77.マナの欠乏
「またアンタなの!?何の用なのよ?」
と、姿を見て早々に警戒態勢に入るルナを横目に、
「今は、それどころじゃない。早く、その子を診せて」
ウォルは至って冷静にソール達に向けて言った。
「……分かりました。どうぞ」
と、言われるがままにソールはコハルの容態を診てもらうことにした。
「……」
ウォルはコハルの額に掌を当てる。すると、その手が薄く緑色に輝きだした。
「ちょっと、何やってんのよ!?」
「静かにして!」
ルナの大声を遮り、ウォルは普段の静かな様子からは想像できない勢いを見せてルナを制止する。
「……」
続けてウォルはコハルに手を当て続けた。すると、青白かったコハルの顔色はすっと元の血色へと戻って行った。
「ウォルさん、これは一体……?」
様子を窺っていたソールが声を掛ける。
「……『マナ』の欠乏症よ」
「マ、ナ……?」
聞いたことのない言葉に、ソールは疑問を浮かべた。
「簡単に言えば、人間の生命力に由来する力の源ね。魔導士じゃない、普通の人間にも流れているものよ。『魔導』を扱う際には『マナ』を一定消費するけれど、魔導を酷使したり、不慣れな人間が魔導を使用したりすると、『マナ』が欠乏して、体調にも影響を及ぼすの。普通の人間で置き換えれば、貧血みたいなものかしら」
「そんなことが……」
ウォルの言葉を俄かには信じられずにいたルナだったが、それに対してソールには思い当たる節があった。
(そう言えば、微睡の森での夢やギルとの交戦の後、妙な疲労感があった……。あれは、『マナ』が消費されていたってことか)
そこまで納得したソールだったが、
(でも、僕は魔導の扱いには慣れていないはずだ。それなのに、僕はコハルちゃんのようにここまで酷い症状は見られなかった……。一体、何が違うんだろう?)
胸の中に、新たな疑問が浮かんでいた。そうしている内に、
「……一先ず、これで大丈夫。過剰消費されていた『マナ』は何とか取り入れたから。後は、目を覚ますのを待つだけ」
ウォルがコハルの症状を治した。
「……ヴァーノはさっき言わなかったけど、普通の人間は、本来なら『魔導』は使えないはずなの。でも、この子は使えている」
ウォルが内に秘めた疑問を発すると、
「それは、『呪い師』が来て魔導陣や魔導について幾つか教えてくれたって、コハルちゃんが言ってくれました」
それに対しソールが答えた。
「……そう。だからこの子、手に魔導陣を」
ウォルが少女の手を両手で取って言った。その仕草は優しさで包み込むような、祈りに満ちた行動だった。
「……この子、助けられるの?」
ウォルがソールの方に向いて訊いた。
「ヴァーノはあんな風に強く当たっていたけれど、本当は、この子に救われて欲しいって、思ってるはず。だから……」
じっと見つめられたソールは、考えるまでもなく、
「助けます。どんなことがあっても」
そう強く宣言したのだった。




