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魔法使いの懐中時計  作者: 暁月 オズ
第一章.ジーフの街で
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1.かの日の夢

  広い草原の丘で、少年と女性は座り込んでいた。


『いい?あなたに必要なのは、この世界をもっと知ることよ』


 山の谷間に沈みゆく夕日を眺める少年に対し、横に腰掛けるかつての恩人はその長い銀髪を風に(なび)かせながら続ける。


『世界を知り、己を知り、弱さを知り、そして強さを知るの』


 女性はおもむろに立ち上がり、少年に手を差し伸べた。その手には一つの懐中時計が乗せられていた。


『これを大切に持っていて。その時が来ればきっと、あなたの助けになるはずだから』


 少年には彼女の言っていることが自分自身にどう関係しているのか、まるで見当がつかなかった。しかし彼女のどこか神妙な表情を前に、不思議とその手に懐中時計を受け取っていた。


 すると彼女は少年に優しく微笑んだ。そして、彼の黄金(こがね)色の髪にそっと手で触れ、撫でながら続けた。


『……』


 彼女は何かを言っているが、少年には何か分からなかった。段々とその視界は白く覆われていく。ついには、辺りを見渡しても白色以外何も見えなくなっていた。




 そこで少年ははっと目を覚ました。ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていく。


「今のは……」


 その夢はかつて自分の命を助けてもらった恩人との、最後の会話だった。


 起き上がると、机に向かい突っ伏していたことが分かった。その机にはノートとペン、そして教科書が置かれている。


「そうか、いつの間にか寝ちゃってたのか」


 学院で課された課題をこなしている内に、いつの間にか自分が寝てしまっていたという現状を理解する。壁に掛けている時計を見ると、針は20時を指していた。


(まぁ、課題は終わってるから別に大丈夫なんだけど)


 少年は少し眉をひそめる。それは寝てしまった自分に対してではなく、先程まで見ていた夢に対してだった。


 あの時、彼女が何を言ったのか、未だに分からずにいた。何を言ったのか確かめるにしても彼女はもう自分の傍にはおらず、気づけば数年が経ち、少年は13の歳となっていた。もう記憶も(おぼろ)げになっていた頃にもなって見たのがその夢だった。痒いところに手が届かないような歯がゆさ。その夢は少年の心を揺さぶった。


 少年は部屋の窓へと近づく。窓からは、レンガ造りや石造りの家々が並んだ景色が広がっていた。

外はもう薄暗く、外灯の光が目立った。遠くの方を見ると、馬車や人の行き交う大通りが賑わいを見せているのが分かった。




 コンコンコン、と不意にドアを叩く音がした。


(こんな時間に来客?)


 ここは少年の家ではない。王立ジーフ学院が所有する学生寮だ。学院に通う生徒はそれぞれの実家から通う者もいるが、身寄りの無い者、事情があり通学が困難な者の為に学院は少し離れたところにこの寮を設立したのだ。少年もそこに住む一人だった。


「ソール、居る?」


 ドア越しから、よく慣れ親しんだ声が彼の名を呼んでいる。少年ソールはドアに向かい歩き出した。


「いるよ、今開ける」


 彼がドアを開けると、茶色い髪を肩まで伸ばした一人の少女が目の前に立っていた。


「どうしたの?ルナ」


「ねぇ今日『星祭り』でしょ?一緒に行かない?」


 ソールが名を呼ぶより先に、彼女は問いかける。余程祭りに行きたい様子だった。


 『星祭り』とは、この街『ジーフ』に昔から伝えられている祭りの一つだ。ジーフは山の側面に造られた街ということで王国各所で有名で、その特徴から様々な災害に弱いのではないかと言われていた。しかし、長年の間一切の災害に見舞われないのは、星の加護のお陰であるということで作られたのが発祥とされるのが星祭りだった。もちろん体裁は『これまで無事に生きることが出来たことに対する祝福の行事』だが、そこは人々の意思もあり、街の各所で出店が並ぶというのも恒例行事となっていた。


「別にいいけど、なんで僕?」


「いいじゃない。私はアンタと行きたいの」


 少し顔を赤らめながら、ルナは続ける。


「それにほら、昔馴染みというか、こういう時もずっと一緒だったし」


「まぁそう言われればそうなんだけどさ」


 昔からルナは少し勝気なところがあり、ソールは彼女の言うことになし崩し的に付き合うということが多かった。今回も彼女からの提案には逆らえないようだ。


 とはいうものの、彼にも断る理由はなく別段祭りごとが苦手という訳でもないため、半ばルーティン的な感じでソールは壁に掛けた上着を羽織り、街に出ることになった。

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