04.『非モテを貫く』
読む自己で。
体育の時間になった。
この2時間を自由に過ごすだけで放課後になるのだから楽な話だ。
「楓っ、一緒にバスケやろうぜ! こんな機会は全然ないからな!」
「あ、ごめん、ちょっと見ておきたくて」
「ん? お、誰か気になる女子でもいるのかっ?」
「まあある意味そう、かな」
「残念だが恋路を邪魔するわけにもいかないからな、分かったよ」
そういうわけではないんだけどなあ。
とりあえず芹沢さんと白兄が別れることだけはわかった。
彼女はバレーをするみたいで、お仲間さんと談笑をしている。
そこにちゃっかりと渡辺さんも加わっているのが面白い話だが……。
「なに女の子をガン見しているのよ」
「人聞き悪いな比嘉さんは……」
僕が少し遠慮してしまうのはみんなが年上だからというのも大きい。
「バレーやんないの? 芹沢さんと渡辺はやるようだけど」
メンバーが集まってからは早かった。
既にゲームはどちらとも開始され、楽しそうにやっている。
「あなたこそどうしたのよ、せっかく白さんが誘ってくれたのに」
「あぁ……ちょっとね」
「視姦していたのね、あなたの脳内で莉子と優香が犯されていたのよね……」
「ちょっ! ……君も含まれているから安心してよ」
「ふぅん、変態なのね」
ちょっ!? ……そうやって冷たい顔をされるとゾクゾクするからやめてほしい。
……という冗談はともかくとして、ふたりで芹沢さんと渡辺さんを眺める。
どうやら同じチームのようだが……お、知らない女の人がレシーブ、渡辺さんがトスして、芹沢さんがアタック――決まった!
「ナイスー!」
「恥ずかしいから向こうで応援してちょうだい……」
って、みんなに見られてるし、しかも本人に見られたし、恥ずかしいし。
白兄の様子を見ると白兄はなぜだか立ち止まってこちらを見ていた。
怒られると思って咄嗟に目を逸らした僕。が、
「楓、ちょっといいか?」
白兄に来られてしまいあたふたと困惑。
助けを求めようとしたときには、比嘉さんは既に向こうの方へ移動していた。
「う、うん、どうしたの?」
「いま誰を応援していたんだ?」
「……せ、芹沢さんたちです……」
別に応援している者くらい他にもいるだろうから普通なのに、どうしてここまで緊張する。
「優香のことが好きなのか?」
「そ、そうではなく……」
「つかなんで敬語なんだよ、俺らは実の兄弟だろ?」
「お、応援していたからシメられるのかと」
「ははは! 応援くらいしたっていいだろ! 怒るわけないだろ?」
あ、駄目だなこれは、渡辺さんは残念だ。
「優香はスペック高いからな、莉子も……いい感じだよな」
「渡辺さんは……うんまあって感じかな」
「どうして名字で呼ぶんだよ、名前で呼べばいいだろ?」
「うーん、だって僕と彼女たちは別に仲良くないからね」
僕はいつだって白兄のおまけでしかなかった。
それでもなんとか関われているのはみんなが優しいからだ。
……渡辺さんも一応要所では優しいので、嘘は言っていない。
「本当にそうか? 楓の思い込みじゃないのか?」
「うん、そうだよ」
だって比嘉さんはともかく、芹沢さんと渡辺さんは白兄を好いているじゃないか。
というか、ずっと絡んできた友達が女の子ばかりって凄い話だ。
「白ー、弟といちゃいちゃしてないで早く戻ってこーい!」
「おうよー! ま、今日の夜に話そうぜ、後でな!」
大事な話は家でする、ということか。
「楓くんはやらないんですか?」
「うわっ!?」
「むっ……ど、どうして私が来るといつもそんな反応をするんですか!」
「いや……あれ、バレーをやっていたような……」
「白くんとお話ししているのを見てやめてきました」
