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魔法使いの懐中時計  作者: 暁月 オズ
第一章.ジーフの街で
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4.夜景を眺めて

 大勢の人の波に揉まれながらも大通りから何とか脱したソールは、ルナが待っているであろう場所へと走り始めた。大通りより先の道は路地が枝分かれしており、屋台の数も少ない。そのため、先程よりも難なく目的地を目指して進むことが出来た。


 走り始めて数分が経ち、ソールは林の中にある坂をひたすらに上っていた。そうして暫く走って行くと、小さな公園のある丘に辿り着いた。


 小さな公園は石造りの塀で覆われており、そこにあるのはベンチと砂場と、2人まで使うことの出来る木造のブランコがあるだけだったが、ソールとルナにとっては昔からとても大切な場所だ。今でも『あの場所』と言うだけでも二人の間で通じ合うくらいだった。


 と、公園に着くとブランコに一人座っている少女がいた。言うまでもなくルナだった。


「あ、来た来た!」


 ソールに気付くと、ルナは彼の元へと駆け寄った。


「ごめん、遅くなって」


 笑顔で迎えてくれたルナに対して、ソールは到着するないなや深く頭を下げて謝る。


「いいって別に。あんなに人がいたんだもん、しょうがないって」


 彼の誠意が伝わったのか、それとも元より気にしていなかったのか、少女はあっさりと彼を許した。


「それよりほら、見てよソール!」


 彼女に促され、少年は石塀の方へと歩いていく。すると、視線の先には街中に散りばめられた灯りで何とも美しい景色が広がっていた。


「すごい……きれいだね」


「でしょ?私も来てびっくりしちゃった」


 二人が居る公園は、外灯が数本立っているだけで若干の暗がりだった。それとは対照的に光をまとった街並みは、ソールがつい魅入るのに十分なほど鮮やかな風景を描いていた。


「……そうだ、これ」


 と、ソールは思い出し上着のポケットからある物をルナに手渡した。


「これ……さっきの?」


 それは広場の屋台で、ルナが手に取っていた星飾りだった。元々の素材とあしらわれた装飾のお陰で、灯りの少ない暗がりの公園でも星の光と街からの灯りでキラキラと発光している。


「うん、気になっていたでしょ?だから……」


 ソールは少し恥ずかし気に自らの頬を指で掻いた。


「本当はさっき離れる前にすぐ渡したかったんだけど……」


「ううん、きっと今で良かったんだよ」


 そう言うと、ルナは首掛けの部分を手に通し、星飾りを空に向かい掲げた。


「だってほら、今ならこんなに綺麗に見えるでしょ?」


 確かに彼女の言う通り、街中で渡しても周りの明かりで星飾りの輝きなど分からなかったかもしれない、とソールは感じた。それだけではなく、昔から変わらない彼女のそうした心遣いも身に染みたのだった。


「……そうだね、ありがとう」


「変なの。お礼を言うなら私なのに」


 ルナはクスッと笑いながら、


「ありがとう、ソール!大事にするね」


 彼女の首に、星飾りを提げたのだった。


「どう?似合うかな?」


「うん、とっても」


「えへへ。ちょっと照れくさいけど、ありがとっ」


 ルナはふと空を見上げた。


「ねぇ、ソール。お星様の加護があるんだとしたら、おとぎ話に出てくる『魔法』とかもあるのかな?」


「え?」


「だってほら、この星飾りだって『星の樹』から作られたものでしょ?『星の樹』には星の加護があるって云われてるもの。だったら、そういうものもあるのかなって」


「……」


 彼女のこの疑問に対し、ソールは少し言い淀んだ。とはいっても、それはルナの言うような神秘的な力が本当にあるのかを悩んでいるという訳ではない。寧ろ、彼がその問いに対する答について知っていたからこその反応だった。


 少ししてからソールが言葉を紡いだ。


「……あるよ」


「え?」


「きっとあるよ。星の力も、魔法も」


「ソール?」


 真剣な表情で言うソールに、ルナは少し不安気に訊く。


「あ……、ごめん。ちょっと真剣に考えちゃって」


「もう、もしもの話でしょ?そんな真面目にならなくてもいいのに」


「あはは、ごめんごめん」


「そういうところとか昔から変わらないね、ソールったら」


「そう言うルナだって」


「まぁ、そうかもね」


 二人で一緒に、遠くの方で明るく光る街並みを見ながら、談笑していた。


 その時だった。




 ソールは後ろから人の気配を感じ取った。すかさず振り返ると、男女の二人組が少し離れた所に立っていたのだった。

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