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03.『冷たい秘色色』

読む自己で。

「高橋先生っ、僕はあなたに言いたいことが――」

「はいちょっとどいてね1年生の男の子」

「そうだよ、どいてよ」

「高橋先生はあんたと関わっている暇はないのよ」


 翌日のお昼休みに職員室に突入した結果がこれだ。

 女の子の前では強く出れず、しくしくと職員室から退散。

 たった20秒も居ずに退散とは実にださい話である。

 しょうがないので芹沢さんが作ってくれたお弁当を持ち屋上へ向かった。


「お~、いい天気!」


 しかも他の生徒は誰もいない、僕だけのそんな場所。

 敢えて中央に座りこんでお弁当箱を展開させる。


「お、男の子用ってことなのかな?」


 卵焼き以外は全部茶色系だった。でもありがたい。


「いただきます」


 まずは卵焼きを食べてみると美味しく時間が経っているのにふわふわしていて実力の高さが伺えた。

 昨日スーパーに行った際に冷凍食品を沢山買ってきたのでほとんどはそれに該当するが、それでも女の人が作ってくれたお弁当というだけでテンションが上がるというものだ。


「んー……いいなあ……あんな人が彼女だったら」


 目の保養になるしお弁当を作ってくれるし謙虚だし、魅力的でしかない。


「ふぅん、あんたって優香さんみたいな人がタイプなんだ」

「……き、聞いてた?」

「そりゃあんたしかいないしね~、聞こえるでしょ~」


 恥ずかしい……。

 それに別に彼女みたいな人が好きというわけではなく、ああいう人間性の人とお近づきになりたいと考えているだけだ。そもそもの話、彼女は白兄の彼女なんだから考えても無駄だろう。


「渡辺さんはやっぱり白兄が好きなの?」

「そうだね、白兄に好きな人ができて彼女ができたとしても諦められないよ」

「あ、先輩と兄の違いはなんなの?」

「うーん、ずっと一緒にいてきたでしょ? だからそういうのもあってさあ……でも、兄って言ってたら恋ができないみたいでしょ?」


 そこまで一途になれるって凄いな。僕だったら簡単に諦めて、だけど他の子に意識を変えることもできずにウダウダしていると思う。


「ごめん渡辺さん、正直芹沢さんがお似合いだと思う」

「……嫌だもん」

「だもんって……」


 ワガママ言ってれば叶うというわけではない。それに諦めないということは同時に白兄がうまくいかなくなることを願うってことだ。好きな人の不幸を願うなんて本末転倒と言えるのではないだろうか。


「間違いなく私のほうが先に好きだったもん……」

「だけど先とか後とか関係ないでしょ?」

「なによ、あんた優香さんの肩を持つってこと?」

「じゃなくて、別れることを願っているのと一緒なんだよ? それって逆効果なんじゃないのかな」

「……手伝いなさい! あのふたりが付き合ってないか確認するのを」


 えぇ……付き合ってるって! そうでもなければ家に泊まりになんてこない。

 しかも1ヶ月間だぞ? このままの勢いだと1年とかに変化しそうなくらいなのに。


「……手伝うってどうやって?」

「あんたは普通に接してくれればいいの、わかった!?」

「え? うん、それくらいなら」


 昨日、変に距離を作って疑われているし僕としてもそれが最善だと思う。

 ただまあ気をつけなければならないのは、まかり間違っても踏み込みすぎないようにしなければ。

 僕は普通にあのふたりが付き合っていると思ってるし、下手をすると白兄と衝突の原因になりかねない。

 白兄と喧嘩をするくらいなら渡辺さんと喧嘩していた方がマシだ。


「戻る、よろしくね新谷」

「うん」


 僕も戻ろう。

 これからはあくまで自然にやっていくんだ。




「あのぉ……」


 昇降口で靴に履き替えようとしたときのこと、昨日の女の子に話しかけられて手を止めた。

 その子はこちらが威圧しているといわけでもないのにオロオロしていて、まるでこちらが虐めているような気持ちになってしまう。


「……昨日、助けてくれた人ですよね?」

「助けたって大袈裟だよ、それに君は困っていたようだから」

「ありがとうございました」

「あ、どういたしまして」


 真っ直ぐお礼を言われると照れる。自分の人生でそう何回もあることではないからだ。


「え、まだなにかある?」

「……ふぁ、ファミレスに――」

「楓くんっ、こんにちは!」

「あ、芹沢さん、こんにちは」


 なぜだか今日はハイテンション、普段落ち着いているため少しだけ意外だった。


「あ。ごめんなさい! お話しの途中でしたよね?」

「え、い、いや、し、失礼します!」


 ファミレスにって言ってたけど一緒に行きたかったのかもしれない。

 別にお礼とかそういうのはいいんだけどな。驚かしてしまったし、不可抗力とはいえ太ももも見てしまったわけだし……。


「白兄はどうしたんですか? 今日は部活動、休みだと思いますけど」

「階段を下りていたら楓くんを見つけまして、はい」

「あ、そうですか、ありがとうございます?」


 そこから白兄を待たずに帰ることとなった。

 これはれっきとしたいけないことではないだろうか。それとも帰るくらいなら該当しないのだろうか。


「お醤油ってまだありましたっけ?」

「あー……確かもう少しで終わるところだったと思いますけど」

「買って行きますか?」

「そうですね、どうせなら」


 まだ学校を出たばかりだし2度手間にはならないわけだ。

 というわけでスーパーにやって来た僕たちは調味料コーナーに直行した。

 いつも愛用しているメーカーの醤油を手にとって、なんともなしにスイーツコーナーに行ったのが悪かった。


「……いいですよね、甘いのって」


 どうやら芹沢さんの甘いもの欲を刺激してしまったらしい。


「欲しいんですか?」

「い、いえっ! ……もうお小遣いがないので……」

「別にいいですよ? ごはんとか作ってもらっていますしある程度は」

「……そ、それなら3人分きちんと買っていきましょうか!」


 散々悩んだ結果、100円のシュークリームとなった。

 

