「 過去から未来への話は過去への想いを整理してからなんて思ってることが草繁茂なんですけどw(5 」(省略形サブタイトル)
【四】
はっきり言おう、幼女がひん剥かれようとしていた。
「みゃーっ!」
叫び声は、双子姉妹の風流と流星が暮らす広い日本家屋の浴室に隣接した脱衣所で上がており、年齢不詳のこの家の主の妻を、台所でにこやかに微笑ませていた。
「やめ、やめろって言ってるっぽいんだけど! みゃっ! スカートをめくるなあ!」
正真正銘の幼女であるミリアはみゃあみゃあと騒ぎながら、悪魔のような双子金髪サイドテール素っ裸姉妹の魔の手から逃れる為に必死にスカートを押さえて、脱衣所を走り回る。
「ミリアは天才――天才なのに! こんな所でやられる訳にはいかないっぽいーっ!」
だが、いくら逃げ回っても所詮は二対一。幼女一人を捕まえるのに時間など必要ない。グバァッ! と、流星がミリアを後ろから抱きしめる様に拘束する。
「ミリア、捕まえた」
「こら、放せっぽい! この淫行変態女子高生! はーなーせーよーぅ!」
悲しいかな。人間、放せと言われて放す奴はそういない。
「高校なら一度卒業しているのだけどね……風流姉さん、いまのうちに」
「ここなら女子高生でも間違ってないのよね……分かってるわ、流星姉さん」
「言ってる意味があああああああああああああああああああ―――――――っ!」
そんなミリアの叫びを無視して、シュバババババーッ、と。風流の手が瞬いた。直後、ミリアの視界が黄色く染まり、『予測不能』の文字が透ける。
(そんな……AMレンズ(科学技術)が認識できない領域、だとぅ……!)
ぴきゅぃーん! とフラッシュする視界の中、上着、スカート、靴下をはぎ取られ、残るはパンツのみとなった――まさに、そのとき。
風流の手がビタッと止まった。お姉さん的切れ長の目が驚愕に見開かれる。
「生意気ね。流星姉さん、この子ったら白フリルのオーフロントなんて履いているわ」
「あたし初めて見た。このくらいの年の頃は熊さんパンツがお似合いなのに……」
風流と流星は互いに悔しそうな顔を僅かばかり浮かべて、しかし。
「――でも」
「……そうね」
次の瞬間には、勝ち誇ったように声をそろえるのだった。
「「やっぱり、生えている方が勝ちよね」」
「幼女相手に何言ってんだこの双子! 頭がおかしいっぽいんだけどーっ!」
ミリアは当然のことを叫ぶが、風流と流星の耳には届かない。勝ち誇った顔のまま何度か頷く双子は、はっとした表情で何かを思い出したらしく、「でもまずは、お風呂よね」「そうね、まずはお風呂ね」と、何事もなかったようにミリアのパンツをはぎ取った。
「みゃーーっ! 物のついでっぽくパンツを脱がされた!」
「なら、すっぽんぽんになったついでにお風呂にも入りましょ」
「大丈夫、私たちも裸じゃない。恥ずかしがることはないわよ」
「別に恥ずかしがってるわけじゃなくて! ミリアは二人の眼に怯えてるっぽいし!」
「怖がらなくていいのに。ねえ、風流姉さん?」
「流星姉さんの言う通り、怖がらないでいいの」
ふふふふふふふ、と。二重奏のような笑い声が不気味に響く脱衣所。甘く蕩けたように双子は笑みを作った。
「「だって、お風呂は気持ちのいいところなんだから」」
「ひいぃ! 知ってるよ、ミリアは知ってるっぽいよ! 九条がそんな顔するとき、決まってミリアはッ! ミリアは――――――――――――――――――――ッ!」
その叫びが最後、幼女であるミリアは、実に蜜溢れる甘露な風呂場へと、連れ込まれていくのであった……ッ!
並行時空領域世界――TB‐GYU3900332、という世界にて。
さて、ここでいくつかの疑問を解消しよう。
まずは。
何故この世界で『一般人グループ』より立場が上の『科学者グループ』に属しているミリアが、風流と流星という双子の姉妹に接触し、あまつさえ風呂場で弄ばれているのか、というところについて。
手短に言おう。
『双子姉妹の存在が記憶している時空振動パターン』を計測する為だ。
もう少しだけ言えば、時空振動パターンとは、世界ごとに違うとされている『空間が持つ揺れ』のことで、ミリアはそのパターンを計測するために双子に接触した、ということになる。例えばそれは個々の物体がもつ固有振動とは別物で、Aという世界にはaという振動が万物にあり、Bという世界にはbという振動が万物にあるという考えの中で成立する、すべての物体ないし流体が共通の特殊振動を持っているというもの。
で、あるならば。
風流と流星から検知される時空振動パターンと、ミリアたち科学者グループの知るパターンに差異があれば、それはパラレルワールドの証明、ないしは足掛かりくらいにはなる画期的な発見に繋がる。だからミリアは小さな体で頑張っているのだ。淫行変態女子高生に現在抗っているのだ……ッ!
