことが特にあったわけではないので、
適当に勉強して、適当に資格を取って、卒業後は不動産屋に就職。
結婚相手は職場の同僚だった。
26という昨今だったらちょっと早い時期に家庭を持ち、
働いて、家を買って、娘が生まれた。
娘はめっちゃ可愛かった。
俺は毎日のように、娘を可愛がった。
なで、褒め、抱きしめ、甘やかす。
そんな日々の結果、娘は立派な淑女へ、
俺は立派な子煩悩へと成長を遂げた。
俺が52の時、娘が男を連れてきた。
悲しさと嬉しさが半々……いや、悲しさが少し大きかったかも。
それから二十年ちょっと。
妻が死んだ。
悲しかった。
俺と妻の恋愛は漫画になるようなものではなかった。
「燃えるような」なんて形容詞は似合わない、
カッコつけて言えば「凪のような」関係だった。
「ただいま」を言っても声が返ってこない。
電気の消えた家に帰ってくるたびに、俺は泣いた。
それからしばらくして。
俺も、この世を離れた。
最後まで意識はしっかりしていた。
享年81歳。死因は癌。
辛く苦しい闘病生活の果てに、俺の体は病魔に屈した。
娘夫婦や孫に看取られる俺の一生は、絵に描いた幸福な生活だったに違いない。
俺としても、もっと彼女らと一緒に居たかったが、これも天寿。
仏教信者ではないが自然とそう思えた。
俺の人生は凡庸だった。
ごく当たり前の学生時代、社会人時代を過ごして病死。
日本人かくあるべし、という一生を見事全うした模範生だ。
そんな俺は死んで、
気が付けばおっぱいをしゃぶっていた。
良い乳だ。
開けた布から片乳だけボロン。
妻はCカップだった。
ちょっと大きめの乳輪が俺の性癖にグサグサ刺さる最高のおっぱいだった。
だが、現在俺の口にあてがわれているのは妻のものではない。
俺の記憶に残る全盛期の彼女に比べかなり大きい別物。
月曜日の如くたわわに実った巨乳である。
「あぅー、だぅー」
訳の分からん音声が俺の耳に聞こえた。
どうやら近くに赤ちゃんが居るらしい。
(残念だったな。このおっぱいを今吸っているのは俺だ)
赤子とて、この乳は譲れん。
「うー………」
(………いや、譲るべきだな、うん)
冷静に考えて、赤ちゃんの隣で母乳プレイに励む老人というのは気持ち悪い。
俺はそっと口を放した。
「いいのよ、我慢しなくて」
俺が口を放すと、透き通るような声が聞こえた。
微かに視界が揺れる。
おっぱいがしゃべったようだ。
違う、おっぱいの持ち主が喋ったようだ。
「ふふふ」
俺の頭が誰かの手に押される。
このおっぱいの持ち主は随分と手が大きい。
「アランはいい子ね」
天から降る女の声が知らない名前を呼んだ。
俺の名前は広瀬ハル。
男でも女でもいいようにと適当吹かした親父につけられた、広瀬ハルだ。
「うふふ」
そもそも、俺は死んだはずなのに何故女の乳をしゃぶっている?レロレロ
これが俺が死の寸前に望んだことなのか?チュパチュパ
娘夫婦や孫娘の頭を撫でることではなく、金髪美女の乳をしゃぶることを俺が望んだと?ペロペロカリッ
「いたっ!おっぱいは噛んじゃいけないわ!」
一瞬見えた。
ぷるるんと揺れるお椀型おっぱいの向こう側。
逆光で細部までは見えない。
だがわかる。
とんでもない金髪美女がいた。
死んだ後。
極楽の時間。
金髪美女と波打つOPPAI。
そんな存在に俺は一人だけ思い当たる節がある。
この美女は間違いなく天使だ。
「おっぱいは優しく飲んでちょうだい」
ほらな。
おっぱいを無償でくれる金髪美女。
そんな存在が天使以外に居るか?
天使は優しく俺の額を撫でると、再び、胸の突起に俺の顔に押し付けた。
(なんてこった……最高だ……)
金髪美女のおっぱいをしゃぶるなんて生前にもできなかった。
俺はおっぱい星人として生まれ落ち、おっぱい成人になり、
おっぱい聖人を信奉する、由緒正しきおっぱい教徒だ。
ついに俺は楽園に到達したというのか。
妻の記憶にすまんと思いつつも、俺は必死にしゃぶりついた。
「ふふっ」
天使は微笑むばかりだ。
「ママのおっぱい美味しい?」
しかも、ママプレイ。
こんなプレイ要求したら吉原でもドン引きされるぞ。
天国はNGなしって本当だったのか……。
「あいー!」
赤ちゃんからも大絶賛のようだ。
当然だろう、リアル母乳プレイだ。
成人は乳糖を分解できないから腹を下す?