そのせいで僕が冷たい目で見られているんですが……。
向こうの女の子たちからも、バスケをやってい男子たちからも総じてそうだ。
自意識過剰なんかんじゃない、綺麗な人といるのはそれだけ圧がかかるということ。
「なんのお話しをしていたんですか?」
「ああ、どうして僕が名前で呼ばないのかってことですね」
「そうですよ、どうして名前で呼んでくれないんですか?」
「白兄にも言いましたけど、あくまで僕は白兄のおまけですからね」
それにみんなは僕よりひとつ年上だ。
流石にもっと親密になってからではないと、僕にはできない。
「……それよりさっきの嬉しかったですよ」
「あれ、わかっちゃいました?」
「……決めたタイミングで言われたら誰だって気づきます」
そりゃそうだと内心で呟く。
「それとも、莉子さんを褒めたんですか?」
「あのときの渡辺さんも上手かったですけど、アタックを決めた芹沢さんを褒めたつもりだったんですけどね」
「そんな真顔で言われたら照れちゃいます……」
僕も照れちゃうから照れるのはやめてほしい。
ふたりきりならともかくとして、ここには白兄や他の生徒だっているんだから。
「白、弟が女子といちゃいちゃしてんぞー」
「気にすんなよ、楓は優香の魅力に負けたりしないから」
そうでもない、照れたり喜ばれたりすると可愛いと感じてしまう。
綺麗でときに可愛くて、優しくて料理もできてなんて、他の女の子からしたらたまったものではないだろうなと勝手に考えた。
「負けない……ですか?」
「ま、白兄の彼女さんでいる内は負けませんよ」
「……それだとずっと負けてくれないですね、楓くんは」
彼女のためにも、白兄のためにも負けるわけにはいかない。
でも渡辺さんのことを考えたら……悪いことでもない気がするが。
「優香さん、ちょっとチェリーボーイを借りてもいい?」
「……莉子さん、そういうことを言ってはだめですよ! ……寧ろ守ってくれてていい子だと思いますけど」
「くぅ! 優香さんみたいにいい人ならなあ……」
僕は芹沢さんから凄いことを言われて固まっていた。
それをこれ幸いとばかりに勝手に渡辺さんが移送。
「ちょ、なんでこんな暗い場所で?」
選ばれたのはステージ裏だった。
一応渡辺さんも女の子なわけだし、こういうところに連れ込まれると意識してしまう。非モテの弊害としか言いようがないことだ。
「いいじゃんそんなの。それより良かったね、童貞のほうがいい子だってさ」
「……で、どうしたの?」
「白先輩と優香さんはやっぱり付き合ってるの?」
「うん、そうだと思うよ」
それにずっと無理だと言ってのけたのは彼女だ。逆に僕はそれでスッキリした。
どれだけそれらしい反応を見せてくれても、いつだってその心は白兄の方に向いているのだと分かったからだ。
「……うぅ、どうにかしてよ楓」
「どうにかしてって言われても……」
「楓が優香さんを奪ってくれたらいいんだよ」
「無茶言わないでよ、僕にできるわけないじゃん。非モテだ童貞野郎だって笑ってくれてるのは渡辺さんでしょ?」
兄の彼女を狙うなんて最悪な弟だろう。
何度も言うが兄と衝突するくらいなら現状維持を選ぶ。渡辺さんが幸せになれなくても最悪僕にとっては関係ないのだから。
だって兄が取られてからどうして後悔する? 動ける時間は沢山あった。一緒に行動していたときも沢山あった。でも、彼女は積極的に動くことができず、芹沢さんに白兄を取られてしまっただけだ。
「渡辺さん、悪いけどそれはできないよ。白兄と芹沢さんを悲しませたくないし、なにより僕なんかが意識すらしてもらえるわけがないからね」
「……とにかく、優香さんといてみて」
「うん、それはまあ普通に接するって決めたしね」
なんか今日の渡辺さんは柔らかい態度だな。
