「 人生に無駄なものはないに越したことはないのかもしれないが往々にしてその無駄な事を楽しむために人は生きているのかもしれないってそろそろ気づいた方がいいよ?w(2 」(省略形サブタイトル)
【二】
対峙。というには少し違う状況で、五メートルほどの距離を開けて二人は居た。
先に口を開くのは宙乗双治だった。Linkerという特殊な力を宿し、その左手と両目から虹色に似た光を発して、探していたものと、守るべきものと、その泣き顔を嫌うものを背に庇いながら尋ねる。
「一個だけ教えてくれよ。こんな状況になってまで、お前は何をしてやがるんだ?」
その言葉が向かう先に立っているのは、白衣の科学者。彼女は突然現れた少年らと出来事に対して背を向けながら、手元の浮遊パネルに何かを打ち込んでいた。双治は声をかけても何の反応もない九条に、しかし憤るでもなく言葉を続ける。
「まあ、素直に返ってこないよなあ……なら、先ずはこっちから教えてやる。次元跳躍――世界に喧嘩を売って宇宙一つをぶっ壊そうとしていたお前なら多少は理解できるだろう? 俺たちがここに来るのに使った方法がそれだ。膨大な計算と膨大なエネルギーが必要な、まあ、普通の人間には無理な事をして俺たちはこの世界に渡ってきているんだが……それは俺個人の能力じゃない」
相手からの反応はない。しかし双治は「けどよぉ」と言い置いて、さらに続ける。
「そんな不可能を可能に出来る奴を俺は知ってんだ。そいつはな、深緑色の料理を出すことがあるやつで、すぐにヒステリー起こして引っ叩いてくる。しかも極太の鞭で容赦がねぇ。それでも、困った時に……どうしようもないって時に肩を貸してくれんだよ。自分自身、体の小さなただの女の子だつーのに、他人から投げつけられる生ごみを嫌な顔せずに片付けてくれてよ……だからってのも変な話だが、俺はそいつを大切だって思ってんだ。泣かした奴をぶん殴ってやりたいって思えるくらい、大事な奴なんだ。ここに来たのだって理由としちゃあそれが大きい。ここに来る前から、怒りなんて有頂天なんだよ」
なのによ? と、双治は苛立った声を、握った拳を震わせる。
「ここに来るまでの間、ずっと聞こえてくるじゃねぇか。聞いているだけで痛みさえ感じるようなちびっ子の声が。ありゃあなんだ。世界を壊す? ちびっ子を別の世界に飛ばす? しかも俺の姉ちゃんまで巻き込んで、その命の選択をテメェの娘に押し付ける……? おいおい、ふざけるのもいい加減にしろよ、ドサンピンのド腐れ野郎」
息を大きく吸い込んで、表情が凶悪に歪む事をおさえ込んでいるつもりで、しかし。
「ちびっ子の『心の叫び』が、あんなに悲しいなんて良いはずねぇだろうがっ!」
言った直後、左手を覆う虹色に似た光が轟ッ! と揺らめきを強くした。双治の声に浮かぶ激情。その内側に憂いの色が見え隠れる。
「そのうえで、もう一回聞くぞ? こんな状況になって、お前は何をしてやがんだッ」
言葉と同時に、双治は左手を強く握った。双治を中心に空間がたゆんと揺れて、放射状に何かが広がっていく。エルたち四人の後ろにあるアクリル製の牢獄の真上に揺れがさしかかると、それはバチッジジジッと透明な何かに擦れて火花が散るように、閉鎖空間を視認できるようにしていった。
「あんたが目指した世界の破壊は失敗したんだよ。俺がこの世界に空いた穴を、矛盾を修正した時点で、不可能になったんだ。なら、それでいいじゃねぇか。パネルを打つ手を止めて、娘の顔を拭いながら謝ってやれよ。これから先を償ってやれよ……なのに、どうして! 何であんたはそうまでして自分の娘を泣かせたがる。何で未だに世界を壊そうとしてやがんだよッ」
震える様な怒りが声から溢れ出し、双治の左手の光がさらに勢いを強めた。きっと、今の双治と同じ立場であれば、多くの人間が同じようなことを言うに違いない。自分の娘を泣かせてまで世界の崩壊など願うものではない、と。
だが、九条は高校生の言葉で心を動かされる様なちっぽけな覚悟でこの実験に臨んでいない。自分の養女に命の選択を突きつけることが出来る信念でこの場所に立っている。
だから九条は正論垂れる双治の眼を一瞥して溜め息を吐きだすことが出来てしまう。