バカめ、貴様は真なるおっぱいを知らんのだ。
この乳を前にして、誰が我慢できるというのか。
これを吸っていれば、そりゃあ男の子はスクスク育つだろう。
なんたっておっぱい吸って寝んねするだけで、人間の三大欲求は満たされる。
つまり母乳は完全食。QED.
「だぁー……」
息継ぎに口を離した途端、急に眠気が襲ってきた。
視界が霞み始める。
心なしか、体もフラフラする。
まるで、魂が体を離れようとしているみたいだ。
アディショナルタイムが終わる。
死の間際に見たおっぱい天国……素晴らしい場所だった……。
「もう、おなか一杯になったらすぐお眠なんだから」
天使は俺の顔を覗き込んで微笑むと、ゆっくりと抱きしめた。
――――――――――
ひんやりとした空気が頬を撫でた。
「だぁー……」
(知らない、天井だ)
板張りの天井。
澄んだ空気が光を反射し、ダイヤモンドダストのように煌めいて見える。
「あぅー……」
(家の匂い……)
鼻腔をくすぐるのは木材の匂い。
かすかに混じるのは古書の匂いだろうか。
「ぶぶー……」
(寝ていた……)
首を倒すと木製の柵が見えた。
柵の高さは俺の視線よりかなり高い。
立ち上がっても届くかどうか。
拳を叩きつけても、ベッドは凹まなかった。
「あいー……?」
違和感を覚えた右手を左手で掴む。
プニプニの小さな手。
水饅頭のようにモチモチの肌。
脳内の認識と現実の感触が食い違う。
「んんー……」
(うーん……)
ベビー服を着て、涎掛けまでしてるとなると……、
「あいあいー……?」
(……赤ちゃんになってる?)
赤ちゃんに転生している、という方が正しいか。
何故こんな突拍子もない現実(?)を理解できたのか、
自分でもよくわからないが、多分間違いない。
状況的にも。感覚的にも。
(俺は言葉もロクに話すことのできない幼児になっているのだッッ!)
とか考えてみたり。
すると、
「んぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
気づけば泣いていた。
(感情が昂ると泣くのかこの体は!)
自覚してるのに涙と嗚咽が止まない。
肉体と精神の年齢の乖離が激しいからだろう。
心の中で溜息をつきながら肉体は号泣。
(老人生活の直後が赤子とは)
不思議な感覚だ。
老人の精神に赤ちゃんの肉体。
言うなれば超極端なコナン君。
思考と肉体の反応が真っ向から食い違う。
新鮮を通り越して、気持ち悪い。
「どうしたのアーくん!」
俺が泣いていると(自分で言うのも変だが)、バンッと勢いよく扉が開いた。
走ってくる音で分かっていたのに、
いざ大きな音を聞くと心臓が爆発しそうなほどドキドキした。
乳児がベビーベッドで寝てるって分かってます?
「よーしよし、いい子だからね」
泣き声を聞いた金髪美女が俺の体を掬い上げるように抱く。
ゆっくりと揺らされ、トクトク聞こえる心臓の音で自然と涙が止まった。
涙で滲む視界で周囲を見渡そうとすると、すぐにベビーベットに戻される。
すると、美女が「あ」と何かに気付いたのか鼻をヒクヒクさせて、
「おちっちね!」
赤ちゃん言葉で俺の泣いている理由を推理する。
俺が漏らす?
何を言ってるんだ。
これでも俺は80年以上生きた男だぞ。
確かに死ぬ前はオムツを履いていたが、
排尿筋が健常な今、この俺におもらしなどあるものか……、
(……ふぅ)
聞いてくれよバーナード。
僕の精神は確かに81歳さ。
皺に塗れ、目が霞み、鼻毛と耳毛が雑草の如く生い茂る老人さ。
よく考えてみたんだ。
俺、死ぬ前もおもらししてたなって。
外出する時オムツ履いてたなって。
今更、おもらしぐらい怖くねえなって。
でもさ。
違うんだよ今回は。
あんときは、自分でやってたじゃねえか。
漏らしたブツの処理も、漏らしちまったTINの処理も。
俺はさ。
怖いんだよ。
OMORASHIして怒られることじゃねえ。
俺のTINが金髪美女にOMOTENASHIされることがさ。
ジョーでもバーニィでもいい。
嘘だといってくれよ。
俺の心の葛藤も空しく、ニマニマしながら金髪美女――いやもうこの人は母親だろう――母は、白いタオルを片手ににじり寄ってくる。
「おしめ変えますからねー」
「ああい~……!」
(HA☆NA☆SE!!)
