第六話 「 人生に無駄なものはないに越したことはないのかもしれないが、往々にしてその無駄なことを楽しむ為に人は生きているのかもしれないってそろそろ気づいた方がいいよ?w 」(省略形サブタイトル)
【一】
虹の様で、しかし虹にはあり得ない光彩を放つ純白という矛盾した光の残滓が漂う渦中。不思議な力を持った少年・宙乗双治は学ランとTシャツという格好で、異能の証である両目と左手を光らせずに巨大なアクリルケースの上に立っていた。見えるのは長大な機械と、数多く倒れる白衣の人間たち。
「おー、高かいな。これが壊れない牢獄ってやつか?」
隣には、オーロラピンクの長髪でどこかの制服に似せた服装姿のエル・サウシスが、指先でこめかみを叩きながら、ピンクにデコレーションされた端末の画面を睨んで考え込んでいる。
「んー、双治のそんな疑問は置いとくとして」
「……いや、置いておかないでくれないか?」
「置いておくとして。双治の力で世界の矛盾は修正したはずなのに、なんで端末のアンノウン表示は消えないんだろうね?」
「そりゃあ、あれだ。まだ空間的な矛盾が残ってるからだろ」
「まぁー、そうなるよねぇ」
双治はエルとの問答に頭を掻いて、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回し――、
「つか、そのアンノウン表示の元凶で、エルを泣かしたやつを俺は早くぶん殴って帰りたいんだけど……おっ」
視線を真下に向けたとき、アクリルケースの中に探し人である姉たちと目が合った。ニカッと笑ったその顔は複雑に緊張している。
「いたいた、姉ちゃん。迎えに来たぞ」
あくまで落ち着いた反応だったのは、この世界に転移してくる少し前から、ここに姉がいることが聞こえていからで。もちろん、嬉しくないわけではない。嬉しすぎて不細工に涙ぐんでいるし、鼻水だって垂らしている。それでも笑っての再会は、高校生男子の意地だった。
双治は上を見上げるふりをして目元を拭い、改めて姉たちを見る。
「いやー、ごめんな。見つけるのに一年もかかって。でも遊んでいた訳じゃないからな?」
双治は余りの出来事に呆けたような姉たちの頭上で言いながら、片手だけで謝るポーズをとった。それから、隣で未だに携帯端末と睨めっこしているエルの手元を覗き込んで尋ねる。
「で、なんで姉ちゃんたちは金色に光ってるんだ?」
「ん、光ってるって……?」
「ほら、きらきらーって。アニメ的視覚効果みたいな」
「双治はバカだなぁ。人間が光る訳ないじゃない」
「実際俺が光るじゃねぇか……ってそうでなく、こう大量の蛍が飛ぶみたいに」
「なら蛍が飛んでるんだよ、大量に。それ、ある意味拷問だね……」
「……だから、そうじゃねぇってんだ」
双治はいつになっても端末に向かって唸っているエルの頭を強引に足元――アクリルの牢獄内部へと向かせた。
「って、本当に金色に光ってるっ! あれは生物の空間分解中に起きるエフェクトだよ! あのままじゃ、本当に光の粒になって世界から消えちゃうっ!」
言葉を聞いた双治は無言でエルの額をペシリと叩いた。
「はうぅ!……なんで叩くかなあ?」と口を尖らせるエルは、気づく。
「……ははぁん。もしかして双治、焦ってる? 焦っちゃってる? ふふん。けど、大丈夫だよ。見たところ分解が始まってからそんなに経ってないし、わたしの能力があればすぐに助け出せるから」
「なら早く助け出せ。どんどん金色のキラキラになってる。姉ちゃん金キラになってるから」
「双治、慌て過ぎー。大丈夫だって。それとも、もしかして双治ってば、シスコンー?」
「いや、シスコンじゃなくても身内がああなっていれば慌てるだろ普通……」
「ぷぷー、そーですねー、シスコンソウジ。略して……シーソー!」
シーソー、シーソー! やーい、シーソーとエルははしゃいだ。それに対して「こ、このバイオロイド……っ」と額に血管を浮かばせる双治は「良いから早く行ってこい!」、と横からエルの尻を蹴り飛ばし、巨大アクリルケースの上から突き落とす。きゃうーん、と可愛らしい悲鳴を上げながら落ちていくが――しかし。次の瞬間にはトレーナーのジッパーを上から下へと引き下げるような気軽さで空間を割り、直後には、風流が閉じ込められている部屋にその姿を現わしていたのだった。
「どもー、お姉さま。助けに来ちゃいましたよぅ! ささ、どうぞこちらへ」
何もない空間から突然出てきたエルに驚きより戸惑いを隠せない風流。だが、手を引っ張られてしまえばついていくしかなく、次に空間を超えるのは流星の所。目を点にして困惑しきりの双子姉妹は互いに瞼をしばたかせていた。
「風流姉さん……これは?」
「私にも分からないわ、流星姉さん」
「どっちも姉さんっ! さすが双治のお姉さま。面白いです!」それからエルは頭上を見上げ「ねえ、そうじー。あっちのちびっ子もー?」
「当たり前だ。俺たちはその子の強い感情を目印にして、この世界に跳躍したんだ。なら、この世界で助けを呼んでたのはその子だろ。だったら助けるのが筋ってもんだ」
答えを聞いて「はーい」と軽く返事をする。あまりにも簡単にアクリルの牢獄に捕まっていた全員を外へと連れ出せば、オーロラピンクの髪を靡かせて双治に「ブイっ!」とピースをして見せた。
