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光源はリビングの右側からだった。
ドアの構造上首を伸ばしでもしないとそちらの様子を伺えないので、体勢を立て直して静かにリビングに入ることにした。テレビの音は今では鮮明に聞こえる。
『昨日起きた、○○市少女誘拐事件は現在も調査が続いており・・・・・・』
物騒な話だった。
テレビの方に目を向ける。
そうするとソファに座ってテレビを眺めている二つの人影が同時に目に入った。
「・・・・・・っ!!」
思わず叫び出しそうになった声を無理やり飲み込む。
テレビは壁側に据えてあり、画面の光は逆光になって、二人の姿をはっきりと認めることはできない。
僕はなんとかソファに腰掛ける二つの影の顔を見ようと苦心するが、どうしても気づかれないように顔を覗き込むのは無理そうだった。
声をかけようと逡巡する僕に気づく素振りは見えなかった。
「・・・・・・あ、あの」
全く進展しなさそうな状況にしびれを切らしたのは僕だった。
正体不明の人影への恐怖心は薄れ、今は彼女を追いかけたい気持ちが、のどに詰まっていた声を押し出した。
「・・・・・・あの、すいません。ここの住人の方ですか」
その答えは、しばしの間を空けて返ってきた。
「電気をつけなさい」
厳格な男性の声色だった。向かって右側に座っている人影の声だ。
僕は反射的に、そしておとなしく従いリビングの壁で緑に点灯している小さなスイッチを赤色に切り替えた。
今の声は、どこかで聞いたような気がした。それもとても懐かしく、とても心に響きいるような。
蛍光灯が何度か点滅をして、部屋一面を明瞭に映し出した。
それに合わせて、ソファに座っている二人は、同じ動作でゆっくりと振り向き、僕を見据えた。
その顔を見て、僕は唖然とする。ありえないことが起こるマンションだと知っているからなのか、その存在が、僕の目の前にいることに疑いはなかった。
「久しぶりね、ユウキ」
今度は左手に座っている女性が言う。
優しい声だと、感じるのはやはり――――――この人が、僕の母親だからだろうか。




