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「これが、本当の僕・・・・・・」
「その通りだよ、僕」
彼は椅子に座りなおして、果物を齧っていた。
「僕は彼女の死体を見たとき叫んでいたね。なるほど、確かに初めは驚いたかもしれない。この世で唯一の僕の生きる意味、大事なアオイが死んでいたら発狂したくなるかもしれない。君が今までアオイを、まるで蝶よ花よと愛でて、必死に汚さないように大切にしていたのも知っている。けど、君はそんな可憐な花が散った姿に心の底から悲しんでいないという自分に違和感があったはずだ。―――――――そう。死んだ事実に絶望に埋め尽くされた自分の心のどこかに、僅かな愛と欲望の灯があることに違和感を感じたはずだ」
果物を齧りながら語る。
「それが、僕の真意だ。人は面白いことに、自分の中にある『矛盾した自分』に対してひどく盲目的だ。理想だとか、信念なんていった綺麗なものが目立ってその姿を見せないようにしているからね」
彼は雄弁に語り続ける。
「・・・・・・けれど、僕に言わせたらそのあり方は汚い。清濁合わせて人間となるっていう不変の事実を、受け止めようとしない人間はひどく醜くて下劣だ。裏表がある人なんて言うけどそんなのは嘘。本当は多側面ある人間がその全てを無意識に統合しているだけの話だ。言うなれば、全ては表だけど、視点を変えれば色形が違って見えるだけの話だよ。
その一側面から見た、多方面はひどく違って見える、それが今言った『矛盾した自分』だよ。その『矛盾した自分』を知らないのは愚かだけど、それを知りつつ、なお一般論とか倫理観とか理想論を後ろ盾にして否定をする奴はもっと愚かだ。―――――だからさ、僕はそうなっちゃあいけない。大切な人とずっといたいという大それた理想を抱いているなら、愚かであっちゃいけないな」
彼は言う。
「いいかい、君――――いや、僕という人間は、彼女に対して異常なほどの絆を感じていて、その関係において彼女を清廉な淑女として位置付けてきた。
―――――――――けど、その実、『彼女を姦して、殺して、独占して、その先にある、美に至上の幸福を感じる側面も兼ね備えている人間』、それも間違いなく僕なんだ」
「小綺麗な理想を求めるのは、結構だけど―――――――僕という人間がそんな人間である以上、そんな理想にはどうしようもない僕という矛盾が付きまとう。だから結局、理想に手は届きやしない。―――――――君は、間違いなく、アオイを犯して、最後には殺す」
彼はそう言った。
その声は間違いなく僕と同じ声だった。




