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01

目覚めて、初めに目にしたのは、ベットの白いシーツだった。

ここはどこ?ぼくは何をしていたのだろう?

曖昧な意識でここがどこかと記憶を遡ろうとするが、どうにも頭が痛くて思い出すことができなかった。


「ああ!よかった、目覚めたのね!」


不意にそんな声が聞こえた。

そちらに顔を向けると、年配の女性がこちらに向けて安堵を織り交ぜた笑みを浮かべていた。


「待ってて。先生を呼んでくるから」

そう言って、女性は部屋から小走りで出て行った。


シンと静まり返る部屋に僕は取り残された。

眼球だけを動かし、周りの様子を伺った。

白一色で染められた部屋には、目立った家具などは無い。小さなテーブルに、折りたたまれたパイプ椅子、あとは窓際でカーテンが風に揺れているだけだった。


「・・・・・・」


あまりに簡素な部屋に生活の色は無い。薬品の匂いから察するに、ここはどうやら病室らしかった。

しかしどうして病院なんかにいるのか、どうして僕はベッドの上でうつぶせになっているのか、肝心なことは何もわからない。

何か他に分かることはないかと体を動かそうとすると、ふと背中に妙な違和感を覚えた。

背中を触ってみると、包帯が幾重にも巻かれているのだ。

しかも少しでもさすってみると、そこに鋭い痛みが走るおまけつきだ。


「・・・・・・!?」


あまりの痛みに思わず呼吸が荒くなり、嫌な汗がこめかみをつたった。

さすった場所が妙に熱を持っているような感覚がある。


―――傷。

―――痛み。

―――そして、熱。


途端ジワジワと炙られるように記憶が蘇ってきた。

全て燃やし尽くさんとする紅い死の感覚が、記憶の中で燃え上がる。喉を焦がす熱、目を覆いたくなるような悲劇の色。


「う、あ・・・」


嗚咽が漏れ、汗が一層浮き出て、頭痛がさらに酷くなる。

僕の荒々しく脈打つ鼓動が静かな部屋に響いている。

呼吸が激しくなって、涙までも零れていた。

ああ、思い出した。

ここにいる理由。

それと同時に背中に巻かれた包帯の意味も。

そして、死が蔓延したあの光景を。


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」


全て真実だったと悟った時、僕は大声で叫んでいた。

どんなに泣き叫んでもあの記憶は、火傷のように記憶に焼き付けられていた。

この後、僕がどうやって生きていたか、覚えていない。

痛みと狂気にまみれて、まともに生活などできてはいなかっただろう。


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