13
その後、アオイは眠ってしまった。泣き疲れたのだろうか。
何もかもが壊れた部屋のベッドで静かに寝息を立てている。
顔は泣き腫らして赤みを帯びている。
僕は、その顔を静かに撫でた。
眼の端に残っていた涙を拭いてやり、破れた布団をかけてやる。
・・・あんなに錯乱していたアオイ初めて見た。
アオイは悪夢を見たと言っていた。
しかし悪夢を見たからといって、あんなに取り乱すだろうか。
家の中はぐちゃぐちゃだ。そこまで彼女の心をかき乱した悪夢とは一体何なんだ。
昨日風呂に入っていた時は、まだあんなに不安定な様子ではなかった。
ならば、やはりその後だ。
城山に会いに行った時に何かあったに違いない。
それから僕は家に戻り、着替えて大学に向かった。
アオイを一人にさせておくことに一抹の不安を感じていたが、あの様子ではしばらく起きはしないだろう。
勢いで大学には来たものの、よく考えれば城山がどこにいるかはわからない。だから食堂で昼時を待つことにした。
待っている間もいろいろと思考を巡らせたが、アオイがあんなことになったことにやはり見当がつかない。
昼時が近づくにつれ、次第に食堂に人が雪崩れ込みだしてきた。
その中に城山の姿を見つけた。
いつもアオイがいるグループが一緒だ。皆楽しそうに笑いあっている。こちらの事情も知らないで。僕はすぐに城山のもとに向かった。
「あんた、城山アツシだな?」
突然のことに城山は驚いていた。僕の顔が仏頂面だったせいかもしれない。けれど、そんなこといちいち気にしていられなかった。
「・・・えっと、君は確か、ユウキくんだったかな」
案の定、城山は僕のことを知っていた。
取り巻きの女が何かに気づいたようにハッとした。
「じゃあ、この人が、あおちゃんの・・・?」
「うそ・・・」
アオイを狙っている男と、アオイの恋人と噂される男の邂逅。
そんなシチュエーションにどうやら何かしらのドラマが生まれることに期待しているのか
知らないが、生憎今はそんなドラマチックな展開などあるはずがない。
「何か用かな、ユウキくん?ぼくたちは今から昼食なんだ」
「その昼飯前に悪いけど、聞きたいことがあるんだ。ちょっと顔を貸してくれないか?」
僕の言葉にきゃっと取り巻きの女が楽しそうな声を上げた。
城山は少し考えるような素振りを見せ、
「ああ、構わないよ」
と、はにかんで答える。
そうして僕と城山アツシは、人気のない校舎の陰に行った。
「ここらでいいか・・・」
僕が呟く。すると、
「何だい?こんなところまで来て。まるで不良の喧嘩みたいだな」
「聞きたいことがある。アオイのことだ」
それを聞いて、城山はふふと笑う。
「やっぱりそうか。ぼくがアオイちゃんのことを好きだって誰かから聞いたのかい?ふふ、まあ、その通りだけどね」
「・・・・・・は?」
「ふふ、つまりはけん制しようってわけだな。なんせ君はアオイちゃんの幼馴染なんだろう?いつまでも手を出せずにいるようだけどね。悪いけど、譲るつもりは無いよ。こんなところまでわざわざ連れてこられたけど、丁度いい。君とはちゃんと話をしておきたか―――――」
「そんなことを話しに来たんじゃない!」
僕は城山の胸倉を掴んで、校舎の壁に叩きつけた。
「な、なにをするんだ!」
「お前がアオイを好きとか、狙っているとかこの際どうでもいい!僕が聞きたいのは、お前が昨日の夜アオイと会って何をしていたかだ!」
「何で、君がそのことを知ってるんだ?」
「いいから、答えろ!」
城山は僕の剣幕に怖気づいたのか、あっさり口を開いた。
「昨日の夜、彼女を肝試しに誘ったんだ・・・・・・」
「肝試し?」
「そうだ。最近なんだか彼女は暗い顔をしていることが多かった。新作コンペが近いけどなかなか思ったような絵が描けないって悩んでもいたから、気分転換になればと思って誘ったんだ」
「どこに行ったんだ。答えろ」
「・・・そんな怖い顔するなよ。隣の○○市だよ。最近そこに変な建物が出来たって噂を聞いてたんだ」
僕は思わず目を見張った。
嫌な汗が浮き上がるのを感じた。
「変な、建物だと・・・?」
そう、と言い城山は続ける。
「最近、○○市に急に現れたって、巷で話題の幽霊マンションだ。何の前触れもなく現れて、自殺志願者を募る奇妙なマンションだって聞いた。
確か、名前は―――――――『マンション・スペクター』」




