31.イーユの町
「ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
少年はソールの弁当を受け取り、勢いよく食べ切った。そして食べ終えると二人に礼を言った。
「どういたしまして」
礼を言われて二人はほっこりとした気持ちになった。少年が元気になったためか、その声は安心したようだった。
「ところで、何でこんな所で倒れていたの?」
ソールが再びクレイに訊く。
「……町から出て、何か取って来ようと思ったんだ」
今度は少年は口を開き、言葉を紡いだ。
「何かって食べ物を?」
ルナがそう訊くと、少年は首を縦に振った。
(食べ物を探しに町の外にって、どれだけ困窮してるの……?)
頭の中で少年の置かれている状況を理解しようと、少女は必死に考える。
「……ねぇ、君は何処から来たのかな?」
ソールがクレイに尋ねる。
「イーユだよ」
「イーユ?イーユって確か……」
そう聞いてソールは思い出す。ソールの記憶通りであれば、イーユの町はカシオズの街に行く道の途中に位置する町だった。かつてケイト老人に聴かされた話によると、そこは以前は大規模な農業で栄えた町として有名だったという。
(……カシオズに向かう道にあるなら寄っても良さそう、かな)
「じゃあ、僕らが送って行くよ」
「いいの?」
「うん、一人じゃ心配だし。いいよね、ルナ?」
ソールがルナに確認をする。
「いいも何もないよ。私は付き合うよ」
元よりルナには断る気はなかったらしい。
「よし、じゃあ一緒に行こう!」
ソールのその言葉に、少年は喜んだ。
「ありがと、お兄ちゃん」
少年に誘われ、森林を越え丘を越え、ソールとルナの二人はイーユの町に辿り着いた。
「ここが、イーユの町……?」
到着した矢先、ソールは戦慄した。以前ケイトから教えられたような町の風景とは程遠いものが目の前に広がっていたからだ。周りを見渡せば広大に広がった田畑は荒れ果て、草木も瑞々しさを失い枯れ、町中を歩く人々の目には何処か活気がなかった。自分達の街と比べたとしても、何とも発展した町とは言い難いとソールは感じたのだった。
「そんな……ひどい」
ルナは思わず言葉を漏らした。それに対しソールは、
(全くだ……一体、何があってこうなったんだ?)
と、疑問に思っていた。
「……こっち」
少年は静かに二人を案内する。受けた衝撃から我に返った二人は、そのままクレイ少年に付いて行く。すると一軒の家の前に辿り着いた。
「ここ。ここがぼくの家だよ」
そう言ってクレイは家のドアを開ける。
「ただいま」
クレイの声に反応し、誰かが家の中から走ってくる音がした。




