「 過去から未来への話は過去への想いを整理してからなんて思ってることが草繁茂なんですけどw(7 」(省略形サブタイトル)
「あのね、今日はターゲットの家で、お世話になることになったから。迎えは……その……。それに、このままミリアがいなくなったら心配させちゃうっぽいし」
『……、そうか』
「ほ、ほかにも……数値入力の為の存在として、あの双子は必要になるはずだから、その、ミリアが風流と流星のそばにいた方が、なにかと便利っぽいし……」
『そうだな』
「えと、だから……うんと……」
言い澱む。予定では今頃、自宅のベッドで寝ているはずだったのだから。子供の勝手な判断で家を空ける。こんなこと、天才でなくても怒られるとしか思えない。短い間、互いの口が閉じられた。――けれど。
『ターゲットの名前――』
踏み出すのは九条だ。
『――ナガレにナガルというのか』
「あ、うん……そう。宙乗風流と流星、だって教えてもらった」
『二人は、良くしてくれるか?』
「んー、二人とも九条に似てるっぽい。ちょっとだけ……」
『そうか』
「……うん」
『なら、潜入任務続行だ』
その瞬間、ミリアの顔に驚きと喜びが同時に浮かんだ。
「いいっぽいの?」
『ああ、いいさ。いいに決まってる。確かにミリアの言うとおり、その二人の近くにミリアが居てくれた方が何かとやりやすい。それに、初めてじゃないか』
「初めて?」
『ああ。孤児院から私が引き取って以来、ミリアが私以外の人間に興味を持ったのは』
「そんなことな――」
『――い訳ない。いつも見ていた私が言うんだからな』
ふうと九条は一度息を吐いて、くすりと笑う。
『いいかい、ミリア? ターゲットはミリアにとって研究対象かもしれない。けど、友達になれないわけじゃない。だからもし、その双子と仲良くなりたいと思うなら、大切にしなさい。ミリアが思う方法で、大事にするんだ。そうすればきっと、ミリアは今よりももっとすごい天才になれるから』
言われたミリアは、見た目通りの年齢さながら、嬉しさと照れが混ざった奇妙な顔を作った。
「ミリアはこれ以上天才にならなくても良いっぽいかもだけど、九条がそういうなら大事にしないこともないっぽい。しょ、しょうがないな。まったく……」
九条は通信機の向こうでミリアの言葉に忍び笑って、『さて、もう遅い時間だ。これ以上起きていたら明日の学校に遅刻してしまう。せっかく仲良くなれそうな相手を見つけたなら、彼女たちと一緒に学校生活を楽しむ努力をしなければね』
「言われなくても。ミリア、学校くらいちゃんと行けるっぽいし」
『そうか? なら、今日はここまでだ。でも、ちゃんと連絡は入れてくれよ?』
「分かってる。九条心配し過ぎ」
『当たり前さ。私はミリアのママなのだからな』
じゃあ、また明日な――と九条が話を終わらせて通信を切ろうとした、その直前だった。
「まって……!」
ミリアは、自分のことをママと呼ぶ九条の言葉を聞いて迷い、迷いを噛み潰すように口を開いた。分かっている不思議を、分からない答えを――聞くことを足踏みさせる真実を知る為に。
「九条が……、九条がミリアのママなら、教えてほしいっぽいことがあるんだけど」
『ママ、なら……? なんだい藪から棒に?』
ミリアはそこでいったん呼吸を挟んでから率直に問う。
「九条が――ううん。研究所のみんなが何を目指しているか、教えてほしいっぽい」
その言葉をミリアが発した瞬間、沈黙が蟠った。時間にすれば一秒もなかっただろう。けれどその沈黙は、夜だからというにもなお暗い影を、二人の間に横たわらせるものだった。
『はあ……何を言うかと思えば。ミリア、私たちが目指すものなんて昔から何一つ変わっちゃいないよ。世界の平穏と、ミリアの――』
「――幸せのため」
かぶせるのは幼い自分の不器用な言葉。
