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01.『男ということ』

読む自己で。

昔の5時投稿に戻してみる。

1日1話。

「――ということだから、お兄ちゃんとふたりきりで頑張ってね」


 母はそう言って家を出ていった。

 父は僕らを見てひとつ頷くだけだった。

 とはいえ、別に捨てられたわけじゃあない。

 転勤するということで父に母が付いていくだけだ。

 見送りから戻ってきてリビングのソファに寝転ぶ。


かえで、母さん達は行ったのか?」

「うん、頑張ってねだって」

「そうか……まあ男ふたりでゆっくりやるかあ」

「でもしろ兄は部活とか彼女いるし遅くまで帰ってこないじゃんか」


 自分のお腹の上に座った兄にぶつける。

 家にいるようでいないので、実質的に僕ひとりの生活の始まりと言っても過言ではない。


「はっはっは! ま、帰りが遅くなるようだったら連絡するし、飯だって先に食べてていいからな。というわけで行ってくるわ!」

「うん、いってらー」


 土曜日の朝からデートとか贅沢な過ごし方である。

 僕はと言うと友達はいても彼女とかはいないので、こうしてダラダラ過ごすしかない。

 とかなんとか考えたらインターホンが鳴った。

 玄関に行き扉を開けると、


「やっほー」


 ショートカットヘアー少女が立っていた。

 中に入ってもらって飲み物の準備をし彼女に手渡す。


「ありがと」

「うん。それより、今日はどうして来たの?」


 その子はお茶を飲んで「つめたっ!」と驚きつつもいい笑顔を振りまいてくれている。


「白兄に会いに来たんだ」

「あ、いまは彼女さんとデート中だからいないよ?」

「ええぇ!? ……き、来て損した……」


 散々な反応だが仮に白兄がいても意味はないと思う。

 だって白兄は彼女さんとラブラブすぎるからだ。

 仮にこの子が頑張っても、いい笑顔を振りまいても意味はない。


「そういえばさ、白兄とふたりきりの生活なんでしょ? いいな~」

「いいな~って言うけどさ、僕は同性だからね?」

「は? そんなことどうでもいいんですけど。私が言いたいのはあの人とふたりきりでいいなってことなんですけど」


 確かに白兄はいい人だけど自分としては両親もいてほしかった。

 なにもしなくても美味しいごはんが出てきて、掃除や家事をやってくれるなんて最高だろう。

 今度からそれを自分がやらなければならない。

 僕と違って兄は忙しいし、何度も言うが家を空けがちだからだ。


「用がないなら帰ったらどうかな、渡辺莉子わたなべりこさん」

「は? 私にもいる権利があるんですけど。デートから帰ってくるまでいるに決まってるじゃん」

「何時になるのか分からないよ? 渡辺さんがその前に寝ちゃうよ」


「馬鹿にしないでくれる」と叫び手を弱い力で叩いてくる彼女。

 ずっと好きだったのは知ってるけど、この子は臆してなにもできなかったからな。

 だからいまのこの状況が自然とも言えるので、可哀相だとは思えなかった。


新谷にったにこそ誰か好きな子とかいないの?」

「いないね」

「もしかしてホモとか? あ! 白兄はあげないから!」

「違うって、そもそも彼女がいるじゃんか」


 好きになった子なんて昔から沢山いた。

 けど、僕が動こうとする前に他の男子に取られて、取られ続けて。

 だから僕の周りには男友達とただの女友達しかいない。

 こんなんでも彼女は白兄と同じ先輩なので、それを友達とは言えないだろう。


「あんたって女の子の友達すらいなさそう」

「いるよ、ひとりだけど」

「私?」

「いや? そもそも渡辺さんは友達じゃないでしょ」

「はぁ!? あんたって恩知らずだよね……」


 まあなんだかんだお世話になったのは確かか。

 お礼を言ったら「微塵も嬉しくない」とか可愛げないことを言われてしまったが、この人は素直じゃない人でもあるので嫌な気はしなかった。


「あ~白兄の彼女になりたいよ~!」

「だったらアピールしていくしかないんじゃない?」

