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「 過去から未来への話は過去への想いを整理してからなんて思ってることが草繁茂なんですけどw(4 」(省略形サブタイトル)

【三】


 学校からの帰路の途中にある、『粉』という行きつけのお好み焼き屋でのこと。

「ぶぇーくしょんッッッ!」


別世界での恨み言に反応するようなタイミングで、宙乗双治(そらのそうじ)はくしゃみをした。ばぁー、と唸りながら学ランのポケットに手を突っ込み、使用済みの様に丸まったポケットティッシュを取りだした。


「なんや、風邪か?」

「いや、埃でも吸い込んだんじゃないか?」


 ティッシュを丸めて店のゴミ箱に投げ入れる。

 一緒にご飯を食べる相手はいつもならエルだけだが、今日は昼休みに自業自得と言うには憚られる理由で酷い目にあった友人――浜田も一緒だった。


「ははあ、あれや。可愛い女の子が宙君の噂してんのとちゃう? 宙君好き好きー、言うて」

「ンな訳ねぇって。何一つ誰かに好かれるようなことしてねぇんだから」

「何言うてますの。宙君ったら男前ですやん? 男前言うたら、そら好かれますがな」

「男前? 俺が?」


 鼻から息を抜きつつ、大きいヘラでお好み焼きを切り分けて、一枚を自分の皿に乗せる。もともと掛けてあったマヨネーズを追加して、さらに七味をふりかけて口に運んだ。熱いお好み焼きにハフハフ言いながら飲み込めば、どこか懐かしい天かすの香りが鼻から抜ける。


「つーかな、浜田。もしそれが本当だとしても、今の俺にそんな余裕はねぇ。俺にはやること……んにゃ、やんなきゃならん事が山積みなんでなあ」

「やらなきゃならん事って、あー……、家族探しか?」


 声のトーンと音量が下がっているのは、浜田なりの気遣いか。


「まあ、そういう事だよな」

「けども、宙君……そらあ……」


 浜田は言葉を詰まらせた。

 約一年前、一躍時の人になった双治の事はメディアを通じて、そしてクラスメートになってからは友人として言葉を交わすうちに少しずつ知ることが出来たが、知れば知るほど双治がやろうとしている家族探しが大変ないしは不可能なことだと、浜田は思い知らされていた。


 当たり前だろう。


 仕事も買い物も家から一歩も出ずに済ませられる現代社会において、メディアと警察が総力を挙げても見つけられなかったものは、もうすでにこの世界にない物だけだ。この世に無い物――つまりは、もう死んでいる人物を探しだすことは不可能という事。それは海難事故に見舞われ、魚の餌になった人間を見つけることが不可能なように。核爆発に巻き込まれ、影しか残らない人間を生前の姿で救うことが不可能なように……。


 確かに、百パーセント死んでいると言い切ることは出来ない。地球上をくまなく、一斉に調べ上げることなど今の科学技術では不可能だ。

 しかし、情報社会で人間が四人暮らすには、必ずどこかに痕跡は残る。隠しようがない。人里離れた深い山奥で自給自足すれば……なども当時考えられたことだが、深い山奥で完全な自給自足を行うにしても、自給自足のサイクルを作り上げる機材や必要物資を現代社会で手に入れるには動くしかない。だというのに――。


 浜田の表情が曇る理由としては、これ以上はないだろう。

 そしてそれは、家族が『世界の傷』などという馬鹿げたものに飲み込まれた瞬間を実際に見ている双治にも、そう間違った反応ではなかった。何故って、広大な宇宙空間に漂う星と塵を合わせた数より多いのが、並行時空領域に存在する『世界の数』だ。炭素系生命体が活動するのに適した環境として発展しなかった地球という世界もあるし、たとえどこか別の世界に飛ばされている家族が生きて、生き残っていたとしても、地上に存在する砂粒より多い世界から探し出すのは容易ではない。そんな事、本人が一番に。


(分かってんだよなあ……)


 でも。

 それらを理解した上で、強がれる。強がって、気負った様子を見せず、残ったお好み焼きを食べながら言うことが出来る。口角を持ち上げて見せられる。


「浜田が言いたいことは分かる。そりゃあ、俺みたいなガキが全力を出したって毛ほども役に立たない事ぐらい分かっちゃいるさ。世界はでかい。甘いもんじゃない。十分に思い知ってもいる」

