第三話
「里中シンジ様、お待たせ致しました。」
「あ、はい。」呼ばれたカウンターへ早歩きで向かう。
「お待たせ致しました。こちらが里中様のパスポートでございます。」
「ありがとうございます。」と言いパスポートを受け取る。
会社を辞めた翌日、僕はパスポートの申請を行った。カンボジアに行くためだ。なぜカンボジアなのか、理由は簡単だった。『アンコールワット』を見たかったからだ。
ある番組でカンボジアの歴史を取り上げたドキュメンタリーを見たことがきっかけだった。その番組の最後に夕日に照らされた、赤く光るワンコールワットを見た時、
『この目で実物を見たい』と心の底から思ったからだ。
テレビ番組を見た翌日、カンボジアについて書かれた本を買おうと思って近くの本屋に出かけた。
「カンボジアに旅行に行く予定なんですけど、観光本みたいなのってどこに置いていますか?」探し回るより店員さんに聞いたほうが早いと思い近くで本の整理をしている、女性店員に聞いてみた。
「旅行関係の本ですね。通路を真っ直ぐ進んで頂いて右手側でございます。」
「ありがとう。」言われたとおりの場所へ向かった。
そこには棚を埋め尽くす旅行関係の本が並べられていた。『アメリカ西海岸』、『イタリア』、『オーストラリア』、と様々な国の本が大陸、地域ごとに分類されて陳列されている。
僕は迷わず、アジア地域の本が並べられた場所を探す。求める本はすぐに見つかった。
手に取ると、表紙に僕が目的地に掲げたアンコールワットの絵が描かれていた。
レジまで本を持っていくと、先ほどの女性店員が担当だった。
「さっきは、ありがとうございました。」
「すぐに見つかりましたか?」
「あ、はい、おかげ様ですぐに見つかりました。」
「お会計は千二百円になります。」二千円を支払って八百円のおつりを受け取った。
「ありがとうございました。カンボジア、気をつけて行ってきて下さい。」
「ありがとうございます。」店員さんの何気ない気遣いが嬉しかった。
『カンボジアか、楽しみになってきた!』と心の中で叫んだ。