「 転んだら転びっぱなしな奴っているよなあ、とか言ってるそこの君は本当に努力を続けられるんですか無理ですよねw(4 」(省略形サブタイトル)
【三―二】
ミリアが連れてこられたのは、LHC系加速器の中央に空いたスペースだった。
そこに設置された強化アクリル製の巨大な箱ともいうべき牢獄に、拘束を解かれて押し込められたミリアは、険悪なムードを漂わす風流と流星を見た。
「風流! 流星!」
走り寄るミリアだが、壁に阻まれ触れ合う事が出来ない。内部が三つに分かれていた。箱の内部をTの字に区切るように強化アクリル製の仕切りが壁として存在している。ミリアが押し込められた部屋側には『右』と『左』――タッチ式のボタンが一つずつ表示されていた。
壁に開けられた小さな穴を見つけると顔を近づける。
「ねえ、無事っぽい? 変なことされてないよね!」
しかし、風流と流星は互いに背中を向けたまま、入ってきたミリアに顔も向けなかった。
「っ……」
眉根が悲しく寄る。――怒っているんだ。そう思った。実験の協力者として連れてこられて、有無も言わさずこんな所に閉じ込められたのだ。怒っていて当然だ、と。
「ごめんなさい……ミリア知らなかったから。ごめ、ごめんなさい……」
ぺたんと座り込み、口元を揺らし、ギュッと瞑られる大きな目。
うぅ~、と勝手に漏れる声に、小さな手が固く握られる。
けれど。
次に顔を上げたミリアは泣いてなどいなかった。
ズビッ! と鼻をすすり、口をMみたいにひん曲げて立ち上がっていた。
「許してほしい。けど、二人はきっと、ミリアのこと許してくれないっぽい。だからミリア、許してもらえるように二人をここから出してあげるからね」
言いながら確かめるのは靴の調子。トントンとつま先を蹴り、ミリアは涙が出てきそうな両目を自分の腕でごしごしと乱暴に擦る。
「そしたら逃げよう。九条が絶対に見つけられないっぽい所に。それから、仲直りしてくれたら嬉しい。ミリアは、風流と流星が大好きだから……!」
目に映るのは、自分たちが押し込められた牢獄の様な巨大ケース。
考えることは、此処を逃げ出して二人と仲直りすること。
「……バカ九条。ミリアから靴を取り上げなかったことを後悔するのが良いっぽいし」
ミリアは自分の腕を撫で、破壊の反動で死なない為の皮膚型自由重力強化外装が生きていることを確認すると、靴に埋め込まれた浮遊粒子加速機を起動させた。
「こんな箱、壊してやるッ!」
ミリアの眼つきが鋭く変わる。
浮遊粒子加速機が生み出す甲高い駆動音が箱の内部に響く。
風流と流星がその駆動音に眉をひそめ、ミリアへと目を移した、直後だった。
「――ッっシャッッッッッッ――ッッッッッッッッッ――――――!」
ドゴオウンッ! と。
姉妹の眼からミリアの姿が掻き消えた瞬間、至近に雷でも落ちたような轟音が鳴り響いた。
それは爆発的な速度が一センチにも満たない鉛玉を圧倒的な凶器に変えるのと原理は同じ。そのスピードは、体の小さなミリアの攻撃を大型のタンクローリーさえ吹き飛ばせる破壊の塊へと瞬時に変えた。
繰り出されたのは、凄まじい蹴り。速度×重量という単純な計算式で生み出されるものとは到底思えないような衝撃と轟音が、四角い箱のような牢獄に反響し、三人の耳ないし全身を叩きつけた。
つけて、しまった。
つまり、それは。
破壊の失敗によって起こる現象だった。もし牢獄が破壊されていれば、その凄まじい衝撃と轟音は箱の内部を反響せず、空へと逃げているのだから。
「……ッッ!」
驚きは一瞬。
ミリアは苦虫を噛み潰したような顔を作り、傷一つ付いていない強化アクリルの表面を撫でて理由を知る。
「……確かに、これなら最高の牢獄を作れるっぽい」
皮膚型自由重力強化外装。
