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僕の楽園  作者: U-1
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第五話

バンコクのスワンナプーム国際空港に着いたとき、外はもう真っ暗になっていた。

飛行機を降りた瞬間、体に水滴がまとわりつくような感覚が皮膚を刺激した。『きっと日本よりも空気中の水分が多いんだろうな。』と勝手に理解した。

初めての海外なので僕には、外国に入国する際の手続き方法がいまいち分からない。本では読んでいたが現実とはやはり違う。僕には理解することができない言葉がそこらじゅうに響き、僕の心は少し不安を覚えた。仕事柄、日常会話程度の英会話ができたのでなんとか入国審査を通り、預けていた荷物を受け取り、空港の外に出た。

この旅行に行く前に日本で予約していた、バンコクのホテルへ向かうことにした。

「さてタクシーに乗ろうかな。」

「どこに行けばタクシーに乗れるんだ。」

自分の中にできた不安を少しでも打ち消そうと、無意識のうちに僕は独り言を言っていた。言葉を発していれば落ち着くだろうと、根拠のない理由で淡々と独り言を話し続けた。

バンコクまできて独り言で自分を紛らわすのも馬鹿馬鹿しくなり、考えていても仕方がないと思い、とりあえず空港から出てみることにした。『行動することで道が開かれる』とどこかで聞いたような言葉を心に思い浮かべた。あっけなかった、空港の外には探すまでもなく沢山の青いタクシーが行列を作って待っていた。よく考えれば当り前だ、日本でも空港の外にはタクシー、バス、電車と様々な交通機関が用意されている。バンコクとて例外はないのだ。そう思うと心から不安はなくなった。


近くのタクシーを捕まえ、予約を取ってあったホテルの名前を五十歳くらいの細身の運転手に伝えた。運転手は、英語が僕と同じくらいではあったが話すことができた。

「日本人?」と訛のある英語で聞いてきた。

「はい、日本人です。」と応える。

「旅行かい?」

「あ、はい、旅行です。目的地はカンボジアなんですけどね。」

「カンボジアか、アンコールワットのあるとこだな。」

「そうです。僕の目的地なんですよ。」

「そうか。バンコクにもいいとこがあるから時間があるなら観光していきなよ。」

「そうですね。おいしい料理を食べたいですね。あとシンハビール!」ジョッキでビールを飲む真似をしながら運転手に伝える。

「お、酒は強いのか?」嬉しそうな笑顔だ。きっとこの運転手は酒が好きで強いだろうことは容易に想像がつく。どこの国でも酒の話は親しくなるための武器になると思った。

「運転手さんより強いと思いますよ。」と冗談をこめて応える。

「俺も負けないよ。飲み比べしてみたいな。ハハハハハッ」大きな声で笑っている。

「機会があれば飲みましょう。」

「ああ、楽しみにしているよ。」

時間を忘れて話し込んでしまった。海外に来て初めて、会話らしい会話をしたためだろう。

タクシーでの会話を楽しんでいたい気持ちは強いが、そうも言っていられない。ホテルに着いたのだ。

「おい、日本人。ホテルに着いたぞ。」

「ありがとう。」

支払いをしてトランクに入れたあったスーツケースを取り出した。ホテルに向かおうとして、あることを思い出した。

『サービスに対してチップを払うこと』という一文だ。

「これで酒でも飲んでください。」と少量ではあるがチップを手渡した。

「ありがとう。カンボジア楽しんでこい、日本人。」

「シンジといいます。まだ名前言ってなかったから。」自己紹介をする。

運転手も自分の名前を教えてくれたが、はっきりと名前が聞き取れなかった。せめて写真だけでもと思い、一緒に写真を撮った。

タクシーの運転手と別れホテルに向かった。


そのホテルは見るからに汚い。とりあえずチェックインをしようと思いホテル内に入ってみる。なぜかロビーは真っ暗だ。

「あれ?ここだよな。」真っ暗なロビーに戸惑ってしまう。

「すいません。すいません。」何度かフロントらしき方向に向かって呼びかけてみる。が返事はない。

「すいませ〜ん。」さっきより大きな声で呼びかける。

フロントらしきところから、現地の言葉で何か声を掛けられた。

「すいません。今日予約している里中といいます。」と四十歳代くらいのおばちゃんに説明した。

「あぁ、日本人ね。」不機嫌そうな声だ。

「はい、そうです。」僕は頑張って笑顔で返した。

「これ部屋の鍵ね。そこの階段で三階に上がって。三〇一号室だから。」とだけ言い残しておばちゃんはまた、フロントらしき場所の奥へと消えていった。

あっけにとられたが、きっと眠たかったのだと思い深く考えるのを止めた。

暗いロビーを横切り階段で三階まであがり右に曲がったところに僕の部屋があった。部屋は、汚いが寝るだけなら何の問題もない。カーテンを開けるとそこにはバンコクの綺麗な夜景が広がっていた。この夜景を見たとき『このホテルでよかった』と思えるくらい綺麗だった。しかし問題がないわけではない、なぜかトイレにバケツに入った水が置いてある。『なんだこれ』と思ったが、すぐに理解した。トイレに水が流れないのだ。ちなみにシャワーも出なかった。『マジかよ・・・・』疲れた体の僕にとって風呂に入れないのは少し辛い。どうすることもできないので諦めて、今日はもう寝ることにした。

ベッドに入り、眠りに落ちるまでカンボジアについて思いを巡らそうと思った。僕の体は思っている以上に疲れていたのだろ、思いを巡らす前に僕は寝てしまった。


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