「九条はいつもそう言ってる。そんなの、わかってる。何度も何度も言ってくれたの、覚えてるから……」
『なら、他に何を言えばいい。それとも、私が嘘をついていると言いたいのかい?』
「ち、ちがうっ! そうじゃないっぽい。そうじゃ、ないけど……でも、ミリアだって分かるんだ。九条が……周りのみんなが、ミリアにだけ何か隠してるのは……」
『……』
肌に冷たい秋の夜風がミリアの髪を揺らす。小さな手をぎゅっと握りこむ。
「ミリアは、自分がまだ子供だって分かってるっぽい。九条も、研究所のみんなも、ミリアにやさしくしてくれるし、いけないことをしたら叱ってくれる。それはミリアを大切に思ってくれるからだって、分かってる……けどっ! ミリアだっておんなじ研究してるんだよ? おんなじ研究所にいるんだよっ? だったら同じ場所に、九条の隣に、立って居たいんだよ……」
それは、心からの願いだった。実の親子以上の隔たりが見え隠れする、養母と養女の心の会話だった。
理解力や応用力がずば抜けているが故に天才であり、施設にいたときは絵本を読んだり、一人で施設横の公園の地面に公式を書き連ねたりしながら過ごしていた。周りの子供達と遊ぼうにも理解力が高すぎて話が合わず、応用力が高い所為で施設の大人に気味悪がられることが日常だった。だからミリアにとって、自分が話す言葉に興味を持って、自分が話す言葉を褒めてくれる九条のような人間は初めてだった。
しかも、自分を娘として受け入れてもくれた。
そんな九条に、隠し事をされている。それは――。
「本当は、本当はね、九条が教えてくれるまで我慢しようと思ってた。ミリアは子供だから、教えられないこともあるんだって納得しようとしてた。でも……駄目だった。無理だった。だって……だってね。ミリア、かなしいんだよ……九条に内緒にされたら……さみしいんだよ」
『ミリア……』
九条は、養女たるミリアの心の内を知って僅か、言葉を詰まらせる。一拍、自分の思いを整理するような間が、何かを噛みしめる間が、勝手に開いてしまう。
『……。これも、初めてだな。ミリアが私にそういうことを求めてくるのは。何だか、嬉しいよ。私のような人間にも母性というやつはあるらしい』
夢を目指す為の足掛かり以上の感情が芽生えるなど、出会った当初の九条には想像もできなかった。しかしそれは確かに凝った胸の一部分を温めていて。だからこそ。
『でも、言っただろう? 私が考えるミリアの未来に、光は見えたんだ。ミリアが心配することなんて、なにもないんだよ。それに、その時が来れば嫌でも分かってしまう事だからね。それまで、待っていてはくれないか?』
九条は通信機の向こうで当たり障りのない言葉を羅列して、お茶を濁す事を選択した。ミリアの想いに気付かないふりで傷つけて、今は早いと問題を先送りにする為に。
『おっと、どうやら呼び出しだ。悪いね、もう通信を切らないと』
「待って! ねぇ、ママ――ッ!」
『じゃあ、ね』
ピッ――、と。無情な響きを持って、通信が切れた。
秋の夜風が虫たちのコーラスを静かに運び、月の光に濡れるミリアの髪を梳くように撫でる。さっきまで褒められたことの嬉しさに緩んでいた口元はまっすぐに引き結ばれ、何かを我慢するようにふるふると揺れていた。
ミリアには分からなかった。
求める事は我が儘になってしまうのか。
もし我が儘になるのなら、それは口に出してよかったのか。
天上に滲む月を見上げて鼻をすするミリアは、行く当てのない呟きを零した。
「ばか」
次回 第五話 「 転んだら転びっぱなしな奴っているよなあ、ほら、夢だ目標だって言いながら数か月の努力と一度や二度の挑戦が失敗したからって諦めちまうようなさあ、とか言ってるそこの君は本当に諦めずに十年二十年の努力を続けられるんですか無理ですよね?w(1 」