あるいは、ハードスキンテクスチャ。
名前の通り、貼り付けた物体とその周りに特殊な重力場を形成するものであり、機能は『貼り付けた物体に外的要因による強力な変化を与えない』というもの。言葉にすると簡単だが、これがどれほど恐ろしい物かは、今ミリアが生きていることを鑑みれば考えるまでもない。
渋面を作る幼い顔立ちが悔しさと悲しみに彩られ、うつむいてしまう。
「九条がミリアから靴を取り上げなかったのは、取り上げなくても結果が変わらないことを知っていたっぽいから……?」
自分の小さな手をぎゅっと握り、さっきは堪えることが出来た涙が大きな瞳を溺れさせていく。力なく肩を落とし、座り込むことも出来ずに立ち尽くすミリアは、風流と流星を見ることが出来なかった。
「ごめんなさい……。ミリア、悪いことしたよ。ごめ、ん……なさい……」
ふるふると揺れる拳にスカートを掴んで、ぽたぽたと謝罪が零れていく。
重くて苦しい罪の意識が。痛くてつらい二人への感情が。小さな胸を大きく苛む。
ミリアは、どうしてこんなにも悲しいのか分からなかった。なんでこんなに謝っても心の中がすっきりしないのか分からなかった。二人を大好きになったことは自分でも理解していたけれど、何故こんなにも涙が出てくるのか分からなかった。ただ、悲しかった。大好きな二人を裏切ったようで辛かった。泣きながら、震えながら。許してもらえるように、叱ってもらうように、ごめんなさいと謝っていた。
けれど、風流と流星がとった行動は、許しでも、叱りでもなかった。
気まずそうに同じ顔が見つめ合い、同じタイミングで仕切りとなった強化アクリルに張り付くと、二人は同時に口を開く。
「「ごめんね、ミリア。ミリアは一つも悪くないわ」」
言葉を切り、風流は流星を、流星は風流を睨みつけ、
「「悪いのは、自分が死ぬって言い出す「流星」「風流」姉さんなんだから」」
と、そう言った。
聞いた途端、ミリアは大きな声で怒鳴りつけられた様に、身動きできなくなっていた。
二人がいま何を言ったのか、分からなかった。
「……死、ぬ?」
風流と流星はミリアの様子に申し訳なけなさを感じて、けれど。二人はさらに小さなミリアを傷つけるだろう言葉を続ける。続けねばならなかった。ゆっくりとした口調で、これから起こる事なんて取るに足らないと言うように、僅か微笑みさえ浮かべて彼女たちは自分たちの未来を。
「聞いてちょうだい、ミリア。流星姉さんも私も、ここに連れてこられたときに説明を受けたわ。何の為に連れてこられたのか。ここでどんな実験が行われるのか。それがどんな結果を生むのか……」
「……聞いたときは驚いたわ。そんなに凄いこと本当にできるの、って。風流姉さんが目を丸くして驚いていたから、きっとあたしも同じ顔で驚いていたはずね。そして、ミリアにはこの実験が何なのか、正確に伝えていない事も、あの女性は言っていたわ」
二人の声が揃う。
「「次元壁崩壊因子証明実験」」
瞬間、「――ッ!」とミリアの眼が限界まで開かれた。
それを見た風流と流星は、ミリアが大よその見当がついたことを知る。
「とても大人びた白衣の女性の言っていた通り、ミリアは天才なのね。流星姉さん」
「そのときの彼女の眼は、まるでミリアを自慢しているようだったわ。風流姉さん」
「「だから頼まれたのね。別の世界でも仲良くしてやってくれって」」
言葉を聞いて、ミリアの頭が跳ね上がった。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした子供の泣き顔が、そこにあったのだった。
次回 「 転んだら転びっぱなしな奴っているよなあ、とか言ってるそこの君は本当に努力を続けられるんですか無理ですよねw(5 」(省略形サブタイトル)