抵抗空しく文字通り赤子の手をひねるように俺の体を押さえ、
ついに俺の秘所は暴かれてしまった。
ああ、すまない、息子よ。
お前を守る力のない俺を笑ってくれ。
母は手際よくおしめを取り換えると、かぶれないよう濡れた布で、
(勃たないよね?)
勃たなかった。
母の手で、しかも乳児でね。
流石になかった。
九死に一生を得た気分だ。
「はーい、おわったよー」
恥辱、恐怖、安心……全ては一瞬にして過ぎ去った。
これが赤ちゃんか(悟り)。
「シェイナ」
自分の聖剣(現在はまだ短剣)に意識を向けていると、
扉の外から声がかかった。
低く野太い男の声だ。
「はーい」
シェイナと呼ばれて母が反応すると、1人のスキンヘッドが入ってきた。
「……」
赤ちゃんなのに言葉を失った。
サイズ合ってねえだろと言わんばかりのぴちぴちの服。
それを押し上げるのはデカすぎる筋肉と、逆三角のボディライン。
その筋肉たるや富士山超えてチョモランマ。
マッチョの男が歩いているというより、
人の形をした筋肉が歩いているというべきか。
ピカピカのスキンヘッドや顔に刻まれた深い皺を見る限り、
結構いい年だろうに腰も全然曲がっていない。
これで斧を持たせて鎧を着せれば、紫犀聖騎士団団長になれそうだ。
「獲物を置いておいた。血抜きは終わらせている」
男は地鳴りのような声でそう言うと、大股で俺の方に近寄ってくる。
(うわっでけぇ……)
見上げる程……というのはベビーベットに寝てるんだから皆そうなんだが、
この男は母と比べても格別にデカい。
もちろん筋肉の話だけじゃない。
身長もメチャクチャにデカいのだ。
近づかれると威圧感が半端ない。
「これがシェイナの子か」
まさかコイツ、俺の父親か?
この筋肉から生まれてきたのか?
年の差婚なのか……?
「そう!私の自慢の息子っ!アランよっ!」
ガッと抱きかかえられ、胸が押し当てられる。
高くなった視界でも男の顔は遥か高みだ。
「そうか」
俺の頭を大きな手がグイっと押さえつける。
巌のような手だ。
この手が少しでも力を籠めれば、俺のプリティーヘッドは一瞬のうちにクラッシュトマトに様変わりするだろう。
しかし、男の撫で方は、外見に似合わず、とても優しいものだった。
父に撫でられた時もこんな感じだっただろうか。
昔のこと過ぎて思い出せないが、きっとそうだったのだろう。
厳つくて豆だらけの大きな手。
俺の知っている父の手のひらとは似ても似つかないのに、
何故か懐かしい気持ちが蘇ってくる。
「クロウの面影もあるな」
「ええ」
目を細めて微笑むシェイナの顔に一瞬影が差して見えた。
「何かあったらすぐに呼べ」
男はそれだけ言い残すと、部屋を出て行った。
シェイナは何か言いたげに閉まる扉を見送ったが、
結局何も言わずに俺をベッドに戻した。
「ごめんね。ママ、イルクさんとお話があるからちょっと待っててね」
シェイナは申し訳なさそうに眉根を下げて、部屋を出て行った。
(ふぅ……にしても転生、か)
神学やオカルトは専門外だから詳しいことは分からないが、
現状を考えれば、おそらく転生ってことになるだろう。
俺は俺のことをしっかり覚えているし、喋れこそしないが思考もできている。
そうでなくても、母親におむつ交換されるときに勃起を心配する幼児なんて気持ち悪くて仕方ないだろう。
ちなみに、感性は青年ぐらいに戻っている。
死ぬ直前の俺はこんなに性欲旺盛じゃなかった。
大体18~25ぐらいなんじゃないかと思う。
少なくとも、そのぐらいの頃はパンツを見て興奮できた。
つまり現状は、
(見た目は赤子!記憶は老人!感性は青年!その名は!名探偵アラン!)