いつもなら「文句あるの?」とか言って僕を殴っているくらいなのに。
僕が告げ口をするとでも思っているのかな。
「渡辺さん」
「ん?」
「別に殴ってほしいわけじゃないけどさ、いつもどおりでいいんだよ?」
「……もう遅いけどさ、暴力とか良くないでしょ?」
「うぅ……僕、感動――いった!?」
でも、背中なだけ優しい気がする。
だからいつものお返しに、
「なっ!? な、なんで頭を撫でてるのよ!」
「いい子ー」
頭を撫でて、なんだかんだ言っても来てくれてありがとうと伝えておく。
「調子に乗るなあ!」
「ぐぇっ……ぐ、ぐびがじまっでる……」
「ざまあみろ! 私の心も体も、いつだって白兄のなんだから!」
どうしてそれくらいの勢いが過去に出なかったんだか……。
だって付き合い出したのは僕が高校に入学してからだ。
過去を合わせれば10年間は猶予があったのに渡辺さんときたら……。
「ん、莉子の心も体も俺のなのか?」
「「ぎゃあああ!?」」
「おいおい……失礼な反応だな」
「い、いきなり来ちゃ駄目でしょうよ白兄」
「お前らがこそこそしているからだろ? 体育の時間なのにキスでもしだすかと思ったぞ」
また白兄はこういうことを言う……あんたを好きなんだよ渡辺さんはよお!
「はぁ……そんなことするわけないじゃんか」
「だよな! 楓は奥手だからな! ……ん? どうした莉子」
「あ、いや……なんでもないよ」
「そうか? それより早く戻ってこい」
白兄が戻り僕も戻ろうとしたら渡辺さんに腕を掴まれた。
「うん?」
「……優香さんに負けたくないよ」
「渡辺さん……」
だけどあれだぞ、あのふたりは相思相愛すぎるし、なにより差がありすぎる。
ここで無責任に「大丈夫だよ」なんて言えるわけがない。恐らく、僕からのそんな言葉は期待していないだろう。だからかわりに手を握っておいた。
「……楓?」
「ちょっとでも力になればなって。だけどあれだよ? やっぱり芹沢さんは強敵だからね、大丈夫なんて言えないからさ」
「……うん、ありがと」
「今日の渡辺さんはらしくないなー」
「うるさい……」
でも泣いていたりはしない。
あの頃のりっちゃんのままではないようだ。
そこで会話を終わらせてふたりで戻った。
バスケに参加させてもらったりして体育の時間を楽しんで。
終わったらみんなで帰って、なぜだか渡辺さんも比嘉さんも家にまで来て。
みんなでワイワイ朝まで盛り上がって。
「……眠いですね」
「そうだね……私は楓の部屋を借りて寝てくるね」
「それなら私も楓の部屋で寝るわ」
「え、ちょ、僕の寝る場所は?」
「「GWなんだからリビングで大丈夫よ」」
「はーい……」
意外と早寝タイプの白兄は夜中に寝てしまっているのでリビングには僕と芹沢さんのふたりになる。
「寝てきたらどうですか?」
「……楓くんが風邪を引いたら嫌です」
「僕は芹沢さんが寝不足になる方が嫌ですけど」
「……それなら私が風邪にならないように、あなたの部屋で寝ませんか?」
「え、でもあのふたりが……」
すっっごいこと言うなあ彼女って。
あのふたりがいなかったらふたりきりってことだぞ。
それはもう完全完璧に良くない行為だと言える。
別に兄の恋人だからとかではなく、普通の男女として当てはまることだ。
「床に私とあなたで転ぶことになってしまいますけど」
「それはできません、すみません」
「……寝てきますね、風邪を引かないように暖かくして寝てください」
「はい、ありがとうございます」
こういう誘惑と戦わなければならないのか。
問題なのはまだ1週間も経っていないということだろう。
「頑張ろ」
非モテを貫いてきたんだ、いまからだって同じようにできるさ。




