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屋上のドアを開けた時、外気が肌を冷たく撫でた。それと同時に濃い湿気を感じた。屋上を包んでいる霧のせいだろうか。

屋上を見回そうとしたが、数メートル先からは濃霧のせいで完全に見通せなかった。

霧自体に害はなさそうだった。毒霧の類かと少し身構えたが、体調には何の変化もない。

しかし、何があるかは分からない。わかる範囲ではなんの変哲もない屋上だが、豹変して何らかの害をなすに違いない。

そろりそろりと慎重に歩き始める。そして、急に屋上が途切れる可能性があるのではと恐れ、足を止める。


「・・・・・・誰か、いるか?」


霧に向かって声をかける。声はすぐに静寂に呑まれ、霧が無機質に目の前で漂う。


「誰かいるか?」


返答はない。

僕はその場に座り込んだ。そしてそのまま腕を抱いて体育座りをし、頭を垂れる。

新鮮な空気を吸えるのはとても嬉しいが、それで心身の疲れが取れるというわけではない。

少しだけ休憩がしたい。

ここが屋上ならば、つまりはゴール地点だ。アオイも最終的にここへやってくるに違いない。いないということは僕の方が早く着いたのかもしれない。


「―――――へえ、やけに悠長じゃない」


背後からの声に僕は思わず飛び上がった。

あまりの驚きに比喩でなく、体中の毛が逆立った。


「な、んっ―――――――!!」


急いで振り返るが、そこには誰もいない。というかそもそも霧が濃くて何も見えない。


「きゃはは、いいリアクションだよ!」


「な、誰だ・・・!」


霧の中から無邪気な少女の声が響いてくる。


「ンー、なんだなんだ。誰だか分からないのかい?それはつまらないなあ。ていうか冷たいなあ。ボクはここで待ってるって初めに説明したはずだよ。・・・あ、そっか、そっか。この霧が邪魔かい?」


それなら、と声とともに、霧が次第に薄れていった。


風が吹き荒れるでもなく、濃霧がお役御免と言わんばかりに静かにフェードアウトしていく。

霧が晴れると、そこは淡い金色が空を染めた黄昏と、それに照らされたマンションの屋上だった。

久しぶりに感じる陽の光だが、眼を細めるほど眩しくはない。

世界を照らした灯りが僕に影を作り、その影が伸びる先を、僕はそっと見やる。

何の変哲もない明るい世界、唯一その世界に不似合いな異物があるとすれば、3mほど先にある古臭い木彫りの椅子と、そこに座る人形のような何かだった。


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