ということらしい。
ぐちゃぐちゃだな、おい。
――――――――――
乳が吸いたくて泣き、
尿意が決壊して泣き、
強面の大男のクワッと笑った顔を見て泣き。
俺は2歳になった。
この2年は人生最高の年月だった。
誰に気を遣う必要はない。
腹が減れば泣いて乳を要求し、
眠たくなればその場で爆睡。
好きな時に、食って、寝て、吸って、揉んで、顔をうずめ。
天を見上げればそこには乙女のパンティー。
最高過ぎて人生最後の夏かと思った。
シェイナ・ピコノース。
年齢は25。
純白の肌に、透き通るような金髪。
スッと鼻筋が通り、薄紅色の唇。
若草色の瞳も合わせてヨーロッパ系の顔立ち。
この手の異世界で金髪と言えばロングヘアが常套だが、
シェイナはバッサリ切ったベリーショートヘアだった。
スタイルも抜群だ。
服の上からでもわかる主張の強い各パーツ。
オパーイもオシーリも、どこを見てもエベレスト級。
身長は差が大きすぎてわからないけど、結構高い方な気がする。
すらりと高い身長。起伏の激しいボディライン。
全てが揃ったうえで、顔まで超美人ときた。
我が母親は、マジで女神なんじゃなかろうか。
イルク・ピコノース。
年齢は知らない。
スキンヘッドの大男。
矍鑠となんて控えめな表現ではない。
今が全盛期。そう言わんばかりのマッチョメェンだ。
イルクも勿論、スタイル抜群だ。
それはもう男らしく、組み伏せられれば最後は産むことになると女に確信させる素晴らしい体躯だ。
何をやればこんなドウェイン・〇ョンソンみたいになるんだ……と思って、
耳を澄ませていたところ、イルクは狩人のようなことをやっているらしい。
今でも3日に1ぺんぐらい巨大な肉塊が裏口に置いてある。
血抜きまで完全に済ませられているとはいえ、中々にグロテスク。
彼にはレーティングの観念が無いらしい。
シェイナとイルクの関係性はよくわからない。
最初は、姓が同じだから夫婦なのかと思った。
だが、2人の会話や、家を時々訪れる人の話を聞いて、
どうにも違うらしいことが判明した。
というのも、この村の住人は全員が「〇〇・ピコノース」なのだ。
村の名前がピコノース村で、苗字もピコノース。
なるほど、前世でも村名を姓として名乗る村が海外にあったし、
この中世風の生活の中でなら、むしろ妥当とさえ思える。
というわけで、2人の関係や過去は未だに不明なのだが、
なんにせよ、夫婦でないことだけは確かなようだ。
さて。
そんな最近の日課は、魔法を出す練習をすることだ。
やっぱりあるんですか?
ええ、あったんです。
しかも、なんと。
シェイナが魔法使いだったのだ。
いや、驚いた。
すんごい驚いた。
シェイナが水瓶の前で手を煽ると、何ということでしょう!
水が球体になって浮き上がってきたではありませんか。
(ええええええええええええええええ)
その時の俺の驚きっぷりはすさまじかった。
ハイハイしていることを忘れ、段差を踏み外し、階段を三段ほど転げ落ちた。
シェイナが真っ青な顔で俺に近寄ると今度は緑の光を放つ右手を額に当ててくる。
(回復魔法!)
彼女の手に見とれていると、いつの間にか割れるような痛みは消えていた。
いとも容易くたんこぶを治してしまったのだ。
え?すごすぎん?
(魔法!魔法があるのかこの世界!)
夢の国を支配している二足歩行のネズミしか使えないあの魔法。
俺の世代だとスレ〇ヤーズとか魔女宅とか現代っ子に伝わらなくなりつつあるあの魔法。
語尾に「ファイッ!」ってつければ全部ハリポタ風になるあの魔法。
フィクションの中にしかなかった「魔法」が存在するのである!
(まさか本当にあるとは……)
その事実を目の当たりにしてしまえば話は早い。
さっさと魔法を使えるようにならなければ。
そんで30歳童貞がなれる偽物ではなく、本物の「魔法使い」にならなくては。
(ホグ〇ーツに入れるぐらいの魔法使いに!)
そんな大願を抱いて訓練する日々。
やり方なんてよく分からないからシェイナの見様見真似だ。
エネルギーを絞り出そう、絞り出そうと集中する。
確かになにか力が集まっている気がする。
行ける!
我が腕に魔力よ集え!
うおおおおおおおっ!
プリッ
「うええええええええええええええええええええん」
(ちくしょぉおおおおおおおおおおお!)
なんで魔法じゃなくて実がでるんだよぉおおおおおおおお!
俺の魔法は糞を出す魔法なのかよぉおおおお!
激しい絶望を繰り返した。
それは壮絶な戦いだった。
魔法を出そうとしては尿が漏れ。
魔法を出そうとしては糞が漏れ。
そのたびに泣き。
そして魔法は全くでなかった。
更に月日は流れた。
異世界転生モノなのに、こんなことでいいのかと思う程あっさりと時間は過ぎていった。
母が襲われ復讐を決意することもなく、
ドラゴンに襲われ村が壊滅するなんてこともなく、
俺は5歳になった。
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