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05.『GW初日にて』

読む自己で。

「ん……」


 体を起こすと自分の部屋ではないことにすぐ気づいた。

 一瞬慌てかけたが、そういえば楓の部屋で寝ていたんだったとすぐに思い出して私は心を落ち着かせる。


「横の部屋に白兄……」


 そういえば優香姉はどこに寝ているんだろうか。


「行ってきたらいいじゃない」

「ひゃあああ!?」


 私の叫び声に千代が「うるさいわね……」と迷惑そうな顔をする。


「楓は?」

「ああうん……下で寝たみたい」

「また変な遠慮をしたのねあの子」


 まあでも私たちは1歳年上だし異性だし、楓にはきつい任務だと思う。

 だけど千代の言うように変な遠慮があるのは確かだ。どうせおまけとかなんとか考えているんだろうけど……。

 千代とふたりでリビングに行くと、ソファには楓が、椅子に座り机に突っ伏して優香姉が寝ていた。


「恐らく楓は断ったんでしょうけどね」

「だよね、一緒の空間で寝るわけないもんね」


 優香姉は彼女に任せて、私はチェリーボーイを起こすことに。


「楓、起きなさい」

「……おはよ」

「おはよ。というか部屋で寝ればいいじゃん」

「できないよそんなの」


 なんか信用されていないみたいで嫌だな。

 それに楓が間違えて襲いかかってきたとしても負けない自信があるというのに。


「え……なんで芹沢さんはここに?」

「来たら寝てた」

「座って寝たりなんかしたら体調悪くするのに……」


 ふぅん、私たちを相手するときよりかは心配性らしい。

 楓が優香姉を奪ってくれれば私にも可能性ができるんだけど、楓と優香姉に期待するのは間違いだと切り捨てる。


「はは、いまはあんたのハーレムじゃん」

「なわけないよ、みんなが白兄のことが好きでさ」

「みんなねぇ」


 これだけ一緒にいても千代な好きな人は聞いたことないし、なにかと楓といようとする優香姉の本当のところだってわかっていない。なのに楓は勝手に白兄のおまけみたいな考え方をして、自分を少し低く評価しているのは確かだ。


「だめね、起きないわ」

「生きてる?」

「ええ、それは大丈夫よ」

「あ、楓、ちょっと耳元で優香って呼んでみてよ」


 これで起きたら面白い。後でなにかと好都合だ。


「え? 優香」

「ひゃっ!? わ、私じゃない! 優香さんの耳元でよ!」

「あ、そういう……まあいいけどさ」


 楓が彼女の側にいき囁くと、


「は、はい!? ……え?」


 彼女が飛び起き、そして後ろに倒れそうになったところを楓が支える。


「おはようございます」

「え、え? あ、お、おはようございます……って、きゃあ!?」

「お、落ち着いてください、ちゃんと座り直してくれれば離しますよ」


 単純に男慣れしていないから、だけじゃ片付けられない反応だ。

 それを近くで見ている千代はどう感じているんだろうか。楓は?


「……あ、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそすみませんでした」


 耳を赤くし彼女は顔を俯かせる。

 楓はそれを一切気にせずこちらへやって来てソファに座った。


「あんた敬語をやめなさいよ、どうして優香さんにだけはそうなの?」

「そんなこと言ったら渡辺さんだって、どうして芹沢さんにだけさん付けなの?」


 考えたこともなかった。

 同じ教室で学んでいるというのにどうしてだろうか。

 本能が負けていると理解しているからだろうか。


「そうよ、昔は優香姉って呼んでいたじゃない」

「べつに特にこだわりはないけど……」


 ゆーちゃん、ちーちゃん、しーくん、かーくんって呼んでた。

 理由は響きが可愛いからなんてものだった。

 でも自分や3人が成長していき、呼び方も自然と変わっていった。

 優香さん、千代、白兄及び先輩、楓といった感じに。

 べつに恥ずかしいわけじゃないし、絶対にそうじゃなければならないということではない。いまからで呼ぼうと思えば昔みたいにだって戻せるわけで。


「ちーちゃんって呼んでほしいの?」

「ふふ、いいじゃない、昔に戻ったみたいで」

「学校以外ではちーちゃんって呼んであげるよ」


 昔はどこでもみんなのことを呼びまくっていたわけだけど、なにが私の中で変わってしまったのかがわかっていない。白兄に恋したというのも大きいのかもしれないけど……。


「……はよー、お、みんな揃ってるんだな」


 白兄が訪れて心臓の動きが早くなる。

 どうして私は白兄のことを好きになったんだろうか。

 見た目がいいからとか、側にいたら落ち着くとか、優しいとか、言ってくれた言葉が暖かったとか、小さなことを挙げればいくらでもある。でも、それなら楓も同じだ。だからもっと大きななにかがあってくれないと、それを思い出せないと困ってしまう。

