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第二話 「 目覚ましをかけても起きられないってよっぽど責任感がないんだろうねw(1 」(省略形サブタイトル) 

【一】


 宙乗(そらの)双治(そうじ)という優しい少年は、エル・サウシスという不思議な未完成系少女に馬乗りになられながら、ベッドの上でポカスカやられていた。


「バカ変態色情魔! 長いんだよう! 唾液と血液の交換は確かにチュウが一番手っ取り早いけど、べべ、べろちゅうする必要なんてないんだよ! わたしが双治にしたからって、真似する必要なんて……そ、そんなにしたいなら、わたしにすればいいんだよっ!」


 双治の頭や顔や肩や腕を駄々っ子パンチするエル・サウシスは、眉を怒らせながら大きな青い瞳に涙を浮かべて、頬を真っ赤に染めながら文句を言っていた。


「それともあれかな、双治は見た目が中学生くらいの女の子は対象外だって言いたいのかな! これでもわたしは十六歳っていう設定なだけで、双治よりお姉さんだし、子供だって作れるし、結婚だってできるんだからねぇーっ!」


 ポカスカポカポカポカー、っと。エルは駄々っ子パンチの速度を上げる。

 替わって、十六歳設定とか中二臭い言葉を吐くエル・サウシスからの攻撃を腕や枕でガードする宙乗双治という少年は、攻撃の激しさに汗をかいて反論に精を出すしかない。


「ちょ、待て、待ってくれっ! あれは能力の副作用みたいなものだって知ってるだろ! 第一に! 能力使用時の俺に自我はない! ……こともないが。いや正直、実際には自我も意識もあるけれど、自分が自分じゃないっていうか、そんな感じなんだ! って、俺はこの説眼を何度すれば分かってもらえるんだっ――痛たっ! だから、待て! キスして欲しいならしてやるから、ぐーパンはやめろっ! ぐへっ!」

