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そう、今ではその素性すら僕らは知っている。


先ほどテレビで見たときはさめざめと涙を流していたが、今では冷え冷えとした雰囲気を醸しながら、眼窩の奥では静かな怒りの炎を灯しているような迫力があった。


「あら、ユウキくん、大きくなったわね。アオイより誕生日が早かったから今は二十歳かしら。時間がたつのは早いわねえ。ランドセルを背負っていた時が昨日のようだわ」


「おばさん、何で・・・・・・」


「―――ここに来たか?それともこの場所が分かったか?そんなの決まってるわ。ここにアオイがいるからよ。そうでしょう、ユウキくんパパ?」


「・・・・・・」


父は脂汗を浮かべながら硬直している。

複雑な感情が入り混じって言葉が喉でつっかえているようだった。

その様子を見て、おばさんは首をわずかに傾けてため息をついた。


「ひょっとしてシラを切る気ではありませんよねえ。十年前の事件から姿をくらましたと思ったら、こんなマンションで気ままな暮らし・・・私、怒りがこみあげてきて仕様がありません」


「・・・・・・」


父は依然沈黙を守ったまま、ただまっすぐにおばさんを睨み続けている。


「ユウキ君、アオイはどこにいるのか教えてくれる?」


今度は僕に聞いてきた。

恐らく優しい微笑を演出しながら言っているつもりなのだろうが、焼けた顔に微細な表情は浮かんでいない。

今気づいたことだが、おばさんからアオイが監禁されている部屋のドアは、僕が重なっているから死角になっているらしい。


「・・・・・・」


僕も父のように沈黙した。


「――――――あなたもだんまりなのね」


卑怯な親子だわ、と小さな声でつぶやくのが聞こえた。

それから少し間を空けて、


「ところでユウキくん、あなたのお父さんが十年前に何をしたか知ってる?

そう、あの事件の後の話よ」


おばさんは父を指さしながら僕に尋ねる。

黒焦げで、先が欠けた指が静かに何かを訴えているように思えた。


「僕は・・・」


先ほどから、僕の記憶にある事故とは事情が違うことは感づいている。

事故の当事者、そして被害者としては知りたい。

ならば何の気なしに聞けばいい。

それでも――――どこかで躊躇うのはまだ両親に対する情念が密かに心の中に生きているからだ。

大事なアオイを十年も苦しめていながら、そして殺意さえも抱きながらも、この期に及んで親子の間にはまだ絆が存在しているみたいだった。

呆れる。

自分を嘲笑してしまいたいほどに。


「どうなの?ユウキくん」


促すように顎を上げるおばさん。苛立ち交じりの声だった。

僕は少し間を空けて、


「―――――――――――知りません」


観念したように言う。


まただ。


また僕は迷ってしまったようだ。


心がぶれる。ここに来て何度目だ。

余計な感情を切り捨てろ。

殺したいほど憎い父を庇う心がまだどこかにあるというなら、それを意図的に切り捨てればいい。

もううんざりだ。

目標は一つなのに、どうしてこんなに心が右往左往するんだ。

自分に苛立ちながら父を横目で見る。

父が何かを訴えるような眼を向けていることが分かった。

おばさんは父に指した指を静かにおろす。

それからソファに腰を掛けてやはり想像通りに、語り始めようと、じゃあ、と口を開く―――――


「待ってください」


僕が先んじておばさんの前に言葉を放った。

一瞬ピタと止まり、おばさんは首を傾ける。


「どうしたの?」


明確に不満を孕んだ声だった。

それでも僕は構わず続ける。


「おばさんが教える前にちょっと待ってください。その前にあの事件の後日談について、僕が知っている限りのことを話します。それで違っていたら修正してください」


「なぜ、そんなことをしなくちゃいけないの?」


「僕はあの事件についての記憶が曖昧なのです。トラウマになっているからかもしれません。だから、それをおばさんが正してくれた方がいい」


もちろん、嘘だ。

自分でも感心するほどの出まかせだが、おばさんは手であごをさすり、少し考えるような仕草をみせる。

顎をさするとポロポロと床にふけのような小さい肉片が落ちる。


「・・・・・・いいでしょう。言ってみなさい」


おばさんは浅く座りなおした。

おばさんのペースに巻き込まれないように咄嗟に取り繕っただけだが、いい機会だ。

同じ被害者の話を聞いて、改める認識が見つかるかもしれない。


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