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ポンコツお嬢様、キャロライナ!

前回のあらすじ

 フレデリック、大いに困惑!


 朝、目が覚めて真っ先に思い浮かぶのはわたくしが恋した人。

 顔を思い出すだけで、どきどきと胸が高鳴る。


 顔を洗って、身支度を整える。基礎化粧品でお肌の調子を整えて、髪を梳かして。


「うむむむむっ、やっぱりこの髪の癖がどうやっても治らないわ」


 何回櫛を通しても、ぴょこんと跳ねる癖っ毛。まるでびっくりした猫の尻尾のよう。

 先々日の舞踏会では、二時間ほど格闘してようやく治したのだ。それも、家に帰った時にはすっかり跳ねていた。


「……もしかして、この癖っ毛で判別していたなんてことはないよね?」


 仮面を着けていたからといって、わたくしがウィリアムに気づかないはずがない、と思う。

 でも、よくよく思い出してみるといつもと違う雰囲気だったから気づかないはずだわ。


 仮面舞踏会にウィリアムが参加していたなんて、想像すらしていなかった。『恋愛なんて馬鹿馬鹿しい』が口癖の彼が、ああいう場所に行っていたなんて意外だわ。


「まさかウィリアムに口説かれるとは思わなかったわ。いつも『お気楽キャロライナ』って馬鹿にしてくるのに!」


 いつもクールで皮肉屋な彼と仮面舞踏会での彼、やっぱり同一人物とは思えないわ。

 制服のブレザーに腕を通して、ダークレッドのチェックスカートを履く。黒の靴下とローファー、これがノースイースト学園の制服だ。

 他にもチェックのズボンか、黒ズボンに腰布を巻く方式など三通りの制服のパターンがある。


「おはよう、キャリー。朝食できたってさ」

「おはようございます、お兄様。今いきますわ!」


 やっぱり治る気配もない癖っ毛は諦めて、もそもそと朝食を食べる。お手伝いさん特製のエッグベネディクトと眠気覚ましのコーヒー。

 家族みんなはブラックコーヒーだけど、わたくしはカフェオレ。あんな苦いもの、わたくしは一生飲める気がしないわ。


「そういえばキャリー、次の補習はいつだい?」

「当分はない予定ですわ」

「……今度、お兄ちゃんとお勉強会を開こうね」

「お兄様の手を煩わせることはありませんのに……でも、テストが近いし……時間がある時にお願いしますわ」


 今度の期末テストで赤点を取ると、長い休みの半分を学校に通って補習を受けなくてはいけない。お兄様からの自立と夏期講習の回避を天秤にかけたわたくしは、ものの数秒で後者を選択した。背に腹は変えられないのよ。

 エッグベネディクトの最後の一口を食べ終えて、わたくしはお手伝いさんに感謝しながら鞄を掴む。


「キャリー、いってらっしゃい」

「気をつけるのよ」

「はい、お父様、お母様!」


 ひらひらと見送る両親に手を振って、わたくしは家を出る。

 ききっとブレーキの音が響いた。自転車に乗ったウィリアムが話しかけてきた。


「キャロライナ、お前、今家を出るのか?」


 昨日のこともあって、なんだか気まずい。


「ええ、いつもこの時間じゃない」


 変な事を言うウィリアム。

 てくてく通学路を歩いていると、ウィリアムは自転車に乗ったままポツリと呟く。


「……今日の日直当番、お前じゃなかったか?」

「あ」


 数秒、ウィリアムと顔を見合わせたわたくし。同じペースで動いていたはずなのに、ウィリアムの速度がぐんとあがる。ペダルを踏んで加速したのだ。


「待って、待ってよウィリアム! 後ろに乗せてぇっ!!」

「悪いな、キャロライナ! 俺は道路交通法だけは守るって決めてるんだ! じゃあなっ!!」

「あ〜っ!!」


 結局、ウィリアムは自転車に乗せてくれるどころか通学路を走るわたくしにピッタリついてきて『スピード落ちてるぞ〜!』と煽ってきた。ムカつく。


「はあ……はあ……間に合った……ぜえ、ぜえ」

「おめでと〜、ほらこんなところでじっとしてたら折角間に合ったのに遅刻するぞ。ほら、職員室までダッシュ、ダッシュ!」

「馬鹿ウィリアムめ、いつかぎゃふんと言わせてやるわ……!」


 漆黒の決意を胸に抱きながら、わたくしは職員室へ急ぐ。

 日直当番の仕事は多い。その日の連絡事項を担任から聞き、プリントを運ぶ。その仕事を人は小間使いと呼ぶけれど、こういう細かい仕事は疎かにすると後で困ったことになるのだ。


 職員室に息を切らしながら駆け込むと、担任の先生がコーヒーを飲み干してからわたくしに挨拶をしてきた。


「おや、おはようございますテンプトンさん。今回も忘れたのかと思いましたよ。プリント運び、お願いしますね」

「ぜえ、ぜえ、わ、分かりましたわ……!」

「……汗は拭いてくださいね」

「あ、はい……」


 担任の先生はどうして憐れむような目でわたくしを見るのかしら?