「なんなのかな、その上から目線はっ! してやるって、なんなのかなっ! わたしはそういうことを言ってるんじゃないんだよっ! なんで、なんで、なんでーっ」

「わっ、ばか、やめろっ! 意味の分からないことを口走るなっ! 痛いッ!」

「バカじゃないもん! バカは双治だもんっ! わたしは、女の子の気持ちを考え――」

「あー、もう、分かった! 分かったからやめてくれ!」


 言って、双治は振り回されるエルの腕を受け止めると、強引に自分の胸に抱き寄せた。

 突然のことに「わあっ!」とすこし驚くエルだが、まだまだ怒り足りないのか、双治の胸の中から鋭い視線を尖った口と一緒に上に向け、プンスカする。


「べ、別に! ぎゅーってしてくれたからって、わたしは怒ってるんだからねっ! 許してあげるなんてこれっぽっちも思ってなんてあげないんだから――ぅん!」


 上に向けられた唇に、双治は自分の唇を押し当てた。

 途端、じたばたばたばたばたーとエルが暴れるが、それを無視して双治は唇を合わせ続ける。一分が経ち、二分が過ぎる。すると。


「んんんっ! んんーん、んんんんぅんっ! ん、んん、ん、……んん、――ぅんは」


 馬乗りになって暴れていたエルの体から力が抜けていった。

「ぅ、にゃ……みゃあ……っ」


 三分が立つ頃には双治の首に自分の腕を絡めだし、時間が長くなるにつれて、くねくねと体をくねらせもする。

 その様子にニヤニヤと意地悪く笑う双治は、エルの瞳を覗き込んだ。


「どうした? さっきまでと態度がだいぶ違うが」

「んぅ、うー……ずるくない?」

「お前が叩くのをやめてくれないからだ」


 そう言って、エルの頭を引き寄せキスを再開させる。

 唇を重ね、舌を絡め、互いの腕は相手を逃がさないようにと束縛し合う。

 そのまましばらくの時間が経つと、エルは唇を重ねたまま甘えた声を出した。


「ねぇ、双治……その、ね? ……ひゃあっ!」

 双治は言葉が終わる前にベッドの上を転がって、お互いの上下を反転させた。

「なんだよ?」


 からかうような眼つきで挑発する双治。

 赤くなった顔で拗ねた瞳を潤ませるエルは、


「あぅ。えっと、それは……」

「それは?」

「だからぁ……」

「だから?」

「っ! うぅ~、いぢわるなんだっ!」

 ぷくー、と頬を膨らませる。


 目の端に小さく涙を溜めるエルに、けれど意地の悪い笑みを崩さない双治は「ああ、俺は意地が悪いんだ」と、そう言っておでこに唇を当ててから、ゴロンとベッドに身を沈めた。体の小さいエルを抱きすくめ、双治はあっという間に穏やかな寝息を立て始める。


「――って双治、寝つきが良すぎだと思うよ……はあ」

 双治の腕の中で溜息をこぼして、けれど続く言葉には、どこかほっとした響きが含まれていた。


「今日も、お疲れ様でした」


【二】


 宙乗(そらの)双治(そうじ)、十八歳、高校二年生。

 年齢と学年が一致しないのは、去年進級していないから。

 と言っても、学力や素行が悪かったというわけではない。

 

 去年の秋頃――約一年前に起きたとある事件のせいで休学していたからだ。

 そして、その事件で宙乗双治は家族を失っている。

 父も、継母も、継母の双子の娘である姉たちも。


 世間では、その事件を『現代の神隠し』として扱い、家族の中で一人だけ残された宙乗双治を、一躍時の人に祭り上げた。ただそれは、可哀そうな少年という意味ではなかった。警察とメディアが力を合わせても双治の家族が見つからなかったことで、双治自身に疑いの目が向いてしまったのだ。

家族を皆殺しにしてどこかに遺棄したのではないか、と。


 だが、そんな事実などありはしない。それをきちんと証言する事は出来たが、けれどあの時に起きたことを、双治は他人に信じさせる言葉を用意出来なかった。


 それからはもう、酷いものだった。

 街に出ればこそこそと陰口をたたかれ、家に帰れば悪戯電話とゴミの投げ入れがあった。警察では双治が殺したと決めつけた尋問が何度もおこなわれもした。


 特に酷かったのが学校で、酷い迫害が毎日のように繰り返された。

 だから、休学した。

 休学自体、担任が勧めてくれた対処策ではあったが、しかし双治を気遣っての対応ではなく、この事件が原因で広がるイジメを、どうにか抑えるための口実でしかなかった。多少の憤りは感じたものの、双治はそれを承諾した。反対する理由がなかったのも大きかった。


 去年の秋から、半分ボケてるんじゃないかと思える店主が開く、狭く小さなラーメン屋でバイトしながら、国からの援助を受けてエル・サウシスと生活をした。

 双治の人生観が変わったとしたら、このときだったろう。人の脆さと汚さを経験し、ある意味で生きる事に斜に構えたたからだと、当の本人は思っている。


 年が明け、新しい年度になって学校に行ってみれば、なんともない学校生活が始まった。たった半年で人の意識というやつは簡単に変わってしまうものなんだなと思いながら、双治はため息もつかずに二年の教室に入っていった。一年から二年になるときにクラス替えがあるせいか、違和感はあっても双治を異物として接しようとするクラスメートはおらず、かといって積極的に話しかけてくる者も殆どいなかったが、休学前に比べると断然環境は良くなっていた。


 さて。

 ならばどうして宙乗双治は家族を失う羽目になったのかと言えば、ここでエル・サウシスとの出会いも絡んでくるのだからややこしい。


 簡単に事実だけを言うなら、『次元の狭間に飲み込まれた』というのが正解だ。

 さらに簡単にいうなら、宙乗家の家族は本当に神隠しにあっているのが正確だ。

 そしてそれは宙乗双治の目の前で起きた事だから、始末に負えないものなのだ。


次回 「 目覚ましをかけても起きられないってよっぽど責任感がないんだろうねw(2 」(省略形サブタイトル)

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