連れ出された三人は状況について行けずに互いの顔を見合わせていた。ミリアに至っては天才であるが故の戸惑いがあるらしく、涙と鼻水とヨダレで汚れた顔を拭いもせずに、「空間を、跳躍した……人間が、単独で? それに、『エル』って……」と何事かを呟いている。
「今から降りるから、ちょっとどいてくれー!」
発動されるのはLinkerの能力。それにより強化される身体能力は平均的な二階家の屋根から飛び降りられる膂力を発生させる。光る両目と左手が虹の様な軌跡を見事に描き着地する双治は、能力を一度切ってから一年ぶりに対面する義理の姉に声をかけた。
「元気してたか、姉ちゃん?」
だが返事はなかった。戻ってくるのは双治に対する言葉ではなく、風流と流星の間で交わされる囁きだ。
「風流姉さん、これ双治よね?」
「おそらくは、としか言いようがないわ。流星姉さん」
「そうよね。あたしの知っている双治は、あんな光を放つ瞳を持っていなかったし」
「左手だって光り輝いてはいなかったわ。それに顔の形まで変わっているわよね?」
いぶかしむ視線が双治を下から上へと舐めるように這わせた後。にたりと笑った。
「「でも――これはこれでいい。さあ、今すぐファミリーを作りしましょう」」
双治は姉二人の反応に、額を押さえて頭を振る。一年前から何も変わっていない姉にほっとするやらげんなりするやら。どちらとも言えないため息が口をついた。
「やめろ、やめろ。元気でやってたことは分かったから、すり寄ってこないでくれ」
「一年たっても相変わらずね、双ちゃん。私に会えてうれしくないの?」
「何を言ってるの、風流姉さん。嬉しくないなんて。照れてるのよ。あたしに会えて」
「あら、何を言っているの? 私に会えてうれしいのよ。流星姉さんじゃないわ」
「いいえ、あたしよ。双ちゃんはあたしに会えて、きっと大きくしているはずよ」
やいのやいの、と。同じ顔が同じようなことを言い合う奇妙な光景。疲れる。けれど、心地よい。
「姉ちゃん。確かに俺は姉ちゃんたちに会えて嬉しい。けど例え義理でも、言っちゃいけない事はある。世間の眼ってやつはとってもおっかないんだ――」
「――それより」とすり寄ってくる姉の頭を押しのけて「俺にはやらなくちゃならない事があるんだよ」
「「やらなくちゃならない事?」」
風流と流星の声が合わさる。
「ああ。俺には『俺の家族を探す』って都合で付き合ってもらってるやつがいる。そいつには姉ちゃんたちが巻き込まれたような次元災害っていう『世界の異常を元に戻す』って都合があってな。俺たちは案外仲良くやってきたんだよ。――けど、俺は今日、そいつが泣いてるとこを見ちまった。世界をまたいだ家族探しに付き合ってくれて、家族がバラバラになってからの一年間を俺の隣で過ごしてくれた奴の涙を見ちまったんだ。姉ちゃんなら、どうよ。泣かした奴、許せるか?」
風流と流星は互いに見つめ、少しつまらなそうに鼻から息を抜いた。エルを一瞥するように視線を泳がせて肩を竦める。
「そんな事決まっているじゃない。ねぇ、風流姉さん?」
「ええ。決まりきっていて詰まらない程よ。流星姉さん」
そして再び声が揃う。
「「許せないに決まっているわ。それが可愛い女の子なら特にね」」
「だったら、俺がこの後やらなきゃならないことも、わかってくれると思うんだ」
直後、場の空気が一変した。
気の抜けたものから、チリと焼ける張り詰めた雰囲気に。
「だから、もう少しだけ家に帰るのは待っててくれ。直ぐに終わらせてくるから」
双治は、足を一歩前に出したのと同時に、轟ッ! と能力を再び発動させる。拳を強く、最高に硬く握り締め、光放つ瞳に鋭い怒りを含ませて。
途中、この世界への道標となってくれた幼女の横を通った。十歳前後の女の子。今から何が始まるのか分かっているような瞳は不安を湛え、口を噤んで何かに耐えていた。
視界の端でその表情を見る双治は足を止める。
「おい、ちびっ子。今度から助けを求めるなら、神様になんて求めるんじゃあねぇ。神様がいるかどうかは知らねぇが、お前を本当に助けてくれるのは現実の人間だ。お前が本当にピンチなら、周りの奴が助けてくれる。人間、助けてと伸ばされた手を振り払うような腐った奴らばかりじゃねぇからな。けど――それでも無理な時はあるかもしれない。誰も彼もが目をそらし、耳すら貸してくれない時が。なら、そんなときにはどうするか? んなもん、簡単だ」
双治は、道標になった幼女の小さな頭へ少し乱暴に手を置いて、断言する。
「強い想いを胸に抱いて、大きな声で俺を呼べ! 俺がいつでも助けてやるっ!」
言い切り、再び元凶の下へと足を進める。
――限界だ。自分の顔が凶悪に歪んでいくのを我慢できない。拳の内側に突き刺さる爪が痛いのに力を抜けない。視線の先に居る白衣の女があの泣き顔の元凶だと思うだけで苛立ちが止まらない。
だから吠える。
「矛盾をぶっ壊す時間だぞ、くそったれ。お前の性根、俺が修正してやらぁ!」
次回 「 人生に無駄なものはないに越したことはないのかもしれないが、往々にしてその無駄なことを楽しむ為に人は生きているのかもしれないってそろそろ気づいた方がいいよ?w(2 」(省略形サブタイトル)