そして、もう一つ。
この話を聞けばさらなる疑問が浮かぶはずだ。
――おい、まってくれ。どうして双子姉妹はこの世界の住人ではないだろうと疑われ、ミリアという科学者グループの幼女に個体の持つ時空振動パターン(?)を計測されようとしているんだ? という疑問が。
けれどこれは簡単な話で、並行時空領域世界――TB‐GYU3900332というこの世界は、住人全てを一括管理している世界であり、管理されている町に突然人間が二人も増えれば管理する側が気付かないはずがない、というごく単純な話だ。
だからこそ、ミリアが使いに出されたという話に繋がる。
さらにさらに。
最後の疑問として、何故ミリアが風流と流星の毒牙にかかって風呂場へと連れ込まれているのかという話になるが、それは時空振動パターンの計測方法に起因していると言って間違いなかった。
そも、一つの世界に共通する時空振動パターンとは、前述したとおり、空間それぞれが持つ共通の揺れの事なのだが、ここで出てくる『空間』というものの定義が些か変わっていて、『人間』『犬』『地面』『樹木』『池』があったとしたなら、それぞれを『個別の空間』と捉え、その内部にこそ世界共通を表す揺れがあるとするものだ。
それは『個別の空間』が確立する境界の内側でしか計測できない物でありながら、不思議と共通する数値であり、世界それ自体に元々あるナンバーないし名前にあたるものである。
そして、そう。ミリアが風呂場へと連れ込まれた原因はここにあるのだ!
前述した通り、時空振動パターンとは、個別の空間の内部でしか測れない数値。ならば当然、計測機器を双子姉妹の内部へと挿入しなければならない、という事になる。であれば、双子姉妹に接触しなければならないのは、言うまでもないだろう。
幸いと言うべきか、計測器は直径五ミリ程の棒状であるため隙さえ突ければどんな穴にも突っ込んでしまえるし、棒アイスやフランクフルトにでも偽装すれば油断を誘える形状だ。
だが、ミリアの現状を考えれば、成功したのか失敗したのか、想像出来るはず。
例を上げるのなら、もうすでに棒アイスやフランクフルトといった偽装作戦は言わずもがな実行している。しているのだが……。
棒アイスの時は学校の中庭で――、
「こんにちは、お姉さん。ミリア、今日転校してきたばかりで、分からないこといっぱいあるっぽいけど、仲良くしてください。お近づきのしるしにアイスをどうぞ」
「あら、白濁したミルクアイスを突然お近づきのしるしにと渡されたわ、風流姉さん」
「ええ、きっと耳だけは早いのね。白濁したミルクアイスで、なんて……流星姉さん」
「……え、っと。お姉さんたちは一体何を……?」
「「何って、貴女が誘ったんじゃない。大丈夫、唇以外なら好きにしていいわ」」
「あわ、あわわ、あわわわわ――ッ!」
と、ミリアは恐ろしい何かを双子の笑みに垣間見て脱兎のごとく逃げ出したし、
フランクフルトの時は屋上で――、
「あの、さっきはごめんなさい。急に用事っぽいこと思い出しちゃって。お詫びってわけでは決してないけど、昼休みですし、フランクフルトをどうぞ」
「……風流姉さん、今度はこんな所で逞しいほど極太のフランクフルトを渡されたわ」
「流星姉さん覚悟を決めて。油が日を照り返すフランクフルトに負けないように……」
「あの、このフランクフルト、食べてくれるんですか……?」
「「ええ、頂くわ。貴女には少し早いと思うけど――大丈夫、病み付きにさせてあげるわ」」
「ひえ、ひええ、ひええええ――ッ!」
と、ミリアはAMレンズが反応しない危険を本能的に察知して、猫の気配に気づいた鼠のように逃げ出したし、
もういっそ自分の力で突っ込んでしまおうと思った帰り道では――、
「ミリア、もう怒った! 九条みたいな淫行好きに手加減する必要なんてないっぽいし、はじめから浮遊粒子加速機搭載シューズの性能をもって背後から奇襲すればこんなお使い失敗するはずがないっぽ――!」
「あら、バナナの皮が道路一面に。罠にしてもお粗末だと思わない、風流姉さん?」
「そうね、流星姉さん。罠ではないわよ。だって、これじゃ誰も引っかからないわ」
「なんだそりゃあ! って言いたいのはミリアだけじゃないっぽいんだけど何でこんな所にバナナの皮が――――――――――――――――――――――――――ッ!」
「「もし引っかかるお馬鹿さんがいたなら、顔を見てみたいものね」」
「むきー、ミリアはバカじゃないっぽーい!」
と、突然出てくるバナナの皮なんていう古典的コメディー展開に幼女であるミリアの心が付いていけず、瞬間移動じみた速度があだとなってそのまま宙を舞い、近くを流れる小川にダイブして大きな水柱を上げたのだった。――十歳前後の幼女にとって不運だったのは、きっと対象がこの双子だったという事だろう。
だって幼女の体がぐしょぐしょのびっちゃびちゃになっている所をあろうことかこの双子姉妹が見つけてしまったら、悲しいかな、こうなることをもう必然でしかない……。
「風流姉さん、あれ。幼女が一人、小川で戯れているわ」
「でもこの時期の小川じゃあ風邪を引くわ、流星姉さん」
「ハッ! もしかしなくても今がチャンスに間違いな――」
「「ならいっその事、家に連れ帰ってしまいましょう」」
「みゃーっす! なんかいい感じに接触する事は出来たけど、この背中を走りまくる悪寒の理由は双子姉妹の眼つきからくる妖しさっぽいんだけどーっ!」
「「ふふふふふ、ふふふふふふふ、ふふふふふ……」」
閑話休題。
話を戻そう。
風呂場で色々と弄ばれてしまった天才幼女のミリアは、皆が寝静まった深夜、両サイドから絡みついてくる双子からどうにか抜け出して、連れ込まれた家の厠に来ていた。
耳に付けた通信機から届けられる九条の声に安心してしまう自分が、何となく子供っぽくて嫌な、傷心幼女ミリアなのだった。
次回 「 過去から未来への話は過去への想いを整理してからなんて思ってることが草繁茂なんですけどw(6 」(省略形サブタイトル)