「えへへ、甘いのって美味しいですよねっ」

「あ……」

「ど、どうしました? お顔が赤いですよ?」

「……ちょっと暑くなっただけです、袋貸してください」

「ありがとうございます」


 ……その笑顔は反則だろう。

 普段は綺麗な人なんだ。だけどいまの彼女は無邪気で可愛かった。

 まあでも、もしなにかがあったら渡辺さんの家にでも逃げ込めばいい。

 というか渡辺さんにも住んでもらえばいいのでは? そうすれば白兄とも近づけるんだし。


「楓くん……?」

「芹沢さん、渡辺さんも家に住んだら楽しそうですよね」

「嫌です」

「え?」


 まさか即答されると思っていなかったから驚いた。

 僕を見つめる彼女の顔は、彼女にしては冷たい顔。秘色ひそく色の瞳も同じようにに冷たい。


「あ! ……これ以上増えたら大変ですよ」

「まあ……そうですね」


 渡辺さんも口撃とか仕掛けかねないからなあ、それかもしくは僕が口撃、攻撃されると。


「か、帰りましょう」

「はい、帰りましょうか」


 1ヶ月も泊まる理由ってなんだろう。

 白兄の彼女だからという理由だけではないような気がするが。




 その日の夜。

 ごはんも食べ終え、入浴も済ました後の部屋で僕は今日あったことを渡辺さんに伝えていた。


「――ということがあったよ」

「あんたは余計なことを言わなくていい、普通に接してって言ったでしょ」

「ごめん」

「でも、どうして私が住むのが嫌なのか……」

「単純に渡辺さんが近づくのを恐れているんじゃない?」


 渡辺さんが取られて悔しいむきぃ! となっているように、芹沢さんもまた取られたくないむきぃ! となっているんだと思う。


「……なるほどね、ま、これからもよろしくね」

「うん、じゃあね」


 報告も終えたことで今日のミッションは終了。

 明後日からGWだ。あのふたりはどうやって過ごすんだろう。


「楓くん」

「はい、どうしました?」

「少しいいですか?」

「どうぞ」


 よく来るから白兄はどうしたのか聞いたら、もう寝ているということだった。

 僕と違って連日部活だからなあと納得しかけたが今日は休みの日、帰ってくるのも遅かったけどなにかしてきたのだろうか。


「いま誰とお電話をしていたんですか?」

「あ、うるさかったですか? すみません」

「……そんな大きな声ではなかったですけど白くんが寝ているので」

「はい、これから電話をするときは1階に行くので」


 渡辺さんと話していたことは絶対に言えない。

 やましいことをしているわけではないが、聞いたらいい気分にはならないだろう。これは彼女のためでもあるのだ。


「お、女の子、ですか?」

「え? いえ、男友達ですよ、明日体育あるよな~って」

「……合同ですよね、私たちと」


 そういえばそうだったか。

 特になにが決まっているわけではなく自由な2時間。

 芹沢さんが普段どうやって過ごしているのかをチェックするいい機会だ。

 白兄がいないのといるのとではどう違うのか、それを渡辺さんと見てやるぜ。

 ちなみに、白兄、芹沢さん、渡辺さん、比嘉さんは同じクラスである。……遅いな。


「どうですか? お友達はできましたか?」

「んー……比嘉さんくらいですかね」

「千代さんですよね」

「ですね」


 僕が関わっているメンバー全員、昔から一緒に過ごしてきた仲間だ。

 だからこそ渡辺さんは白兄に恋し、一緒にいた芹沢さんに敗北し。

 こんな僕のところにも友達として比嘉さんがいてくれている。

 僕ば名字呼びをこだわっている理由は単純に仲が良くないからだ。白兄対と比べて、ではあるが。


「あ、先程の女の子は……」

「あ、お買い物に行った日、学校に寄ったじゃないですか。あのときに知り合ったんです」


 まだ友達とは言えないだろう。

 元来の性質か、それとも僕が苦手なのか、自分の前ではビクビクしているし。


「知り合った……ですか」

「はい、急に近づかれたときは驚きましたけどね」


 机の向こう側から覗かれていたら誰だって驚く。

 僕は暗闇とかホラーとかが得意ではないので、高橋先生が来たときに尻もちをついたんだ。

 女の子からすれば情けないことこの上ないだろう。


「近づかれた? 触れたということですか?」

「いえ、気づいたら机の向こう側にいたんです」

「わかりました、答えてくれてありがとうございました」

「は、はい」


 あの子といいこの芹沢さんといい、どうしてよくわからないことでお礼を言ってくるんだろうか。


「芹沢さんはどうですか? 白兄とうまくいっていますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「え、あのうまくいっているかどうかは……」

「白くんは優しい方ですからね、白くんの優しさあっての関係ですから」

「僕は芹沢さんの魅力というのも大きいと思いますけど」

「ふふ、ありがとうございます」


 これにお礼を言われると恥ずかしいからやめてほしかった。

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