「なら……」

「――家族なんだよ」


 双治はまるで、笑い話でもするような雰囲気で肩を竦めた。


「世界のどこにいるかもわからないけど、世界が見放したからって、俺まで見捨てちゃあ本当に死んだことになっちまう。それは許せないんだ」

「そらきゅん……」


 言われた浜田は呆れた様に、あるいは眩しい物でも見る様に目を細めた。その眼が少し潤んでいるのは、今の言葉に何か感じるものでもあったのかもしれない。

 しかしそんな浜田を、双治は一言で断じるだった。


「 なんだ、気色悪ぃ」

「なっ! 気色悪いとはどういうこっちゃ」

「言葉のまんまだ」

「ひどいなあ。豚玉に豚肉が入ってなかった時よりひどいで」

「それは酷いな」

「せやろ? あそこん()のばあちゃん少しボケててな……って、そら家の婆様やないかい!」


 なははははー、と浜田が笑い、つられるように双治も少し笑う。そして、笑いを引っ込めた浜田は呟くように言った。


「無茶苦茶やね、宙君。憧れるで、ほんま。その真っ直ぐな強さには」

「強い? 違うね、諦めるのが嫌なんだよ。んにゃ、ただしつこいだけかも」

「それでもや。きっと宙君のそういう強いとこ、好きになったんやろなあ、わし」


 浜田がそう言ったタイミングで運ばれてくるもんじゃのタネ。運んできたお姉さんは浜田の言葉を聞いて頬を赤くすると、一度何かを考える様に目を泳がせて、それからにこりとほほ笑んだ。


「頑張ってください!」

「ごめん、浜田。俺、ノーマルなんだ」

「ちょっ、まちいや! そんな意味で言ったんとちゃう! わしは宙君の心意気っちゅーか、目には見えない心の強さをだなあ!」


 と、そのとき。


「ぐわああああああああー、あたしのイカ天がなくなっとるやないかーいっ!」


 双治の背後、浜田の口調がまるっきり移ったエル・サウシスがトイレから帰ってきた。唇が少し腫れているのは、激辛チョリソーロシアンルーレットとかいう店の商品の大当たりに見事的中したからだ。


「おー、お帰り」

「おー、お帰り――じゃないっ! あたしのイカで天で焼きはどこに消えたのって聞いているんだよぅ!」


 喚きながら、両手を胸の横でぶんぶん振って怒っていることをアピールするエル。

 それを見た双治は「あー、それなら」と少し考えてからにやりと笑って浜田を見た。

「浜田が全部食ってたぞ?」


 びっくぅーっ! と肩を揺らして目を見開く浜田。


「はあ? 宙君それはあんまりやでっ! 宙君やって食いましたよねーっ!」

「浜田、人を巻き込まないでくれないか……はあ」

「なんちゅうお人やっ! あかん、チョリソーが今頃になって目に染みるわ!」

「そうか。自分の過ちを思い知って、涙が出るか」

「ちゃうっ! 現代人の人情のなさを嘆いとるんや!」

「まー、どうでも良いけど、今度のピンチは切り抜けられるか、見ててやるよ」


 直後だった。本場のエクソシストが必要なんじゃないかと思えるような、暗く冷たく恐ろしい色になったエルの声が、浜田の耳にヌルリと忍び込んだのは。


「またか……またなんだね……こんの銀髪アロハのグラサンバカ! 今度こそ食べ物の恨みってやつをおもいしらせてやぁるうぅうううううううううううううおあああ!」

「わっ、ちょ、まあーーーーーーー! 殺生やで宙くぅうううううぅうん!」


 と、店内でドタバタと暴れる二人。行きつけだからか、客も店員も怒ることなく、その光景に笑っていた。

 何でもない光景の中で、けれど。双治だけが皆と一緒に笑いながらも、今まで幾度となく反芻してきた想いと、家族を見つけ出すという困難を、改めて胸に刻み込む。自分自身の強さを、いや、諦めの悪さを維持するために、とても強く拳を握って。


(必ず修正(リセット)してやる――世界……!)


次回 「 過去から未来への話は過去への想いを整理してからなんて思ってることが草繁茂なんですけどw(5 」(省略形サブタイトル) 

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