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魔法使いの懐中時計  作者: 暁月 オズ
第一章.ジーフの街で
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3.星祭りその2

「ほら、早く早く!あっちの方も見てみようよ!」


「ちょっと待ってよ、ルナ!」


 人混みにまみれ続け疲れたのか少し休憩をしたいと感じているソールに対して、ルナはまだまだ動けるといった勢いで彼の手を取り、どんどん歩を進めていく。


 広場の方の屋台を順番に巡って行った二人は、今度は『ジーフの街』の中心街を歩いていた。普段は食堂やパン屋などの様々な店が立ち並び盛んな所だが、星祭りの真っ最中である現在は各店の前に並んだ屋台でいつもとは異なる賑わいを見せている。


「こっちもすごいね。色んなお店があるもんだね」


「食堂だとかパン屋さんだとかも出店を出しているみたいよ。ほら、あそこ。にしてもどこも混んでるわね」


ルナがそう言って指差す先には、パン屋が出している揚げパンの屋台があった。安価で本格的な味を楽しめるためか、既に多くの人で囲まれていた。


 一直線に連なる屋台は、各店に垂らされたライトの光と行き交う人々の影で何とも幻想的な風景を作り出していた。二人はそれに魅入られながら、先程まで早まっていた足など忘れ、ゆっくりと進んでいった。そして、それぞれ気になった屋台に寄って行くのだった。


 歩いて暫くすると、より一層人込みが激しくなっていった。二人とも横に揃って歩き続けるのも困難になる程に押し寄せる人の波に、とうとう二人はその距離を離され始めてしまう。


「きゃぁ!?ソール!」


「ルナ!いつもの所で会おう!僕も後で追いつくから!」


「わかった、気を付けてね!待ってるから!」


 多くの人の声にかき消されないように、出来る限り大声でお互い言い放った。その間にも人波に揉まれ、二人はどんどん引き離されていく。




「……完全にはぐれたな、僕」


 ルナと引き離されてから少し経つと、最早彼女の姿は影も形もなく、完全に見失ったことを理解する。


(まぁ、ああ言えば分かるだろうし、大丈夫だと思うけど……)


 半ば仕方のないこととはいえ、ルナを一人にさせてしまったことに対してソールは罪悪感を感じていた。


「とにかく、早く合流しよう。場所は分かってるんだから」


 と、人混みを避けながら駆け足で進んでいく中だった。


(……?)


 ふと、自分の進む方向とは正反対に進むとある人影が、ソールはどうしても目についた。その人物はまるで他人から見られることを避けるかのように灰色のローブを被っており、周囲の人々はその人物に気付いていない感じで、ただ歩いているのだった。にも関わらず、ローブの影の周りの空間を空けるかのように、自然に人々は避けていくのだった。


「何だ?あの人」


 思わず自然と声に出していた。しかし次の瞬間、通行人がソールの目の前を通りかかった直後に、彼はその影を見失っていた。


(何だったんだ一体……)


 何か見てはいけないものを見たかのような寒気が、ソールを襲った。偶然見かけたその存在は、人であって何処かかけ離れているようなものだったと感じた。しかし、彼は畏怖以外にも何か別の感覚を、その存在に感じ取ったのだった。


 少ししてから、我に返る。


「って、こんなことしてる場合じゃなかった。」


 ポケットにしまっていた懐中時計を右手に持ち、時刻を確認する。すると出掛けてから経過した時間を鑑みても、先刻彼女と別れてから大分時間が経っていることに気付く。少年は向かうべき方向に踵を返し、人の間を縫うようにして進んでいった。




「……」


 少年の見えない所で、灰色の影が彼を見ていた。


「……やっと、見つけた」


 その人影は静かに、人波の中へと消えていくのだった。

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