 それから特に何事もなく、午前の授業を終える。

 お昼休みの食堂でわたくしが昼食を食べていると、隣に友人のペトラが座った。

 サラサラの金髪をなびかせながら、男爵令嬢のペトラはクスクスと笑う。


「キャロライナ、貴女は今日もウィリアムと仲良しなのね」

「仲良しじゃないわ、彼とわたくしはライバルなのよ!」


 一瞬、わたくしの恋心を看破されたのかと思って肝を冷やす。


「はいはい、分かってるわ」


 呆れたように流すペトラ。ひとまず、わたくしの恋心はバレていないようでなにより。


「そもそも、どうして貴女とウィリアムはライバルなの?」

「あら、話してなかったかしら。そう、あれは十年前の出来事だったわ」


 六歳の誕生日を迎えたわたくしは、お祖父様に連れられてお誕生日プレゼントを買いに、とある店を訪れていた。それがたまたまノーランド商会傘下の店だったのだ。


『おじいちゃま、このお店でお買い物をするの?』


 わたくしがそう問いかけると、お祖父様はわたくしの肩を掴んでノーランド商会の看板を指差す。


『よいか、キャロライナ。あれが我がテンプトン商会の宿敵にしてライバル。倒さねばならん商売敵だ』

『まあ!?』

『しっかりと覚えておくんだぞ』

『分かりましたわ、おじいちゃま!』


 その晩、お祖父様は持病が悪化して還らぬ人となった。医者の話によれば、お祖父様はその日出歩けた事自体が奇跡のようなものだったらしい。


「それで、遺言に従ってライバルを憎んでいると」

「いえ、お祖父様の遺言は『金の管理はしっかりしながら健やかに暮らせ』でしたわ。商売敵云々は最期から十番目の言葉になりますわ」

「……ほーん? さっぱり分からないわね」


 わたくしの話を聞いていたペトラはなんとも言えない感想を漏らして、昼食を口へ運ぶ。


「ところで、なのだけど。午後は剣術大会の予選が行われるんでしょう? キャロライナは誰に賭けるの?」

「……あ」

「まさか、忘れてたの?」


 わたくしはコクリと頷く。


「貴女、本当に色々と無頓着なんだから!」

「う、うう……だって、誰かが怪我をするような野蛮な剣術は好きじゃありませんわ」


 この学園では、二年に一度、剣術大会が行われる。その大会で良い結果を取れば、進路先も優遇されるということで男子生徒(一部の女子生徒含む)は俄然やる気に満ちているのだ。

 その大会の優勝候補には賭け金が設定され、一部は学園の運営費に回されているらしい。


「わたくしには関係ありませんわ」


 ペトラはいよいよ呆れた顔を隠さないでため息を吐くようになった。


「キャロライナ、貴女って本当に忘れっぽいのね。昨日の学級会で保健委員に選ばれていたでしょう?」

「あ」


 昨日の記憶が脳裏を過ぎる。なかなか役割が決まらない学級会に業を煮やしたわたくしは、自分が立候補することで強引に終わらせたのだった。

 ウィリアムとの約束で頭がいっぱいになっていたわたくしは、とにかく放課後が待ち遠しかったのだ。結局、その後で担任の先生から補習を言い渡されて少し遅刻をしてしまったのだけど。


「わたくしのお馬鹿……!」

「あはは、キャロライナの行動は本当に予想できた試しがないわ」


 ペトラのからからとした笑い声を聞きながら、わたくしはがっくりと肩を落とした。


 保健委員。それは怪我人が増える剣術大会で、校医の補助を務める生徒を指す。授業の免除(といっても成績評価のないものに限られる)等が認められる代わりに、放課後に行われる予選や大会当日にお仕事を任されるのだ。

 過去にお兄様が保健委員となったことがあって、それはもう大変だったと毎日のように愚痴を聞かされた。


「立候補取り下げ、なんてダメよねぇ」

「まあまあ。私は生徒会として会場にいるし、力になれることがあるかもしれないわ」


 部活動に加入していないわたくしは、ペトラの言葉に顔を輝かせる。


「もしかして、保健委員を通じてお友達が出来るかしら!?」

「あ〜可能性としては? 交友関係が広がるわけだし……」

「まあっ!」


 お友達が出来るかもしれない。

 それを聞いただけで、げんなりしかけたわたくしは暗闇に光が灯るような気持ちになる。


 わたくしには、ついうっかり道に迷っていたわたくしに親切にしてくれたペトラの他に、友人と呼べる人はいない。

 ウィリアムはライバルだし、クラスメイトとは挨拶は交わすけどそれきり。


「いよぉし、わたくし頑張りますわっ!」

「応援してるわ、キャロライナ」


 ペトラに応援されたわたくしは、やる気満々で午後の授業に望むのだった。

ここまで読んでキャロライナがアホ毛の生えたポンコツお嬢様だと気づいた読者は下部から★★★★★評価とブクマをお願いします!

すると出版社から注目されるかもしれないので!!

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