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魔法使いの懐中時計  作者: 暁月 オズ
第一章.ジーフの街で
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8.宿屋にて

 二人が宿屋に着くまでそれほど時間は掛からなかった。というのも、宿屋であれば何処でも良いという訳ではなく、取り敢えず一晩過ごすことの出来ること以外にも、現在は一目の余りつきにくい場所という条件が必要不可欠だ。しかしながら、今自分達の居る場所から移動するには相応のリスクが伴う。そのため、ソール達は自然と身を潜めていた場所から近いところにある宿屋を選ぶのが最善だと思ったからだった。


「いらっしゃい」


 宿屋の主人が迎えてくれた。


「おや、こんな時間に子どものお客とは珍しいね」


 宿屋の主人は、20代ほどのまだ若い女将だった。赤色の髪を撫でながら宿の受付に座っていた。子どもだけで、その上訪れた時間もあり、女将は少し二人を訝しんでいる様子だった。


「こんばんは、二人、泊めてもらいたいんですけど……」


 相手の反応もあり、ルナは不安そうに尋ねた。


「……だめ、ですか?」


 続けてルナが尋ねる。


「だめってこたぁないよ。ウチは来るもの拒まずのスタンスだからね。二人ね。じゃあこの宿帳に名前を書いて」


「……!はい、ありがとうございます!」


「……ありがとうございます」


 女将の言葉に安心したのか、笑顔でルナはお礼を言った。一方、ソールは何処か浮かない顔をしていた。




 無事に泊まる場所が決まった二人は、一つの部屋に案内された。


「じゃあこれ、はい。この部屋の鍵ね」


 そう言って女将は一つの鍵をソールに手渡した。見ると、部屋のドアには錠前が付けられていた。部屋の出入りごとに内外に付け替える、珍しい形の鍵だった。


「ありがとうございます」


「何かあったら呼んでね。あ、ちなみに私の名前はアンナね」


「分かりました、アンナさん」


「……入り用ならちゃんと言ってね」


「え?」


「いや、何か抱えてそうだったからつい、ね」


「……大丈夫です。何も無いですよ」


「そう?だったら良いんだけど……」


「お気遣い、ありがとうございます」


「じゃあ、ごゆっくりね」


 そう言うと、アンナは部屋の前から離れて行った。




 部屋に入ると、そこはベッドと机が一つずつあり、壁掛け時計が設置されている、何ともシンプルな造りの部屋だった。


「……ねぇソール。さっきのアンナさんとの話」


 部屋に入るとすぐ、ルナはソールに訊いた。


「あれで良かったの、かな」


「……巻き込んで迷惑なんて掛けられないよ」


「それはそうだけど……」


「……ごめん、ルナ。僕にもっと勇気と力があったら、こんなことには……」


「……もうっ!」


 落ち込み続けるソールに、ルナは勢いよく手を掴んだ。


「だから謝らないのっ。ソールだって、巻き込まれただけなんだから。こうやって逃げて来られたんだから一旦安心して。もっと自信を持って」


「……ごめん」


「ほらまた謝った」


「……ありがとう、ルナ」


 彼女の励ましに、ソールはお礼で返した。


「今日はもう、色々と疲れたよ」


「じゃあ、今日はもう寝よっか」


「うん、そうだね」


 ベッドのスペースを二人で分け合い、ソールとルナは眠りにつくのだった。




 二人が寝静まって暫く経った頃、その隣の部屋。


「ねぇ、さっきのはやり過ぎだったんじゃ……」


「仕方ないだろ、目的の為だ」


「でも……」


 一組の男女が、会話をしていた。


「それにしても、『人払いのルーン』を使っておいたはずだが、何故見つからないんだ?」


「……分からない。でも、そんなに遠くには行けないはず」


 男が苛苛としている中、女の方は淡々と話す。


「それより、ホントにあの子、なのかな……?」


「さぁな。ただ、奴の反応を見たろ。ありゃああの時計が『そう』なんだろうな」


「……」


「……まだ、躊躇いがあるのか?」


「ええ……覚悟して来たはずなのにね……」


 女は俯く。元々その髪は眼を隠していたが、男はその表情が曇っていることを理解していた。


「ふん、オレはやるぞ。もう覚悟は出来てんだ」


 男は部屋の窓越しに夜空を見ながら、まるで自分の意志を確認するかのように言ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 超文章が読みやすくて商業作家かと思いました。 [一言] 8話まで読ませていただきました。 わかりやすい文章で、ストレスなく読めるので、1話だけ読むつもりが8話まで読んでしまいました。ただ、…
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