「できるわけないじゃんばか! そんなことをしたら……性悪女とか言われて嫌われちゃうよ……」

「そうかな? 僕はそう思わないけど」


 もっとも、自分の場合は相手が誰かの恋人になった瞬間に興味を失くしている。そのため、あまり強くは言えなかったが。


「それに痴情のもつれで殺人事件とか起きてるじゃん!」」

「言っておくけど白兄の彼女さんはめちゃくちゃ優しいからね?」

「知ってるし! 優香ゆうかさんが優しいことくらい!」


 髪も綺麗で、雰囲気も柔らかくて、ついでに体も柔らかそうで。

 正に女の子のこうなりたい! という理想の存在だと思う。

 たまにしか連れてこないから接点は全然ないけれど、その少しの間でも分かるくらい強烈だ。


「髪色が黒くないからかな~……私のはちょっと茶色いし……大和撫子じゃない」

「髪色じゃなくて単純に魅力――」


 顔面を殴られうずくまる。


「あんた、そんなことわかってるのよ」

「……痛いなあ。そういうところだよ、負けているのは」

「ふんっ! 普通、魅力で負けてるとか言わないことなのよ!」


 いやでも真面目に本当に全てがと言っていいほど負けていると思う。

 そこが、彼女が争いに勝てなかった理由だ。

 おまけにあんなやわやわな感じでも積極的だったと言うし、ほぼ不戦敗と言ってもいいくらいだ。


「でも私はモテるし非モテ童貞よりましね」

「って、渡辺さんも処女でしょ?」

「いや?」

「えぇ、白兄の彼女になりたいとか言っておきながら他の男子とやるとか最悪じゃん」

「高校生にもなって処女のほうが恥ずかしいわよ」


 下らねー……周りを気にして大切なものを好きでもない人間にあげるなんて。

 やっぱりそういう点で負けてるんだ。自分を貫くことができていない。


「べつに後から恋愛すれば非処女と当たるなんて普通でしょ」

「そうかな? 守る人はちゃんと守ると思うけどね。適当な相手とするのではなく、本当の意味で好きになった人とさ。そういう周りに合わせて適当に捨てるとかって1番悪手じゃん」

「は? あんた私に説教するつもり?」

「そうじゃないけど――痛いって!」

「あんたはただ静かに大人しく謙虚に白先輩の弟でいればいいの、わかった?」

「……分かった」


 白兄はああ見えてガードが固いし駄目だねこんなんじゃ、僕は内心で笑った。

 こういうことを常日頃から他人にやっている人間の雰囲気には気づくだろう。だからそれも選ばれなかった理由だ。挙げれば切りはないが、駄目な理由のひとつとなっている。


「はぁ、あんたといると面白くないから帰るね」

「うん、じゃあね」


 面白くないはこちらのセリフだ。

 毎回白兄と彼女になれないという理由で殴られたりする。

 こちらが相手の意を汲んで話しているというのにだ。


「芹沢さんがいなければ渡辺さんが暴走することもなかったんだけど」


 ま、仮に芹沢優香さんがいなくても彼女が選ばれることはなかっただろうが。

 兎にも角にも平穏な時間をダラダラと過ごしていたら夜になった。

 白兄は帰ってこないが、メッセージが送られてきた。


「え、今日から芹沢さんを泊める? 1ヶ月?」


 両親が出ていった瞬間にこれかと呆れた。

 兄も所詮は男だったということか。

 それじゃあ隣の部屋でイチャイチャされて? 場合によっては性行為まで?

 ……やってられない……まあ最悪1階で寝ればいいだろう。


「ただいまー!」

「お邪魔します」


 こういう鉢合わせが1番嫌なんだよなあ……。


「こんばんは、楓くん」

「……こんばんは」

「どうしたましたか?」

「あの、泊まるって本当ですか?」

「あ……はい、白くんが大丈夫だと言ってくれまして」

「……ま、ゆっくりしていってくださいね。自分は部屋に戻るので」


 兄を見たらにかっと笑い「これから飯は優香が作ってくれるぞ!」なんて頼る気まんまんの態度。

 恋人になれたばかりで嬉しいのかもしれないが、それにしては羽目に外しすぎだ。

 ……僕は芹沢さんに謝罪をしてからリビングから去ったのだった。

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