「その通りだろうね、少年。ちいさな娘に迫る問題としては間違っているし、世界を壊すなんてしてはいけないことだ。世界を壊せる爆弾のスイッチを手に入れたとして、普通の人間はそれを押すことはないだろう。それこそ、人間失格のくそ虫のような馬鹿でない限りはスイッチを壊そうとするはずだ」
「だったらッ」
「けれどね、私はそのくそ虫のような馬鹿であるらしいんだよ。だからそんなくそ虫は、少年が吐き出すまっすぐな言葉に矯正されるほど、ピュアには出来ていないんだ」
言いつつ双治の背後に目を向けて、すぐにその上へと視線を逸らす九条。
「あの閉鎖空間にはここに倒れている連中と私の、憎しみ、恨みぬいた過去が詰まっている。自分勝手な正義を振りかざすゲリラ連中に殺され、辱められた者たちの無念と一緒に、連中へ制裁を下すときを今か今かと待っているのさ」
「ゲリラ?」
「ああ、己の愚かさを認めない連中の事だ。その連中に、何人もの人間が犠牲になっているのが、この世界なんだよ」
九条はそう言って視線を双治へと戻した。
「少年はそんな幾人もの想いを、自分勝手で自己満足な暴力だと言えるか? 大事な人が恥辱にまみれた屈辱に倒れ、命を、心を殺されても、怒りを覚えず一人で死ねばいいと、本当に思うことが出来るのか? はっきり言って私には出来ない。ここに居る連中も、出来ないからこそここまで来たんだ」
言われて、しかし双治は言い返すことなく九条の眼を睨むだけだった。当たり前だろう。そんな人間ばかりで構成された世界など、とっくにどうにかなっている。この世界に飛ばされてきた風流と流星だって、町単位でとても優しい人々がいたから、一年間を無事に生きてこられたのだ。そんな人間を全員含めた上で世界を壊すなど、狂っているとしか言いようがない。
「……やはり、私の言葉に共感できるだけの汚れがついていなかったか」
九条はその反応を見て落胆をみせ、「ああ、そうだ」と雰囲気をがらりと変えて口を開いた。
「私にも君達が何者なのか、見当はついている。エル・サウシスとLinker君」
その言葉に双治の眉がピクリと反応した。九条は肩をすくめる。
「君たちは、というよりエル・サウシスは次元異常を感知する能力を埋め込まれていると、この世界のハイゲル・ド・シュッツガルが残しているからね。それが本当ならきっと私たちの実験にも来るだろうとは思っていた。まあ若干以上の割合で、ホラだと思っていたというのが本当のところだがね。なにせ、こちらのエル・サウシスは起動実験中に大事故があって、個体は残っていないらしいんだ」
「ホラじゃなくて悪かったな」
「悪かった? いいや、君たちが来てくれたおかげで、私の我が儘で死ぬ人間が減るんだ。こちらとしてはお礼を言いたいぐらいだよ」
「言ってる意味が分からねぇな。俺がここに居る限り、お前は何もできねぇだろうが。この実験で死ぬ人間はゼロだよ」
「どうして?」
「どうしてもこうしてもねぇ。俺がお前の実験をぶち壊すからだ」
「どうやって?」
「お前をブッ飛ばして」
「それで本当に実験を止めたことになるのか?」
「さあ。ならねぇかもな」
「だったらどうする」
「簡単だ。やってみりゃ分かる」
「私は分かりたくないんだがね」
そして。
互いの言葉が止まった。
そこまでの問答で知り得るだけの互いを知り、今度こそ二人は正面から対峙する。
引けない想いが二人共にあり、言葉で納得出来る段階などとうになく、だからと言って見て見ぬふりをしてしまったら互いにとって最悪な結末になることは見えている。
だから最後は力をぶつけ合う。
理性的な人間であれば互いに引くという結果もあったのかもしれないが、残念なことに人は本能的で感情的な生き物だ。生まれてから一度も口喧嘩さえしたことがない人間がいるなら、それこそが理性的と言うべきであり、そして、完全に我をなくせる人間がいるならば、それはもうすでに人間ではなくなっている。
「始める前に一つだけ言っておく。馬鹿に手加減できる程、俺は出来ちゃいねぇからな」
「なら私も言っておく。私が女だと思わない方が身のためだよ、少年」
そして、人間同士の戦いが、幕を上げた。
次回 「 人生に無駄なものはないに越したことはないのかもしれないが往々にしてその無駄な事を楽しむために人は生きているのかもしれないってそろそろ気づいた方がいいよ?w(3 」(省略形サブタイトル)