 3人は先に挨拶をした。私はなぜだか言えなかった。


「莉子よ……無視か?」

「あっ、ごめん! ……おはよ」

「朝から元気ないな、心も体も俺のじゃなかったのか?」

「ちょっ! こ、これは違うから優香さん!」

「ふふ、大丈夫ですよ」


 秘色色の瞳から冷たさは伝わってこなかった。

 笑顔だけど目が笑っていないなんてこともない。

 優香姉はそこまで演技が上手いわけじゃないからわかる。


「せっかくのGWなんだからみんなでどこかに行こうぜ」

「いいわね、あまりこのメンバーで出かけるってできなかったわけだし」

「だろ? 莉子も優香も楓も行くよな?」


 そんなの答えは決まっている。


「私も行――」

「僕はいいかな、みんなで行ってきなよ」


 空気の読めない人によって邪魔をされてしまったのだった。




「は? なにかあるのか?」

「いや、特にないけどさ」


 課題とか掃除とかを挙げればあるが僕はないと答えた。


「白先輩、私は行くよ」

「おう。優香は?」

「……楓くんが残るなら残ろうかと……お掃除もしたいですし」

「おいおい……掃除とかは後でもできるだろ?」

「いいじゃない、乗り気じゃない人間を連れて行っても後で問題になるだけよ」

「そっかねえ……まあいいか。じゃあ行こうぜ、もう昼だからさ」


 3人が出ていき家にはふたりきりになる。

 僕としては怪しさ全開の行動にしか思えなかったが、彼女にとっては違うのだろうか。


「あの、どうして残ったんですか?」


 彼女さんを放って出かける兄も兄だ。


「お金がないんです、お出かけしても虚しくなるだけじゃないですか」

「彼女の特権で白兄に奢ってもらえば良かったんじゃないですか? というか、普段料理とか作ってもらっている分、お金渡しますよ?」

「できませんし、もらえませんよ」


 謙虚なのかそうじゃないのかわからない女の人だ。

 どうして長年一緒にいるのにわからなことだらけなんだろうと考えて、僕がおまけだおまけだと考え踏み込んでこなかった弊害だと理解した。

 間違いなく家の人となにかがあったという形になるが、聞くべきなのかどうか、兄はきちんと全部聞いたのかどうか、なにもかもわからなくて黙ることしかできなくて。


「……楓くんこそ、どうして残ったんですか?」

「理由は特にないですよ」

「……おまけ、だからですか?」


 単純に水を差したくなかっただけだ。

 もっとも、白兄はフォロー力が高いので変なことはならかっただろうが。

 でもいま気になっているのは、僕らの関係が訝しまれていないかということ。

 こっちにその気はないのに、芹沢さんのせいで疑われたら困るぞ。


「次からはやめてくださいね芹沢さん。こういうことを連続されると、白兄と喧嘩になるかもしれないので」

「白くんを疑うのは本末転倒じゃないですか?」

「……それなら、単純に僕が困るのでやめてください」

「はぁ……」


 おぅ……綺麗な人にあからさまな溜め息をつかれると気になるな。

 秘色色の瞳からは、やはりというか冷たさを感じる。

 顔、雰囲気で「どうしてお前はそうなんだ」と言われている気分だ。


「あなたは白くんとは違うんですね。自信がないんですね」

「実の兄なんですけどね、どうしてここまで違うのかわからないですね」

「白くんのほうがモテる理由、わかる気がしました」


 15年間非モテだった僕をナメんな。

 それにコミュ力がないしモテない方が気が楽と言える。

 ……単純にモテないだけだろと言われたらそれまでだが。


「気をつけてくださいね、そのままだとみんないなくなりますよ。莉子ちゃんも千代ちゃんも白くんも」


 ちゃんからさんに変えたり戻したり、忙しい人だ。


「芹沢さんは?」

「私も、同じです」

「そうですか、ならいいんじゃないですか? 渡辺さんか比嘉さんの家にみんなで集まって暮らしたらどうですか? 僕はひとりでも十分ですからね」

「あなたはっ! ……出てきますね」


 GWに訪れた者とは、


「こ、こんにちは」

「あ、こんにちは」


 未だ名前すら知らない女の子だった。

すーぐ喧嘩させるんだから……。

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