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剣術大会最終予選第一試合

前回までのあらすじ

 コゼットによるいじめっ子への宣戦布告


 コゼットの試合を応援するべく、わたくしはペトラと一緒に剣術大会の最終予選が行われる会場にいた。

 その日はたまたま委員会のお仕事が後半だったので、時間にはゆとりがある。

 心ゆくまでコゼットを応援できるわ。


「キャロライナ、無理そうなら目を閉じてもいいのよ」

「コゼットの試合だけは、わたくし頑張るわ!」


 剣術大会で使う剣は木刀。

 本物の真剣ではないけれど、それでもやっぱり打ちどころが悪いと血が出てしまうこともある。


 わたくしは血の赤い色を見るだけで顔から血の気が失せてしまうぐらい、怪我を見るのが嫌い。

 骨折なんて直視したら、きっと卒倒してしまうわ。


 観客席の最前列でコゼットが怪我をしないように祈っていると、司会が登場して今日の試合スケジュールを説明していく。


 前半はコゼットとレイチェル、そしてウィリアムの試合が。

 後半にはお兄様ともう一人わたくしの知らない人の試合が予定されている。


 前半なら、ウィリアムの試合も観れるわね。

 会場内だから、走れば間に合うはず。

 たまたま見るだけだから、他の人にわたくしがウィリアムのことを意識しているなんて怪しまれることもないはずだわ。


 そんなことを考えていると、第一試合が開始する時間になった。

 吹奏楽部による選手入場の曲と共に木刀を携えたコゼットが姿を表す。


「あ、コゼットだわ」

「応援してますわよ〜!!」


 私たちの声に気づいたコゼットが目を細めて手を振り返す。

 動きやすいように髪を縛って運動着に着替えた彼女は、なんだか顔つきが凛々しくなったような気がする。


 コゼットの反対側から姿を見せたのは、アシュリーの腰巾着が一人、レイチェル。

 ツインテールの髪に猫のような吊り目でコゼットを睨みつける。


「大人しくしていれば打撲だけで済ませてあげるつもりだったけど、アシュリー様のご命令ですもの。コゼット、覚悟なさい!」


 ひゅん、と木刀を振り下ろす。

 コゼットと同じくお貴族さまだから剣術には疎いと思っていたのだけど、どうやらわたくしが思っていたよりも武闘派な人が多いようね。

 人は見かけによらないってよく言うわ。

 ……もしかして、わたくしが知らないだけでペトラも剣を扱えるのかしら?


「手加減無用、全力でかかってきなさい」


 レイチェルの威圧を込めた素振りを前にしても、コゼットの表情は崩れない。

 それどころか、対戦相手に挑発のジェスチャーまで繰り出している。


「こ、このっ……!」


 これにはレイチェルも顔を赤くして激怒した。

 今にも飛びかかりそうな形相で睨みつけていた。


 審判が手を挙げ、会場が一瞬で静かになる。


「それでは、これより剣術大会最終予選第一試合を開催する!」


 審判の手が振り下ろされると同時に、二人が駆け出した。

 剣がぶつかり合うと会場から歓声があがる。


「うおおおおっ!」

「がんばれレイチェルちゃん!」

「コゼットちゃんも負けるなっ!!」


 観客たちは思い思いに選手たちを応援する。

 わたくしたちも負けじとコゼットの名前を呼んで応援した。


 二度、三度と剣を交えた二人は飛び退って距離を取る。

 どうしたのかと思っていると、司会が解説を始めた。


「おおっと、これはお互いの実力を測り終えたようです! 恐らく、次の一撃で決着がつくでしょう!」


 そんなに早く勝負がつくものなのか。

 達人同士にしか分からない境地というものなのね、とわたくしは強引に自分を納得させた。


「コゼット、よくも今まで猫を被っていられたわね……!」


 レイチェルの言葉にコゼットは何も答えない。

 彼女はただ静かに剣を構えて、息を吸う。


「レイチェルさん、この勝負は私の勝ちです」


 次の瞬間、くるくると木刀が宙を舞った。


「……お?」


 司会が驚きの声をあげる。

 呆然としたレイチェルの手から弾き飛ばされた木刀が地面の上を滑っていった。


「────素早い一閃!! コルテサン選手の見事な突きが決まりましたッ!」


 剣術大会は場外に出ることと、木刀を手放すかの二つで勝敗が決まる。

 レイチェルは空っぽになった自分の手を見て、それから信じられないようなものを見る目でコゼットの顔を見た。


「コゼットが勝ったわ!」


 隣に座っていたペトラと手を握り合う。


「勝者、コゼット・コルテサン!」

「皆様のご声援ありがとうございました」


 司会の宣言にコゼットは優雅に一礼。

 その姿はとても自信に満ちていて、初対面の時とは似ても似つかない。

 なんだかわたくしまで誇らしい気持ちになって来ちゃう。


「コゼット、とってもかっこよかったわ!!」


 わたくしがそう叫ぶと、コゼットは恥ずかしそうに頰を赤らめて小さく手を振りかえしてくれた。

 その背中を睨みつけているのは、レイチェル。

 顔を真っ赤にしていたけれど、同じく観客席にいるアシュリーたちの方を見るとすぐに顔を青ざめて会場を後にした。


「………………」


 離れた位置に座るアシュリー。

 彼女の唇が動いた気配がしたけど、わたくしがいる位置から何を言っているのかは分からない。


「コゼット、こっちよ」


 ペトラがコゼットを呼ぶ声が聞こえて、わたくしはアシュリーから目を離す。

 コゼットのことを労いながら、もう一度アシュリーの方を見たけれど彼女はいつのまにかもう一人のお友達と一緒にいなくなっていた。

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