65.怪奇と葛藤
翌朝、ソールとルナは朝食を摂るために宿の食堂までやって来た。
「……ルナ、昨日は眠れた?」
昨日の騒動の際、ルナの姿が見えなかったことを思い出したソールは少女に尋ねた。
「えぇ、ぐっすりとね。そう言うアンタは何か眠そうだけど……何かあったの?」
そう言うルナの顔は、充実した睡眠によりキリっとした顔立ちだった。一方のソールの目には隈が出来ていた。結局火の玉のことが気になったソールは、その後暫く寝付けずにいたのだった。
「いや……全然……何ともないよ」
今にも寝そうな勢いでうとうとしながらソールが答える。
「何ともない訳ないじゃない……それに答えになってないし」
ルナは呆れた様子で言った。
(あぁ、そう言えばルナって寝たら基本的にどんなことがあっても寝続けられるんだっけ……)
ソールはそんなことを思い出していた。
「で、本当は何かあったんでしょ?周りも何かザワザワしてるし」
と、ルナは周囲を見回しながら言った。
「実は……」
「なるほど、謎の火の玉ね」
ソールから一連の流れを聴いたルナが呟く。
「何だか、また『魔導』が関係してる訳じゃないでしょうね?」
ルナはソールの方をじっと見つめる。
「分かんないよ。第一、僕が何かした訳じゃないんだからさ」
ソールはルナの視線から逃げるように目を逸らした。
「でも思いっきり関わろうとしてるじゃない?」
「う、それは……」
ルナの問いかけに、ソールはバツが悪そうな声を上げる。事実、ソールは火の玉をはじめとするこの町の怪奇現象に興味を抱いていたからだ。
「だって……少し気になるし、町の人も困ってるみたいなんだもん」
と、ソールは眠い目を擦りながら言う。
「全くアンタは、そんな時でもブレないんだから……」
ルナは呆れたように溜め息を吐いた。
朝食を摂り終え、宿を出るソールとルナ。宿屋に金貨を見せると驚いた顔をされ、何日泊まる気なのか、食事はどうするかと色々と聞かれて前日の内にどれだけ自分達が泊まれるのかは聞いていた。金貨一枚で十日は寝泊まりが可能だと言われ、改めて二人は驚いていたのだった。
「さて、取り敢えず寝泊まり出来る場所は確保できた訳だけど……」
(僕らはこれから、どうすればいいんだろう……?)
ソールは葛藤していた。自分自身の関心と人助けの為に時間を要するであろう怪奇現象の解決に乗り出すか、それとも騎士達が助けてくれた自分の旅を優先させるか……。道は二つに一つ。どちらを選択してもどちらかを必ず無下にしてしまう、と少年は考えていたのだった。
「……ねぇソール、また一人で考えようとしてる?」
と、旅を共にする少女の声に気付き、少年は顔を向けた。
「えっ、どうして?」
「だって、そんな顔してたもん。分かるよ」
少し怒ったように少女は頬を膨らませた。
「前にも言ったよね、私を少しは頼ってって」
「ご、ごめん……」
その時、少年の脳裏には騎士団長グランの言葉が過っていた。
『君の旅路は、決して独りでは無いということを。その傍らには、いつも君を見ているかけがえのない人が居るということを、な』
(僕の旅路は独りじゃない、か)
ソールは一息吐くと、いつも傍にいる少女に自分の胸中を話すことにした。




