03
アオイは散々泣いて疲れてしまったのか、眠ってしまった。
うつ伏せのまま静かな寝息を立てて、目の下には涙の跡が残っている。
「アオイちゃんがこんなに安心して寝ているのは初めて見たわ」
看護師さんがしみじみと言った。
「ここに入院して来て以来、ずっと傷の痛みとご両親が亡くなったショックで毎日泣いてたの。毎日、毎日、朝から晩までずっと・・・」
「毎日・・・」
「そうよ。事故から何日も経ったのにアオイちゃんの心の傷はずっと癒えないの。それに合わせて体の傷もなかなか治らなくて。・・・・・・ここ数日はましになっていたけど、それでもまだアオイちゃんは完治には遠くて・・・」
彼女の背中の熱傷は僕よりもひどいものらしい。
車から逃げようとした時、炎に当てられた彼女の叫び声が不意に頭によぎり、それを振り払おうと頭を振った。
「なんでもっと早くアオイちゃんと会わせてくれなかったんですか?」
「ごめんね、君もアオイちゃんもなかなか動ける状態じゃなかったし、叫び声をあげるアオイちゃんは周りから迷惑がられてこんな病棟の奥にまで移されてしまったの。かわいそうに・・・」
「・・・アオイちゃんはいつ退院するんですか?」
「君よりだいぶ後になるわ」
「そうですか・・・」
「大丈夫よ。この子の怪我は先生がちゃんと治すから。治るまで安心して待ってて」
看護師さんがやってきて、僕の肩にそっと手を置いた。
「ボク、退院の日まで毎日ここに来ていいですか?」
「・・・ええ、アオイちゃんも喜ぶわ」
看護師さんはまた潤んだ声だった。
眠っているアオイが少し身じろぎすると、目に残っていた涙が一つ零れ落ちた。
その涙を拭くと、僕の目からも同じように涙が溢れた。
一つ。
二つ。
彼女の熱、呼吸、肌の感触。
それら一つ一つを確認するたびに涙はどんどん溢れ出た。
父さんと母さんもいなくなったけれど、僕は一人じゃなかった。
それだけで僕は救われた気分になっていた。
あの時、全てを焼き払う業火の中で感じたものは、お互い両親を亡くしたアオイとの何よりも固い絆だったのだ。
だから、これは嬉し涙だ。
僕には誰よりも大事な人が出来た。
どんなことがあっても彼女を手放さない。放すものか。
幼い心で、僕はそう決めた。